第15話 「最強女王に私はなりますわ」
『2723回目』
──ゴスッ!
ラミス姫の拳が、廊下の兵士の顔面に直撃する。だが残念ながら姫のそのか細い腕では、廊下の兵士への攻撃は全く効いておらず平然と攻撃を仕掛けてくる。
『2725回目』
それでも、ラミス姫は決して諦めずに果敢に挑んで行った。
一時は全く歯が立たず絶望し、諦めじたばた悶えごろごろと転がったラミスだが。
先日の一件。御付きの兵士二人に勝った事がラミス姫にとって、それは大きな自信を与える物だった。
……まだ諦めるには早い、まだ絶望するには少し早いのだと。そして、自分はまだまだ強くなれると……。
そう自分に何度も言い聞かせ、自分にそう信じさせた。
──今、姫の拳には迷いが消えていた。
『3027回目』
ラミス姫はそっと瞳を閉じ、呼吸を整え精神統一を図る。そして扉を開き、廊下の兵士へと向かい全力で走り出した。
──しゅたたたたたたたた!!
「プリンセスキックですわ。」
──ドカッ!!
とりあえず初手ドロップキック、これは揺るがない。……決して揺るがないのだ!!
物音に反応し、振り返る廊下の兵士。だが兵士が気が付いたその時には、既にラミス姫は華麗に空中に舞っていた。廊下の兵士は為す術が無く、姫の放つプリンセスキックの餌食となる。
蹴り飛ばされ吹き飛ぶ兵士、姫は何時もの様にすかさず兜を奪い投げ捨てた。
「き、貴様ぁ!」
廊下の兵士は激怒し、ラミス姫を睨み付ける。
──ゴスッ!
素早くラミス姫は、渾身の右ストレートを兵士の顔面に打ち込む。
ラミス姫は何時もの手順を行い、準備運動を終わらす。基本的にここまでは同じである、後は……。
蝶のように舞い、蜂のように刺す!!
ラミス姫は廊下兵士の攻撃を、次々と華麗に回避していく。
兵士の目には、その姿が空に舞う蝶のように、いや演舞を踊る妖精の様に錯覚した。
そして兵士に華麗な"連撃"を喰らわしていくラミス姫様。
……一つ、又一つ。
迷いの消えた姫の拳が、次々と兵士を襲い続ける。だが、廊下兵士には全くと言っていい程効いてはいなかった。それでも姫は、ひたすら攻撃を止むことなく繰り返した。
──連撃!……右ストレート、回し蹴り、裏拳。時には真空飛び膝蹴り。そして、助走をつけてのプリンセスキック。
ラミス姫は次々と諦める事なく、攻撃を繰り出していった。
しかし、姫が幾ら攻撃を仕掛けても。何度その拳を、廊下の兵士に叩き付けようとも……。
廊下の兵士には全く効かず、びくともしなかった。
……華奢な姫のか細い腕では、限界があるのだ。こんな攻撃を幾ら続けた所で、廊下の兵士を倒せない事は姫も十分理解していた。その攻撃が、全く無意味である事を……。
だが、そんな物は関係無い。
脱出する為に……。いつか脱出し、姉達に再び出会う為に。
目の前の敵が倒れるその日まで……。
──ただ、撃ち貫くのみ!!
──ドカッ!
ラミス姫は次々に、姫"直伝"の"連撃"を繰り出していった!!
ラミス姫の攻撃は当然ながら、廊下の兵士には全く効いてなどはいなかった。たがその華麗に舞う姫の姿に、その不屈の闘志に。そして姫の凄まじい気迫に……。
少しずつ、廊下の兵士は恐怖を覚えていた。
実際の所、この廊下の兵士は強かった。
兵士には、それほど自信があった。類い希なる屈強な体、隆々なまでのその筋力。正直、他の兵士達よりも確実に強いと言えるだろう。
兵士は毎日の様に厳しい訓練に耐え、剣の鍛練を欠かかす事無く励み続けていた。
実際にこの戦争でも、ツインデール兵を十数人倒し武功を上げていた。間違いなくヘルニア帝国兵の中では、確実に強い分類に入るだろう。
その兵士を圧倒する、その異様な気迫に。その執念に……。兵士は、恐怖を覚えずにはいられなかった。
姫の左腕は、運悪く攻撃を喰らい青ざめ血が滴り落ちていた。
しかし、それに全く動じず眉一つ動かさない姫の姿に。
……兵士は、底知れぬ恐怖を感じていた。
「貴様……。ぐっ!!」
──ドカッ!
攻撃を悉くと回避し、姫の攻撃が兵士を襲う。
「貴様は……。貴様は一体、何者だ?」
ラミス姫は空中を華麗に舞い、拳を握り締め。
……こう言った。
「天下の大プリンセスですわよ!」
しかし、姫の健闘も空しく兵士の前に敗れ去る。
兵士はその恐怖から、姫がまた立ち上がらないかと不安に駆られ後ろを振り向き姫の姿を確認する。
……その姫の姿は。
恐怖に顔を歪め、苦痛に苦しむ顔では無く。
健闘をしたものの、無念に敗れ去り非業の死を遂げた表情ですら無く。
……まさに、誰もが憧れる天下の大プリンセスの姿そのものだった。




