第11話「盛り上がってまいりましたわ」
遊んであげますわ!
……と、言ってみたものの。その二秒後には、牢の中に戻され天井を見上げていた。やはり確率は一万分の一程度なのだから、当然である。運良くその一万分の一の確率を、一回目で引けるなどありはしなかった。
……まず姫がやる事。
それは敵に勝つ事ではなく、敵の攻撃を見る事、そして敵の攻撃に順応する事だった。
……姫は失敗しても、挫けずに何度も立ち向かって行った。
『45回目』……『50回目』……『55回目』……『60回目』そして……。
『67回目』
姫は、67回目にしてようやく……。廊下の兵士による、攻撃の回避に成功したのである。
「……左ですわ!」
初めて攻撃を回避する姫だが、しかし次の攻撃には全く対応出来ず、すぐに力尽き倒れてしまう。
姫は天井を見上げながら、脱出に一歩近付いたと確信した。……例えそれがどんなに小さな一歩でも、今のラミス姫にとっては"大きな一歩"だった。
……しかし、姫は大きな過ちに気付く。次の攻撃に全く対応出来ずにいたのだ。違和感は続いた、何度試しても結果は出なかったのである。
……おかしい。完璧に予測し回避しても、攻撃に当たってしまう。同じ行動をとれば、全く同じ結果になるのではないのか?
……ラミス姫がその答えに気が付くまで、約二十回必要とした。その答えは姫の回避の仕方に、毎回若干の擦れがあるからなのだ。それが例え僅かな誤差だろうと、未来が変わってしまうのである。
姫はこの考え方は、間違いだと気が付く。
敵の攻撃が分かっているからと言って、回避出来るのは一度だけなのだと気が付いた。
『94回目』
とりあえず一回目の攻撃は、だいたい反応して回避出来る様にまでなった。しかし、問題は二回目以降である。
……単純に敵の間合い、剣の軌道、見ている目の角度、敵の構え、その全てに注目し回避に繋げねければならない。
……しかし、回避するだけでは勝てない。勝つには、こちらからも攻撃仕掛ける必要がある。だが回避すらもまともに出来ない姫にとって、それはかなりの難題だった。
『100回目』……『110回目』……『120回目』……『130回目』……『140回目』……『150回目』
姫は苦しみに耐え涙を流しながら痛みにも耐え、決して諦める事無く立ち向かって行った。
……そして回数は。
『224回目』
姫は何時もと同様、扉を少しだけ開け中の様子を伺う。そして、廊下の兵士が背を向けているその瞬間に走り出す。
──したたたたたたたっ!
兵士が足音に気付き、振り返るが時は既に遅し。
「ごきげんよう。」
廊下の兵士が振り向くと、姫は既に飛び上がり華麗に宙を舞っていた。
「プリンセスキックですわ。」
──ドカッ!
廊下の兵士は姫の華麗な蹴りの餌食となり、大きく吹き飛ばされる。その隙を見計らい姫は、さっと兜を脱がす。
廊下の兵士は大した外傷も無く、すぐに立ち上がり鬼の形相で姫を睨み付けた。
「き、貴様ぁ……。」
姫は素早く身構え、兵士の攻撃に備え間合いを取る。廊下の兵士は怒り、ドスドスと足音を立てて姫に近付きその刃を振り下ろす。
「……左ですわ。」
ゆらりと揺れ動き、姫は難無くこれを回避する。
「くっ。」
そして廊下の兵士は剣を構え、姫に向かって水平に斬り付けた。
姫は、その動きを読みしゃがんで回避し。
「足元が、お留守ですわよ。」
廊下の兵士に足払いを仕掛ける。しかし、これは固い具足に阻まれ無傷。
「グッ。」
廊下の兵士は頭に血が上り、力任せに大振りを仕掛けて来た。姫はそれを兵士の攻撃に合わせ、体の軸を少しずらし最小限の動きで回避する。
「今ですわ!」
姫は、その一瞬の隙を見逃さ無かった。姫の目が鋭い光を放ち、一気に距離を詰め渾身の一撃を兵士の顔面に叩き込んだ。
「ぐああっ。」
兵士は思わずのけ反り後ずさる。
「ふふふ……。盛り上がってまいりましたわ!」




