第28話 「豚さんが五匹もいますわ」
「な、何だ……。あの化け物は……!?」
初めて見る恐ろしい怪物の姿に、城壁を衛る兵士達が騒いでいた。
ラミスは急いで走り、外の様子を確認する。ヘルニア帝国軍の兵数は、約二千強。
……そしてその先頭に、居る。あの化け物が……。しかも五体。
こちらに兵士が二千居る、とは言え……。あの化物を、一体でも倒せるか?
と言えば、答えは恐らく"不可能"と言わさざるを得ない。
……しかも五体もいるのだ。奴の鋼の様な外皮には、ガルガ隊長ですら傷一つ付ける事が出来なかった。
ラミスはその光景に、絶句し言葉が一つも出なかった……。
「豚さんが、五匹もいらっしゃいますわ。」
……はい、出てましたー。
兵士達は、その怪物に懸命に弓を放った。……しかし当然の如く、豚に傷一つ付ける事は出来ない。
「何だ!?あの化け物は、弓が全く効いていないぞ!?」
「あの様な化け物が、この世に存在筈が……。」
兵士達が驚き戸惑う中、ガルガ隊長が急ぎラミスの元に走って来る。そして化物の異様な姿に怯え、戸惑いの表情が隠せないガルガ隊長。
「あ、あれが……。姫様の話にあった化け物、豚ですか……。何と面妖な……。」
豚は兵士の放つ、大量の弓を物ともせず城門目掛けて突進を始める。
──ドガッ!!
城門をぶち破ろうと、豚達は棍棒で城門を殴り続けた。
「これは、不味いですな……。」
ガルガ隊長の言う通り、この状況はかなり不味い。市民の避難も完了していない上、ホースデール王国の援軍もまだしばらくは時間が掛かるだろう……。
絶体絶命の、この状況。ラミスに出来る事は……。いや、ラミスがやるべき事は──。
「やる事は、決まってますわね。」
ラミスは凛とした表情で、豚を睨み付ける。
「ミルフィー、よく聞いて。今すぐにホースデール王国に避難するのよ。ガルガ隊長、ミルフィーを。……妹を頼みましたわよ?引きずってでも、連れていって下さいましね。」
「……姫様?」
「お、お姉様?」
ラミスは二人の言葉を聞かず、そのまま城壁から飛び降りた。
「姫様ー!!」
「嫌ァァァアアア!お姉様ーー!!」
──!!
──落下中、途中で木の枝を掴み多少衝撃は和らげてみたものの……。確実に折れては、いるだろう。
ラミスは城壁の上の、ミルフィーの様子を見る。ミルフィーが泣きながら、何かを懸命に叫んでいる様子だった。
「心配しないで、ミルフィー……。貴方は私が、必ず守るから……。」
ラミスは改めて、目の前に立ちはだかる"敵"の姿を見る。巨大な豚の姿をした"怪物オーク"。……しかも五体。恐らくは勝てないであろう。
しかし、ラミスは戦わなければならなかった。……逃げる訳にはいかなかった。
民達の避難が完了していない今。城門が破られる様な事になれば、裏で待機しているヘルニア兵がが雪崩れ込み、多くの民達が犠牲になるだろう。
……ラミスはそれを、見たくはなかった。
この折れている足で、どこまで抗えるか?
……ラミスは覚悟を決め、豚に向かって走り出した。
「やはりこの豚さんは、私が倒さなければならない敵。……の様ですわね!!」




