第24話 「ローストポークにしてさしあげますわ」
「冗談でしょう?」
オークの鋼鉄の様な皮膚により、その鉄塊の様な強固な皮膚に……ラミスの拳は砕けた。手の骨は粉々に砕け、その先からは血が滴り落ちていた……。
……それほどまでに、オークの外皮は硬かったのである。
「……流石にこれは、無理がありますわね。」
明後日の方向に、折れ曲がった手首を見ながらラミスは溜め息をついた。
──ガコォ!
鋭い蹴りがオークを襲う。……無論、オークは無傷である。しかし、ラミスは幾度も殴り、蹴り続ける……。既にラミスの腕も足も砕けていた。それでも尚、果敢に攻撃を続けた。……例え腕が砕けようとも、例え足が折れ曲がれようとも、体が動かなくなる最後の一瞬まで抗い続ける。
……姫に灯った闘志の炎は、そう易々(やすやす)と消える事は無かった。
その闘志の炎は、味方の兵士達にも伝染する。
「俺達も姫に続けぇ!」
「俺達の命に代えても、姫様の御身を御守りするのだ!!」
味方の兵士達が沸き立ち、オークに向かって行く。
「姫様ァ!!」
……しかし、流石に折れ曲がった足ではオークの棍棒を回避出来る訳は無く。
一撃を喰らい、姫の記憶はそこで途絶えた……。
────────。
抜け殻の様に真っ白になり、虚ろな瞳で天井を見上げるラミス姫様……。口からラミス姫の小さな霊体がこんにちは、して「ムリですわー」と話していた。
「ム……ムリィー。」
姫は絶望に駆られていた、これでもかと言うほどに。
それも仕方がないだろう……。姫はこれ迄に幾度となく困難に立ち向かってきた。しかし、今回ばかりは理由が違う。
……化物である。
人間相手ならまだしも、あの様な化け物に勝てる筈が無い。……勝てる人間等いよう筈が無い。
ラミスは……。
転がった!
「ムリですわー。」
ごろごろ……。
「あんな化け物に、勝てる訳ありませんわー!」
じたばた、じたばた……。
「もう、やだー!痛いのやだー!」
ごろごろ、じたばた……。
姫様のごろごろは止まる事が無かった、姫様のじたばたを止める事等、誰にも出来ないのだ……。例え天地がひっくり返ろうとも、ラミス姫を止める事は出来ないのだ!!
「フヒヒヒヒヒヒィ、久しぶりだなぁ…………姫。」
「あら、ごきげんようですわ?シュヴァイン王子。」
──キリッ。
……そう、常に優雅に常に美麗にそして絢爛に、どんな時も東南西北、完璧に姫を演じきる、それがラミスの生様なのである!
「ふぅ。」
ぱっぱっと手を払い、溜め息をつくラミス姫。
「……豚さんも、この位の強さなら楽チンさんなのですが……ねぇ?」
……もはや説明の必要すら無いのだが、王子とお供の兵士二人は既にラミスの敵ですら無い。王子は右ストレート、兵士はツインプリンセスキックからのデストロイスタイルから繰り出されるフリッカーとフィニッシュブローの餌食となり天に召された。
……オークもこの位の強さなら、と思うラミス姫なのだが……強い物は仕方がない。オークを倒す事は使命、いや天命なのだとラミスは理解した。……ならばやるしかない!例えどんなに強いとしても、勝つまで諦める訳にはいかない!ラミスはそうやって今まで幾度も死線を掻い潜って来たのだから……。
……そしてこれからも。
ラミスはそう決意して、扉を開けた……。
「さあ、お次は豚さん退治と参りますわよ!」