第20話 「言われてみれば重かったですわ」
──ヘルニア帝国の追っ手!?
敵兵は二人、逃げるのか、それとも戦うのか。……ラミスは判断に迷っていた。
いやもしかすると、まだ他にもヘルニア帝国の兵士が隠れている可能性もある。
それにもし追っ手の兵士では無かった場合、この鎧の変装でこの場を凌ぐことが出来るかも知れない。
……どうする?
ラミスは、最悪の場合を想定する。
……もし、この兵士達が妹や姉達を捕らえに来た兵士なら。もし、妹や姉達が既に捕らえられているのならば。
……ラミスは逃げる訳にはいかなかった。何かしら、姉や妹達の情報を得られるかも知れない。そう思い、ラミスは敵兵士の前に姿を現した。
──がさがさっ。
ラミスは茂みを掻き分けながら、兵士に近付く。なるべく下を向き、顔を見られない様にして。
如何にも散歩してましたわよーっ、という雰囲気を……。いや、そこは偵察してましたよ的な雰囲気を醸し出すべきだろう。
……しかしその兵士達はラミスの姿を見た瞬間、予想以上に驚き戸惑っていた。
「その鎧は!?……まさかヘルニア帝国の!?不味いぞ、もうこんな所にまでヘルニア兵が!?」
「仲間を呼ばれると不味いっ、戦ぞ!!」
兵士二人はそう言い放ち、ラミスに槍を突き付け襲い掛かってきた。
──!?
……今、何て仰いました?と驚きながらも、ラミスは滑らかな動きで槍を回避していく。
──サッ、ササッ。
ヘルニア帝国の兵士では無い?……つまり味方!ラミスは急いで兜を脱ぎ、自分の名を叫ぶ。
「私ですわー!ラミスですわー!姫ですわー!!」
──ぱたぱた。
必死で叫び、ぱたぱたと大慌てで手を上下に動かすラミス姫様。
「……えっ、姫?」
「姫様っ!?」
兵士二人の動きは止まり、そして姫の前で跪き涙を流しながら喜んだ。
「姫様、よくぞ御無事で……。」
……よ、良かったですわー。とにこにこ笑顔で汗を拭うラミス姫様であった。
「ふー、やれやれですわ。」
ラミスは安堵しながら、自分の身をこんなにも案じ、涙を流して喜んでくれる兵士達に感謝をした。そしてそれと同時に、初めて味方の人間に出会えた事が嬉しかった。
「所で姫様……。護衛の兵士はどちらに?」
兵士は、きょろきょろと辺りを見回す。
「それと何故、ヘルニアの兵の鎧を?」
「護衛はいませんわよ?……私一人でしてよ。」
「……は?」
「えっ、ええ!?」
「実は、かくかくしかじか~で。」
驚き戸惑う兵士だがラミス姫にも、一つの疑問が浮かんでいた。
「貴方達、どうしてこんな所にいらっしゃるのかしら?……えっ、まさか!?」
……そう味方の兵士が、この東側に居るのは少しおかしいのだ。勿論城が落ちた後、東のサイドデール公国に逃亡する兵士や、民達の護衛の兵士の可能性もあるのだが……。
そういった人達は基本、北の方へと向かうのである。
味方の兵士が、ここ東側に居る理由……。そうラミスには、それに一つだけ心当たりがあった。
……ラミスは必死に走り出した。
「姫様、我々がここにいる理由は……。」
それを聞くと同時に、ラミスは走り出していた。無我夢中で走り続けていた。
山の中を必死な思いで走り続けるラミス、こんな険しい山道を姫君が登るのかなり厳しかっただろう。……しかし、ラミスはそんな事は気にも止めず必死に走り続けた。
中腹まで登ると味方の兵達の姿が見え始める。兵士達は皆、口々に何かを言っているのだがラミスの耳には届かなかった。
ラミスは息を切らせながら、肺が張り裂けそうになる程に。
……その人に会いたい一心で、無我夢中に走り続けた。
洞窟の中に、その人物は居た。そしてその人は、こちらを見ると同時に瞳を潤ませ涙を流していた。
「ラミスお姉様!」
「ミルフィー!!」
二人は涙を流しながら、しっかりと抱き合い再会を喜びあった。




