第31話 「穏便に解決致しますわ」
「ま、また……。負けてしまいましたわ。」
またもや牢の中で真っ白に燃え尽き、ラミス姫の口の中からは小さなラミスがこんにちはをして。「ムリですわー」と手をぱたぱたさせていた。
ラミスは冷たい地面の上で寝転がりながら、虚ろな瞳で天井を見上げ。……ひっそりと呟いた。
「私も、まだまだですわね……。」
ゲイオルグに負けている程度では、あの強靭で無慈悲な化け物……。豚には、絶対に敵わないだろう。
『9137回目』
ラミスは気を取り直し扉を開け、再びゲイオルグに戦いを挑む。
……のだが。
「負けましたわー。」
顔を可愛く、>_<の字にして悔しがるラミス姫様。やはりハイヒールでは……。ふりふりのドレスでは戦い辛い。
「あんまりですわー。」
じたばた、じたばた……>_<
「横暴ですわー。」
ごろごろ、ごろごろ……>△<
──否!
──ラミスはカッ!と目を見開く。
……カポエィラという武術がある。それは手を縛られた奴隷達が編み出した、手を縛られた状態での足技主体の武術。限られた環境の中で最善を尽くし、それを極限まで昇華させた武術なのである。
……それは姫神拳も同様である。男性よりも力が劣る非力な淑女達が、ドレスやハイヒールという限られた環境の中。力では無く技で悪漢を殴り倒す。……それが姫道。
淑女が嗜む活け花の様に、またお紅茶の様に……。
乙女の嗜み、茶道、華道、書道、香道、戦車道、薙刀道……そして姫道。
この七つの道こそツインデール公国の淑女の嗜み、七道なのである。
争いを嫌う可憐で麗しき令嬢達が、博愛の精神と慎みを持って冷静に、そして平和で穏便に暴力で解決する……。
それこそが、"姫神拳"なのである。
ラミスは今こそ初心に戻り、ゲイオルグとの決闘に挑んだ。
『9138回目』
──したたたたたたたた!
──ドカッ!
「プリンセスキックですわ。」
久々の初手ドロップ。
豪快に吹き飛ぶゲイオルグ。
二人の姉に会う為、妹ミルフィーを救う為。そして、愛する国民達を救う為……。ラミス姫は、こんな所でもたつく訳にはいかないのだ。
──ラミスの拳が唸り、鋭い連撃がゲイオルグを襲う。
今回は何とか勝利し、何時もの手筈で脱出を試みる。
「……待っていて下さいませお姉様。今、ラミスが参りますわ。」
まだ見ぬ姉を探し求め、ラミスは走り出した。




