第23話 「ドラゴンは倒せないからこそ、ドラゴンなのですわ」
「そ、そんな……ガルガ隊長が。」
ガルガ隊長の敗北により、またオークの狂暴さに戦意を消失し、兵達は立ち竦んだ。
こちらは指揮下がる中、ヘルニア兵達は勝鬨を上げ勝利を叫んでいた。
「ガルガ隊長……。」
「そんなバカな……。隊長が……。」
中には武器を手放し崩れ落ちる兵士や、涙ぐむ兵達の姿もあった。
「……お姉様。」
ミルフィーも恐怖に怯え、ラミスに身を寄せる。
しかし、ラミスはこの時……。ただ一人、違う事を考えていた。
……ご冗談でしょう?化物を私に倒せと仰るの?と。
ラミスは特に、誰かにそれを言われた訳でもない。
ラミスは、それをまるで天命の様に。古の伝承の神々の御告げの様に……。いや、大宇宙の意志であるかの様に。
……それを唐突に理解した。あれは自分の手で、倒さなければいけないものだと。
しかし現実に誰も倒せない以上、ラミスが倒すしか方法が無いのである。頼みの綱のガルガ隊長は敗れ、おまけに味方陣営は総崩れ……。ミルフィーが使える魔法は、回復魔法だけなのだから。
おほほほほほ……。少し、ご冗談が過ぎますわよ。ほら、御覧になったでしょう?あのガルガ隊長の大剣を、まともに喰らっても無傷なのですわよ?あの様な化け物、人間が……。人に倒せる訳が、ありませんことよ?ドラゴンさんは倒せないからこそ、ドラゴンさんなのですわ。
あの様な化け物を倒せる人間なんて、この世にはいらっしゃいませんわよ?
ムリですわー!むり、ムリ!無理!!こんな物は、夢に決まってますわー!!
そう心に念じながら、瞳を閉じるラミス姫様。もしかすると、これは悪い夢なのかも知れない。目を開けると、そこには何時もの日常が……。元通りの、優しい世界に戻っているのかも知れない。
ラミスは淡い期待を寄せ、そっと目を開ける。
……やはり、いらっしゃいますわよねぇ。と、がっかりするラミス姫様だった。
「……お姉様?」
ミルフィーが心配そうに、ラミスを覗き込む。
「……まあ、やるべき事は決まってますわよね。護衛兵の皆さん、可愛い妹を頼みましたわよ?」
そう言うと、ラミスは化物の元へ走って行った。
「お姉様、一体何を!?」
豚はラミスを見るや否や、先程よりも大量の涎を流し喜んでいた。
──したたたたたたたたたた!
「久々の、プリンセスキックですわ!」
──ガキィッ!!
ラミスの、華麗な飛び蹴りが豚炸裂する。
鎧を身に付けた屈強な戦士でもなく、名刀を携えた歴戦の勇者でもなく……。煌びやかなドレスを纏った麗しい姫君が、古の怪物である豚に飛び蹴りを放つ。
その異様とも言える光景に、味方兵だけでなく敵兵すら驚いていた。
隊長が敗北し、誰一人動けない状態のその中。兵士よりも先に動く、ラミス姫様。
……しかも飛び蹴りで。
敵味方関係無く、驚くのは至極当然であった。
そしてガルガ隊長を一撃で屠った豚の攻撃を、華麗に回避していくラミス姫様。
それも一度では無く二度、三度と……。次々と回避し華麗に空中を舞うその姿に、敵味方関係無く驚愕していた。
「えっ……お姉様!?……ええっ!?」
「ひっ、姫様!?姫様は、あんなにも強かったのか?いや……おかしいな、そんな筈は……。」
そしてラミスは豚の隙を突き、その顔面に強烈な一撃を叩き込んむ。
──ガキィッ!!
「…………。」
──!?
……ラミスはその時、全てを理解した。
────それは、正に"鉄塊"だった。
それは皮膚と言うには、あまりにも硬過ぎた。
大きく、ぶ厚く、重く、そして……大雑把過ぎた。
────それは、正に"鉄塊"だった。




