第十七話 「新たな演劇〈ステージ〉の幕開けですわ」
薄暗い牢の中、ラミス姫は冷たい地面の上で大の字で寝転がり、虚ろな瞳で天井を見上げていた。ぽかんと口を開け、まるで魂が抜き出たかの様に……。ラミス姫は放心状態となり、ただ天井の一点を見続けていた。
姫の脱出は成功した筈。……だった。
ラミスは鍵を使い扉を開けたあの後、運悪くヘルニア帝国兵四人組と出会してしまう。
……か弱い姫であるラミスが、屈強な帝国兵士四人に勝てる筈も無く。牢の中へと、再び戻されるラミス姫様であった。
「私の様な、か弱い乙女に四人掛りとは……。卑怯ですわ。」
だが、それはまだ良かった。対応策など幾らでも講じれるだろう。
問題は……。
また廊下の兵士こと、ゲイオルグと戦わなければならない事だった。
「私が……。私が、一体どれだけ苦労して倒したと……。」
ラミス姫はあまりの辛さに、涙を流し始める。
しかも……。
強敵よ、貴方の屍を乗り越えて行きますわ!──キリッ。
などと、言った事を思い出した。……言ってしまった事を思い出してしまった。
「もう、やですわー。」
ラミス姫は、また可愛く手足をばたばたし悶えた。
いや、ばたばたせざるを得なかった。
それ以降、一度勝ったという安心からなのだろうか?それとも慢心からなのか。
ラミス姫は、あれから三度もゲイオルグに挑み敗北したのである。
「もう、やーだー。」
ごろごろ転がるラミス姫様。
しかし一頻り転がり終えた所で、ラミス姫は立ち上がる。
このままごろごろ転がり続けた所で、場は好転する訳では無い。
ごろごろ転がり続けても、あの王子達三人組がやって来ると決まっているからだ。
しかし、今のラミス姫にとっては。あの王子達三人組など、もはや敵ですら無いのだが……。
────────。
「……あっ、ですわ。」
ここでラミス姫様に、ある閃きが訪れる。
それは、扉の先に居る四人組の対策の件なのだが……。ラミス姫は、ゲイオルグの鎧を失敬し、脱出する方法を考えていた。
「御付きの兵士二人を倒して、鎧を失敬すれば良いのではありませんこと?」
────────。
……いや、それは邪道。
今のラミス姫にとって、それは正に外道の考えに等しかった。例え敵であろうとも、あれだけ長きに渡る闘いを。共に戦った者に対して……。かつては、強敵と呼んだ者に対して。
戦わずにあの扉を潜る事など、ラミス姫の矜持が許さなかった。
闘わざる者潜るべからず!
……そう、拳で語るべきなのだ。
「私の行く道を阻む者は、この拳で語るのみですわ!!」
「邪道ですわ、私の矜持が絶許ですわよ!!」
そう、今のラミス姫には戦う選択しか無かった。その様な卑怯な戦法など、今のラミスには考えられなかったのだ。一人の人間として、恥とさえ思う。
必ず戦って扉を潜る、必ずこの拳で道を切り開く。
……ラミス姫はそう、心に誓った。
「……でも、まあ。」
──バタン!ガチャ、ガチャガチャ。
扉を開け王子達、三人組が姿を現す。
「フヒヒヒヒヒヒィ……。久しぶりだなぁ、姫。」
「でも、まあ……。来てしまったのなら、仕方ありませんわよねぇ?」
「ふふふ……。」
……ラミスは不敵に微笑んだ。




