第26話 「豚さんが硬すぎますわ」
──ラミスは走った。
心の中で何度も、何度も繰り返し謝りながら……。ラミスは、止まる事無く走り続けた。城に取り残されたまま助けられない人々を想い、そして哀しみ。自分の無力さを嫌と言う程痛感し、ラミスは嘆き悲しんだ。
「どうして私は、こんなにも非力で無力なのでしょう……。か弱過ぎて涙が出ますわ。」
自分が、もう少し強ければ……。愛する民達を救えたのだと、ラミスは自分の無力さを悔やんでいた。
しかしラミスは一人であり、そして兵もいない。そんなラミスに出来る事など、かなり限られているだろう。
今ラミスに出来る事──。
先ずミルフィーに会う事。そして姉二人を探しだし、ホースデール王国に援軍を要請する事。
……今のラミスに出来る事は、かなり限られている。これが最善の選択だと言えるだろう。
あの豚には、例えラミスとガルガ隊長の二人がかりでも到底倒せないのだから……。
ヘルニア帝国の追っ手が、来ていない事を確認し。ラミスは鎧を脱ぎ捨て、妹ミルフィーの元へと急いだ。……その途中の森で味方の兵士二人に、こんにちはをして合流し。ミルフィーの待つ、東の山へと辿り着くラミス姫様。
「ラミスお姉様!」
ラミスの元に、泣きながら走り寄ってくるミルフィーをガード。
──がしっ。
……今は、我慢ですわ。
「いい?よく聞いてミルフィー。ここは危険なの、ガルガ隊長達も聞いて頂戴。」
ラミスは二人に、今までの経緯を簡単に説明した。
「ミルフィーが魔法を使える様に、私も神々のお力によって"ある程度"の未来が見えますのよ。」
城が落ちた事、ここ東の山にヘルニア帝国軍千五百が迫っている事。……そして二人の姉とはまだ、合流出来ていない事などを。
「私達も一刻も早く、北の街へ向かいましょう。」
ラミスとミルフィー姫一行は、北の街へ目指し移動した。
「お姉様、ご無事良かった……。」
ミルフィーは移動中の馬車の中で、ラミスに抱きつき涙を流す。
「……ミルフィー。」
「しかし、既に城が落ちているとは……。姫様だけでもご無事で何よりです。」
馬車の中にはラミス、ミルフィー、そしてガルガ隊長の三人が乗っていた。
「して姫様、俺に話と言うのは……。」
先程、ラミスはガルガ隊長に少し聞きたい事があったので、馬車の中に無理やり押し込んだ。
「先程少し話しをした、豚さんの件なのですが……。あの怪物には私もガルガ隊長も、全く歯が立ちませんでしたの。」
……それを聞いて、ガルガ隊長は笑って答える。
「ははは、姫様でもご冗談を言われるのですなぁ。この俺ならともかく、姫様が戦場に出られる事はありますまい。」
「あら、私もある程度戦えますのよ?でもこの前、小剣を持ったら重くて全く扱えませんでしたわ……。」
「そうでしょうとも、そうでしょうとも。姫様の様な華奢で可憐なご令嬢には、縁の無い話であります。戦事は我らに、お任せ下さいませ。」
「ですわよねぇ……。私豚さんには傷一つ、付ける事が出来ませんでしたわ。」
「はっはっはっは……。」
頬に手を添え、困った表情をするラミス姫様。
「ガルガ隊長は、このツインデール公国で三番目にお強い御武人とお聞きしたのですが……。それは、つまり……。隊長より強い方が二人いらっしゃる、と言うことですわよね?二人……。もし両将軍が生きていたなら、あの豚さんを倒す事は可能かしら?」
……ガルガは少し考えて、語りだした。
「ふむ……。恐らく、両将軍なら可能でしょう。」
なるほど……。一応、人が倒せるレベルなのだとラミスは納得した。
日が落ち辺りが薄暗くなる頃に、ようやく北の街が見え始める。
あの街に、姉二人が居るかも知れない。
……早く姉二人に会いたい。一刻も早く、姉二人の顔を見て安心したかった。そして、無事であって欲しかった。
……ラミスは、激しく胸が高鳴るのを覚え。早く姉二人に、会いたいと言う気持ちが押さえきれず。今すぐにでも馬車を降りて走り出したかった。……しかしミルフィーも居る事だし、一応我慢するラミス姫様でした。




