第35話 「いい運動になりましたわ」
ゲイオルグとの死闘を終えて、西の村を目指し走るラミス。
……五つ目の村に、姉達は居るのだろうか?もし居なければ?……その時は、他に探す場所すら見当がつかない。
「…………。」
いや、必ず姉達は居る。……そう心に何度も言い聞かせながら、ラミスは走り続けた。
長時間走り続け、ようやく村の付近の森へと入るラミス。
──!?
大勢の人影が見えた。……ヘルニア兵だ。
数は、分からない。ここから、見えるだけでも百強。……恐らく総勢二百は、くだらないだろう。
村を襲っているのは、間違い無いのだが……。それにしては、何やら慌ただしい雰囲気が感じられる。
よく見ると、ヘルニア兵士の中には負傷している兵士の姿も見えた。……それも、一人や二人ではない。
つまり……。
──戦っている者がいる!?
味方の兵は何人?……姉達は居るのか?
もし味方の兵がいるなら、これほど頼もしい事はない。二人の姉達が居るなら尚更の事だ。
ラミスは敵兵に見付からない様に遠回りをし、村の裏手へと回り込む。
「……姫様申し訳ありません、俺が不甲斐ないばかりに。」
村の一室のベッドで寝込み、苦しみながらも謝罪をする一人の青年クリストフ。
……彼は片手片足を失い、体にも大きな傷を受け瀕死の状態にあった。
姫と呼ばれたその女性は、何も言わずクリストフの手を握りしめる。……その手は微かに震えていた。
──ドガッ!
突如扉が開けられ部屋の中に、ヘルニア兵士が入って来た。
「ヒャッハー!探したぜぇ!!」
ヘルニア兵は、姫と呼ばれる女性に掴みかかる。
「きゃあああ!」
「くっ……。貴様、姫様を放せ!」
クリストフは必死に立ち上がろうとするが。力が入らず、そのままベッドから転げ落ちた。
「ハーハッハッハァ!ザマァねぇなあ、騎士様よぉ!!ハハハハハハ!!!」
──ゴキィッ!!
笑うヘルニア兵の顔に、膝がめり込む。
「お姉様の、お声が聞こえましたわ。」
ラミスの真空飛び膝蹴りが華麗に決まる。
「ラミス……。ラミスなの!?」
姉に呼ばれ振り向き、手をグーにしながらにっこりと微笑むラミス姫様。
「しばし、お待ちになって?お姉様。すぐに片付けますわ。」
そう言いながら立ち上がろうとする敵兵を、鬼の様な威力の拳で殴り続けるラミス姫様。
──ドカッ!バキッ!ゴスッ!メリメリィ!!
「お姉様に手を出そうなんて、不届きにも程がありますわ。」
いい汗かいたーみたいに、にっこりと微笑みながら汗を拭うラミス姫様。
「ふぅ。」
「えっ、ラミス?えっ……。ええっ!?」
「ひ、姫様?」
……ぽかんと口を開け、唖然とする二名。
──!?
ラミスはクリストフの姿を見て、すぐに駆け寄り。……そして、クリストフの頭を抱き抱えた。
「こんな姿になるまで、お姉様を守る為に戦って下さったのですわね……。貴方こそ、我が公国が誇る英雄ですわ。」
「姫様……。なんと、勿体無き御言葉。」
姉が心配であっただろう……。その姉よりも先に、部下を労うラミスのその姿と言葉に。……クリストフは感激し、涙した。




