第2話「脱出劇の始まりですわ」
……姫はなるべく音を立てないように、慎重に鍵を回し牢を開ける。
──キィ。
閑散とした牢に金属音が響き渡る。先程三度も失敗し、命を落とした事を考えると慎重にならざるを得ない。もちろん死ぬのは怖いし、何よりも痛い。
姫は音を立てない様に慎重に歩みを進め、失敗した過去三回の行動を振り返った。
────────。
「姫様、姫様……。」
先日まで私の専属だったメイドが食事を持って来てくれた。泣きながらも私の事を心配し、牢の鍵まで持って来てくれたのだ。
「姫様、せめて姫様だけでも。……私に出来るのはこれくらいしかありません。」
私は何度もお礼を言った。去って行く時も、牢の中に居る私を何度も心配そうに振り返っていた。
……自分の事だけでも大変なのにも関わらず、私の心配をしてくれて、さらに鍵まで持って来てくれた。彼女には感謝しか無かった。
彼女の優しさと心遣いに、思わず姫の目から涙が溢れ落ちる。……姫は大粒の涙をぽろぽろと溢し、彼女に心から感謝した。
そして姫は覚悟を決め、鍵を握り締め歩き出す。
──必ず生きて脱出する為に、姉と妹に会う為に。
『1回目』
姫は牢の鍵を開け外に出る。牢の外は姫が居た牢と同じ形をした牢が複数あり、一応誰か自分と同じ様に捕らえられていないかと念の為確認してみたのだが。人は誰一人見当たらなかった。
姫はその奥にある木製の大きな扉に向かい、ゆっくりと扉を開ける。
──ギィィィ。
姫が扉を開け廊下に出ると、すぐに敵兵士と遭遇し見つかってしまう。
「おい、お前!そこで何をしている!?」
敵兵に見つかり、姫は恐怖に怯えて後退る。
……そんな、見つかってしまうなんて。
姫はそんな自らの軽率な行動を後悔した。
鍵があるからといって、決して簡単に脱出出来る訳では無い。既にこの城は敵国に占領されており、周りは全て敵兵だらけなのである。武器も持たない姫に、それは非常に困難な事であり。そして脱出するには、敵兵に見つからない無い様にしなければならない。
もし、敵兵に見つかるような事があれば……。
──必然、こうなる。
ドスドスと音を立て、姫の元に迫り寄る敵兵士。
「あ、あの……。」
敵兵に話が通じる筈が無い事は、姫も理解していた。しかしその敵兵のあまりの恐ろしさに正常な判断が出来ず、姫は頭が混乱し恐怖に怯える事しか出来なかった。
「まあいい、死ね!」
体に激痛が走り、姫の意識はそこで途絶えた。
『2回目』
意識が混濁し頭がぐにゃぐにゃと歪む様な、そんな不思議な感覚に、姫は囚われていた。何も無い虚無の海の中をさ迷う姫……。そして巨大な映像が次々と、いやこれは姫の記憶なのだろうか……。走馬灯の様な巨大な映像が流星の如く姫の中を駆け抜ける。
──!?
「……これは、一体?」
────────。
姫が気付いた時、そこは姫が先程までいた筈の牢の中だった。
「えっ?私……。」
姫は今眠りから覚めたばかりの様に意識が少し朦朧とし、ふらつき額にそっと手を当てる。そして、少しずつ意識が戻りはっきりとし始める。
……そして、姫は唐突に全て思い出した。
…………。
──!?
「生き、てる!?……これは一体、どういう事なの?」
一体何が起こったのか?姫にはさっぱり理解出来なかった。先程、確かに姫は剣で斬られ死んだ筈なのである。しかし、体には何処にも異常は見られずドレスも綺麗なままなのだ。どこも痛くもないし、そして怪我の一つも見当たらない。
「……あれは夢、だったとでも言うの?」
──?
……分からない、分からない。
そういえば、姫は先ほどから少し背中に違和感があり、熱があるのを感じていた。しかし、それは確かに燃える様に熱いのだが、何処か少し心地の良い安らぐ熱さであった。
…………。
まだ少し頭がふらふらして、頭が良く働いていない。とりあえず背中の違和感はそこまで気にする事も無いのだろう。今はそれよりも、この不思議な現象の事だ。
「……これは、一体どういう事なのかしら?」
姫は額に手を添え、先ほどの出来事を振り返ってみる。
……あれは、夢だったとでも言うのだろうか?いやそんな筈は無い、あの激痛あの苦しみ、それは決して夢では表せない現実の痛みだった。
……やはり生き返ったとでも言うのだろうか?しかし、それでも説明が付かないのである。ドレスは綺麗なままな上、それに場所も牢の中へと戻っている。
……まさか、時間が巻き戻った??
だが残念ながら、例えそれが事実であろうともこの困難な現状が変化する訳では無い。
本当に一度死んで再び生き返れるならば、神の奇跡と喜ぶ所なのだろう。だがこの状況では、牢の中では状況は一向に変わっておらず無意味と言うしか他ならない。
……本当に生き返ったのか、もしくは先ほどの件が夢だったのか。
……分からない。ただあの激しい痛みは、姫にとても夢だとは思えなかった。
姫は色々考えたものの、やはりまだ少し頭が混濁しておりなかなか考えが纏まらなかった。しかし、状況的にやらねばならないことは決まっている。そしてその答えも、行動し確認すれば何か分かるかも知れないのだ。
……姫は気持ちを新たに、二度目の脱出を試みた。




