第101話 「自らの未熟さを、痛感致しましたわ」
「……承知致しました。」
将軍は、真剣から木剣に持ち替える。
……分かる。
先程までの、優しいクリストフ将軍とは違う。ラミスは将軍と対峙して、改めて将軍の放つ殺気の恐ろしさと、その強さを理解した。
…………。
「行きますわよ。」
──しゅばばばばっ。
ラミスのその攻撃は、以前と比べかなり速さを増していた。しかし、クリストフ将軍はその攻撃の全てを難なく回避し、ラミスの拳は全て空を切る。
攻撃が一度も当たらない!?
「うーん、流石ですわね。」
いや、当然だろう。ラミスが手も足も出なかった、あの凄腕の剣士ことゲイオスを瞬時に倒す姉リン。
そのリンでさえ、手こずる豚をクリストフ将軍は一刀の元に斬り捨てるのだ。
今のラミスがどう足掻いた所で、勝てる訳は無いだろう。
…………。
……遠い。
まだまだ、何もかもが遠すぎる。ラミスは悔しかった。
「お姉様……。あの、一体お庭で何をしていらっしゃるのですか?」
クリストフ将軍との特訓を、ミルフィーに見付かってしまった様だ。
……あっ。
「これはいい所に来ましたわ、ミルフィー。丁度あれを試したい所でしたの。治療を、お願致しますわ。」
「……お姉様?」
ラミスの今の実力では、決してクリストフ将軍に勝つ事など不可能だろう。そもそも、攻撃を当てる事すら敵わないのだから。
……しかし。
……だが、しかし。
あの技なら?あの時、土壇場で使ったあの技なら……。
──バリバリバリッ!!
ラミスの周りに雷が走り、周囲の石ころや木の葉が舞い上がる。
「行きますわよ!」
ラミスの眼光が鋭い光を放ち、クリストフ将軍を睨みつけ……。
…………。
──!?
「……えっ。」
──ビタリ。
ラミスが気が付くと、ラミスの首元にクリストフ将軍の木剣がびたりと突き立てられていた。
「……何時の間に?」
全く見えていなかった。何時攻撃されたのかも、ラミスには理解出来てはいなかったのである。
ラミスは、自分とクリストフ将軍との強さに。とても大きな壁がある事を、痛感した。
木剣をしまう将軍。
「……申し訳ありません、姫。少し嫌な予感がしたので。」
クリストフ将軍の長年における、戦いの直感だろうか?それとも戦士としての生存本能、危険察知能力なのだろうか。
クリストフは、ラミスの技が危険だと判断した。
実力の差はあれど、この時。クリストフはラミスに眠る武の才に、底知れぬ恐怖を感じていた。