第1話「囚われの姫ですわ」
「……一体、どうすればよろしいの?」
冷たい地面の上に横たわる、一人の姫君。薄暗い牢の中に閉じ込められ、その絶望的な状況に一人嘆き悲しんでいた。
「一体、どうすれば……。」
虚ろな瞳で天井を見上げ、そう問いかける様に呟く。
「……もう無理ですわ。」
姫の手には、この牢屋の鍵が握られていた。先ほどこの鍵を使い、"三度目"の脱出を試みて失敗した所である。……つまり、三回死んでいる事になる。
この姫様は、魔法は使えない。もちろん剣も持った事すらない。しかし先ほど、奇跡とも思える出来事が起こった。
……時間が巻き戻ったのである。
死んだのに時間が巻き戻って生き返った。それだけならとても幸運な事なのだが、戻される場所に少し問題があった。
「ここに戻って、何の意味がありますの?」
そう、牢屋の中である。しかも敵国に占領され、周りは全て敵国の人間しかいない。先ほど脱出を試みたものの、三回とも失敗し死亡した。鍵があり生き返ると言っても、ここらの脱出は非常に困難であり、ほぼ不可能に近いのである。
「……せめて、敵国が攻めてくる前なら良かったのですが。」
そう思いながら、姫は先ほどから背中に何か違和感を感じていた。しかし、大した事は無いのであまり気にしないでいた。
今はそれよりも、ここからどの様にして脱出すればいいのか?それともう一つ、何故生き返るのか?そして、どうして時間が戻ってしまうのか?
もういっそ、死んでしまった方が楽なのではないか、と言う考えも姫の頭を過るのだが……。
「……そういえば。」
姫はこの現象に一つ心当たりがあった事を思い出す。幼き日父から聞かされた、この国の不思議な伝承の事を。
そう、あれは確か────。
今は亡き、父を思い出す。
「……この国。いや、この国が出来る前の遥か昔からある伝承。大いなる災いがこの地に降りかかった時、古の神の力を宿した者が、この世界を救うだろう。」
と姫は父の言葉と、父の持っていた書物を思い出した。
「……うーん。もう少し、きちんと読んでおくべきでしたわ。」
そう、この力の事が分かり。何かしらこの状況を打破する切っ掛けになるかも知れないからだ。
そして姫にはもう一つ、気がかりな事があった。自分一人ならもう死んでも構わないと思っていた。父も姫の目の前で殺された。
しかし姫には姉が二人、妹が一人いる。それが何よりも気がかりだった。
姉二人は姫同様に、捕らえられている可能性が高い。無事捕まらず逃げおおせていれば良いのだが……。だが妹だけは、偶然にも隣の友好国に出掛けており。敵国が攻め来た時には、この国に居なかったのである。
その為妹だけは無事に難を逃れ、まだ隣国にいる可能性が高い。
二人の姉の心配と、無事であろう妹に会いたい気持ちで一杯になり、姫の目から涙が零れ落ちる。
姫は……。ラミス姫は覚悟を決め、もう一度脱出を試みた。




