第30話 「ハイヒールでは闘いにくいですわ」
ミルフィー合流ルートは、今の所失敗である。
……では先に姉リンか姉ナコッタを、探しに行こうと考えるのだが。そうなるとミルフィーはヘルニア兵達に捕らえられるか、または豚に殺されると言う危険性がある。
そう考えると……。ラミスの胸は苦しい程締め付けられ、胸が張り裂けそうになった。
……しかしそれは、二人の姉達も同じ事なのだ。
「落ち着くのよラミス、今自分に出来る事は限られてるのよ……。」
……そう今のラミスに出来る事など、かなり限られているのである。ただでさえ無力な姫君であり、しかもラミスはたった一人なのだから……。
ラミスは今一度冷静になって考え、姉達が他に居そうな場所を推測する。
……捕らえられている可能性、まだ城内に居る可能性、北の街へ逃れている途中の可能性。
捕らえられている可能性……。
これは、今の所低いと思われる。ヘルニア帝国の第三王子、シュヴァイン王子がそう言っていたのである。
二日後には捕らえられる可能性はあるが、今の所捕らえられている可能性は低いと考えられる。
まだ城内に居る可能性……。
こちらも、かなり可能性は低いのではないだろうか?シュヴァイン王子は一人は逃げられ、もう一人は見つけていないと言っていた。
城内に隠れている可能性も、無くは無いのだが……。普通に考えて、城外に逃げていると考えるのが妥当だろう。
北の街へ逃れている、途中の可能性……。
これが一番、可能性が高いと考えられる。途中の村に立ち寄っているのか……。それとも、今この時ヘルニア兵達に捕らわれようとしているのか。
ラミスはこのツインデール城から北の街までに、五つの村がある事を思い出す。
「…………。」
「……村を探してみますわ。」
『9136回目』
ラミスは扉を開け、廊下の兵士ことゲイオルグの待つ廊下へと向かった。
「ごきげんようですわ、ゲイオルグ。」
「……貴様、何故俺の名前を!?」
ゲイオルグは一瞬驚き戸惑うものの。すぐに構え、ラミスに剣を突き立てた。
──ギャイン!
ラミスは、それを脚で払い除ける。
──ドガガガガ!!
ラミスの強力な連撃が炸裂する。
「なっ、何ぃ!?」
またもや驚き戸惑うゲイオルグ。……そしてラミスは華麗に宙を舞う。
「プリンセスキックですわ。」
──ドカッ!
ゲイオルグは豪快に吹き飛んだ。
「ぐあっ!!」
……ゲイオルグが驚くのは無理もない。いきなり麗しい令嬢が現れ、華麗な足技からのドロップキック。そして屈強な戦士、ゲイオルグをも圧倒する脚力。その光景には、誰しもが驚き戸惑う事だろう。
「そろそろ、あれを試しますわ。」
ラミスは瞬時にゲイオルグとの距離を詰め、強烈なローキックを放つ。
──ドガッ!ガガガッ!!
ローからミドルへ、そこから更にハイキックヘとつなぐ"コンビネーションキック"!
「プリンセス"コンビネーション"ですわ。」
見事に決まり、よろけるゲイオルグ。
「これで、フィニッシュですわ。」
ラミスは華麗にくるんと体を一回転させ、ゲイオルグの後頭部目掛けて鋭い回し蹴りを放つ。
七式プリンセス"コンビネーション"からの、三式プリンセス"延髄"。
……これがゲイオルグとの死闘の最中、ラミスが自ら編み出した姫神拳"奥義"八式プリンセス連脚である。
──すぽっ。
突然ラミスのハイヒールが外れ、宙を漂うハイヒール……。
ラミスは体勢を崩し、足を滑らせラミスの体も宙を舞った。
「……あら?」
ゲイオルグは、隙を見て剣を振り下ろす。
「……やはり、ハイヒールでは闘いにくいですわね。」
頬に手を添え、ため息混じりに呟くラミスの意識は……。そこで、途絶える事となる。




