第12話 「もう二度と、弱音は吐きませんわ」
そして冷たい地面の上に大の字に寝転がり、姫は虚ろな瞳で天井をただ静かに見つめていた。
あの後すぐに兵士の攻撃を喰らってしまい、再びこの薄暗い牢の中へと戻される姫君。しかし兵士に敗れはしたものの、初めてこちらの攻撃が兵士に当たった事に姫は喜んだ。
……それは確かに、小さな一歩かも知れない。しかしこうやって一歩また一歩と、確実に歩み脱出に近付いて行くのだと覚悟を決め立ち上がる。
……だがしかし、姫の前に立ち塞がる目の前の壁は高く。姫の脱出への道は、険しい茨の道なのだと再確認させられる物だった。
先ほどの戦いで姫は運良く、廊下の兵士の攻撃に対応し回避する事が出来た。だが廊下にいる兵士は強く、運が悪ければすぐに攻撃を喰らい再びあの牢へと戻さる。また回避に成功したとしても、こちらから攻撃する事も出来無いまま、防戦一方となり反撃すらままならない。
その様な失敗を、敗北を……。姫は幾度となく繰り返して行った。
当然ではあるが、姫と兵士との間にはそれ程までに戦闘能力の差に違いがあった。やはり武器を持ち武装した相手に、素でで戦うのはやはり最初から無理があると言うものだろう。
だが姫は挫ける事無く、果敢に挑み続けた。どんなに苦しもうとも、どんなに涙を流そうとも。例えこの先に、どんなに困難が待っていたとしても……。脱出するまでは決して諦めないと、決して弱音は吐かないと。
そして、必ず無事であろう妹に会うまでは。もう二度と大の字で寝転がったりしない、諦めず何度でも立ち上がると!
……そう、心に誓ったのだ!!
──そして姫は、勇猛果敢に挑み。その拳を、怒りを、哀しみを!兵士の顔面に叩きつけた!!
────────。
「むりー!」
また大の字で寝転がり、手足をじたばたするラミス姫。
「もう、やーだー。」
泣きながら、ごろごろ転がる姫様。
「やですわー!」
もう、転がるしか無かった。転がるざるを得なかった。それほどまでに、ラミス姫の心をへし折った。
その"壁"とは……。
──時は少し遡り、前回の姫の戦いに戻る。
『2719回目』
姫はそっと瞳を閉じ、呼吸を整え意識を集中させる。そして扉を開け廊下の兵士の背後を突き勢いよく駆け出した。
だだだだだだだだだだっ!
姫の攻撃、初手"ドロップキック"。これは揺るがない!
「お逝きなさい!!ですわ。」
姫君の華麗なるご褒美蹴りが決まり、見事に吹き飛ばされる廊下の兵士。
そそくさと姫は、兜を奪い投げ捨て身構える。姫に蹴り飛ばされ、激怒し立ち上がる廊下の兵士……。
──ゴスッ!
の顔面に、瞬時に一撃入れる姫様。
「ぐわぁ!」
廊下の兵士は怒り狂い、悲鳴に近い叫び声を発しながら駆け寄り、剣で斬り付ける。
一回、二回、三回。その刃、全てを見切り姫は華麗な足捌で回避する。
姫は隙を見て懐に飛び込み、廊下の兵士の顔面に数発の拳を叩き込む。
──ドカッ、ドカカッ!!
「ぐうっ……。き、貴様ぁ。」
姫のその目は、廊下兵士の攻撃をほぼ見切っていた。稀に運悪く攻撃を喰らい、力尽きる事もあるが……。そう易々とは攻撃を喰らわない境地にまで達していた。
尚も姫は華麗に舞い、廊下の兵士の攻撃を次々に回避していく。
──ドカッ!
そして何度も、その拳を廊下の兵士に叩き込んでいった。
「ぐうっ!!」
華麗に舞い戦う姫のその姿は、誰が見ても兵士を圧倒している様にしか見えなかっただろう。
……だが姫は、絶望していた。




