第27話 「逃げる訳にはいきませんわ」
北の街に到着する、ラミス姫一行。ラミス達はすぐに、この街の領主である伯爵家へと向かった。
門番に挨拶をすると執事やメイド達よりも早く、伯爵が走りながらやって来る。
「姫様ー!!」
「姫様ぁ……。よくぞ、ご無事で……。」
「突然お邪魔して、申し訳ありませんわ。それで伯爵、この街にお姉様達はいらっしゃるかしら?」
それを聞いて伯爵は、少し顔をしかめた。
「ご、ご一緒ではないのですか?……この街にいらっしゃいましたのは、姫様達だけでございます。」
──!?
姉リンも姉ナコッタも、まだ北の街には来てはいない?……では、二人の姉達は一体何処に?
いや、この街に二人が来ていないとすれば残る可能性は二つしかない……。
一つ目は途中の村に寄っている、又はこの北の街に向かっている途中である可能性。
もう一つは。……既に、ヘルニア帝国に囚われている可能性なのだ。
……後者は考えたくは無かった。
助けに行くべきなのか?……しかし、今何処に居るかも分からないのだ。それに、もし囚われているのなら……。助け出すなら、それなりの規模の軍が必要になってくる。
「伯爵、ホースデール王国に援軍を要請して頂けるかしら?」
「はっ、姫様。既に使者は送っております。……しかし援軍は送る、との事なのですが。少しばかり時間がかかる様でして……。」
「…………。」
ラミスは今すぐにでも、走り出し姉二人を探しに行きたかった。……しかし。
「……待ちましょう。」
ヘルニア帝国の第三王子が言うには、まだ捕らえられず逃げられた。と、言っていた。
今のラミス達と同じ様に、この北の街を目指して向かっている途中なのかも知れない。
……そう信じて、待つしかなかった。
……しかし二日待っても姉達が、ここ北の街に現れる事は無かった。
代わりに現れたのは、ヘルニアの軍勢だった。
「急報!急報!!」
兵士が慌ただしく、伯爵家の門を叩く。その声はラミスにも届き、ラミスはすぐに伯爵の元へと向かう。
「一体、何事ですの?伯爵。」
「姫様、落ち着いて聞いて下され……。帝国が、ヘルニアの軍勢が攻めて参りました。数は、およそ二千から三千と……。」
姉達よりも先に、ヘルニアの軍勢が来た……。つまり姉二人は既に、帝国に囚われていると考えるしかない。……しかし天はラミスに哀しむ時間など、与えてはくれなかった。
「伯爵、こちらの兵の数はどの位かしら?」
「兵士の数は、およそ二千でございます。姫様達はすぐに、ホースデール王国にお逃げ下さいませ。」
「…………。」
「分かりましたわ、伯爵。でも先ずは民が先ですわよ?至急、民達を避難させて頂けるかしら?」
……ラミスは、逃げる訳にはいかなかった。国外に行くと恐らく、またあの現象が起きる筈なのだ。
「お姉様!!」
ミルフィーが、ラミスの胸に飛び込んで来る。
「…………。」
ラミスは優しい眼差しで妹を見つめ、こう話し出した。
「ミルフィー、よく聞いて?民達と一緒にホースデール王国に、すぐに避難するのよ。」
…………。
「お、お姉様は?」
「私は、少し見ておく必要がありますから……。後で合流致しますわ。」
ラミスは逃げる事が出来ないこの状況と、次回の事を考えて、見ておかなければならなかった。
「お、お姉様が行かれるなら、私もご一緒します。」
「……仕方ありませんわね。」
ラミス達は街を囲む城壁に向かった。
……しかしラミス達は、そこで目を疑う様な光景を目の当たりにし、言葉を失ってしまうのだった。




