第25話 「三式ですわ」
豚さん退治と参りますわよ。
──キリッ!
……と、言ったにも関わらず。魂の抜け殻の様に真っ白になり、即天井を見上げるラミス姫様。
口の中からは霊体のミニラミス姫が、こんにちは。をして「ムリですわー」と、手をぱたぱたさせていた。
大きな目標を掲げたものの肩に力が入りすぎ、そして初手で躓く……。
「……そんな事も、たまにはありますわ。」
先程ラミスは豚との決闘に挑むつもりだったのだが、豚以前に廊下の兵士ことゲイオルグに敗北してしまったのである。
「私も、まだまだですわ……。」
ラミスは、自らの非力さを嘆いた。
……そして、ここで少し思考を巡らせる。
ポーク……。いや豚を倒すよりも先に、姉二人を探すべきでは無いのか?と。
妹のミルフィーは神々から、回復の力を授かっているのだ。
二人の姉……。つまり、リンとナコッタにも神々の力が備わっている可能性が高いのではないどろうか?
そしてその姉二人に合流する事が出来れば、この現状を打破するきっかけを作る事が出来るかも知れないからだ。
そうラミスは考え、ラミスは姉二人の居場所を予想する。
現時点で、二人の姉が居る可能性が最も高い場所は……。
「北の街。……ですわね。」
ここツインデール公国の民の約七割は、この"北の街"で生活をしている。この北の街は国境を中心とし、南北に分かれ。北はホースデール王国に、南はツインデール公国に属している。
もし姉達が無事に、逃げ仰せているのなら……。この北の街か、ホースデール王国に居る可能性が最も高いだろう。
「…………。」
ラミスは決断した。
「北の街に向かいますわ。」
『9135回目』
──ドゴォ!
ラミスの拳が唸る。
「うぐっ!」
幾度ものゲイオルグとの死闘の中で、ラミスの戦闘スタイルは確立しつつあった。
ゲイオルグの攻撃を回避すれば、近距離に詰め寄りデストロイスタイルで拳で攻撃。
──ガスッ!
「ぐああっ!」
ゲイオルグがラミスの拳を警戒し、防御に徹すれば。足技主体の構え、鳳凰天舞の構えに移行し脚技で凌ぐ。
──ガガガガガ!!
ゲイオルグに、ラミスの華麗な脚技の連撃が炸裂する。たまらずゲイオルグが距離を取り、ラミスに向かって剣で斬りかかる。
──ギャイン!
それを足で弾くラミス。
"鳳凰天舞の構え"とは、左足を軸に右足を上げ。右足のみで攻撃と防御を同時にこなす、ゲイオルグとの長い死闘の中でラミスが編み出した。脚技主体の攻防一体の構えである。
ラミスの体のしなやかさ、左足のみでぶれないラミスの体幹。……そして、ラミスの体の柔軟性の高さ。
それらから繰り出されるラミスの華麗な脚技の数々は、既に達人の域に達していた。
「フィニッシュですわ。」
ラミスは体をくるりと回転させ、ゲイオルグの後頭部に強烈な回し蹴りを喰わす。
──ドゴォ!
「ぐはぁ!!」
流石にこれを、まともに喰らって立ち上がれる人間など。存在しないと言わざるを得ない。
「プリンセス延髄、と名付けますわ。」
……9135回目。プリンセスローリング延髄蹴りが、ここに完成した!
ラミスはゲイオルグの鎧を身に着けて、妹ミルフィーの元へと走り出した。




