第13話 「常に優雅〈エレガント〉にですわ」
『2720回目』
そして薄暗い牢の中に戻され、虚ろな瞳でただ天井の一点を見つめていた。
「…………。」
姫は何も喋らずに、ただただ天井を見続けていた。
姫が絶望する理由、姫の前に立ち塞がるその"壁"とは……。
姫の攻撃が、全くもって効いていない事である。それもその筈である、姫はか弱い女性であり武道の経験など全く無いお淑やか姫君なのだから。そのか細い腕では、そのしなやかな細腕では。あの屈強な廊下の兵士に致命傷を与える事など、到底不可能である事は誰が見ても明らかだった。
姫はその立ちはだかる壁の前に、涙を流した泣き始める。
……今までの努力は無駄だったのか?例え自分がどんなに頑張っても、攻撃を回避し続けても。こちらの攻撃が全く効かないのであれば、いつまで立っても倒す事は不可能なのだ。
……姫は今までの努力が、苦しい闘いの日々が。水の泡と消え、無駄に終わった事を嘆き悲しんだ。
そして。
……転がった。
「むーりー!」
手足をじたばたさせて悶え、ごろごろと可愛く転がるラミス姫様。
「もーやだー。」
……じたばた、じたばた。
もうラミス姫は転がるしか無かった、転がざるを得なかった。
「もう、痛いのやだー!!」
……じたばた、じたばた。
──ガチャリ。
突如扉が開かれ、牢の中へいつもの王子が入って来る。
「フヒヒヒヒヒヒィ……。久しぶりだなぁ、姫。」
「あら?ごきげんよう、シュヴァイン王子。」
──キリッ。
姫は今先程まで、じたばたと悶え可愛くごろごろ転がっていたとは到底思えない程、凛とした表情で返事を返した。
例えどんなにじたばたしようとも、例えどんなにごろごろしようとも……。
人前では常に冷静にそして優雅に、それが淑女の嗜みであり、それこそがラミスの矜持だった。
「ふへへへへへへへ……。」
王子は何時もの様に、にやけた顔で涎を垂らしながらラミス姫に躙み寄って来た。
姫は、そうですわ!と、何かを閃き王子にしゅばっと近付く。
「……ねえ、私には、二人のお姉様が居る事はご存知でしょう?今どちらにいらっしゃるのか、教えて下さらない?」
姫は、王子の顎を手で上げながら質問をする。
「ブヒヒヒ……。どっちだったかなぁ?一人見つけたんだが、逃げられてしまってなぁ……。くそっ!あの忌々しい騎士の所為で。」
「残りの二人は知らん。もうとっくの昔に、逃げ出してるんじゃないのか?」
「ふふふっ、素敵な情報ありがとうございますわ。……そして、さようなら。」
──ゴスッ
そう言いながらラミス姫は、無表情で王子の顔面に瞬時に一撃を叩き込み、素早く小剣を奪い止めを指す。
そして毎度の如く、罵声を浴びせられ足蹴にされるシュヴァイン王子。
……全くどれほど、人望がありませんの?この王子は。
一連の流れを終え、御付きの兵士二人は姫に近付き剣を振り下ろした。
……姫は涙を流す、姉二人が無事だと言う事が分かったからだ。この苦しい状況の中、姫にとってこれほど嬉しい報せは無かっただろう。
姫は姉達の無事の報せに、涙を流しながら感謝し。そして振り下ろされた、その刃を胸に受け……。
……そして意識を失っていった。




