第9話 お昼寝。
朝、4時。
日が昇ると同時に起きだして、身支度する。顔を洗って、朝の涼しいうちに力仕事をする。肥やしを運んだり、新しく植える樹木用に大きな穴を掘ったり。間引く木を切ったり。この前蒔いた花の種に水をやったり。
2時間ほど働いて、急いで朝ごはんを食べに行く。
その後は芝刈りをしたり、生け垣を刈りこんだり、バラ園の終わったバラを片づけたり…。
ささっと汗ばんだ身体を拭いて、着替えて手袋をして、お坊ちゃまたちの勉強部屋に向かう。屋敷の二階。窓から中庭が良く見える。
ここで、10時。
お坊ちゃまたちは朝食後は読書をしてもらっている。
「今日はジルベールは何を読んだの?」
「あのねえ、これ。」
この屋敷には子供用の本がほとんどなかったので、急いで自宅から本をかき集めて持って来てもらった。おばさまにも声を掛けたら、素敵な絵本を寄こしてくださった。
その一冊。海の本ね。
「そう。楽しかった?」
「うん。」
「さて、フェリックスは?何を読んでたの?」
「ん。」
フェリックスが差し出したのは、【繰り返される歴史への考察】まあ、いいか。
生意気盛りな7歳児だ。うふふっ。
それから3歳児と絵本を読んだり、7歳児と自国の歴史書を読んだり。足し算、引き算。算数は本当は実生活に密着させた方が楽しめる気がするけどね。
午前中のお勉強は2時間。
12時からはテーブルマナーを学びながら昼食。
ゆっくりお茶にしてから、午後は3時までお昼寝!
晴れた日には中庭のツリーハウスで。
窓を開けると、風が通る。
お昼寝用のハーフ毛布は運び込んでおいた。
くるくると丸めた布団を一枚広げると、はい、お昼寝場所の完成!
3人でごろごろしてお話しているうちに、眠ってしまう。
・・・わたしも…。
雨の日はジルのお部屋で。
3歳児のお部屋にしては殺風景だ。家具のサイズも大人サイズ。
ベットに3人で寝れるぐらいの大きさがある。
手袋をしたまま、絵本を読む。
まあ、だいたい半分も読まずに眠ってしまう。
・・・あははっ、私も。
お昼寝から起きたら、ぶらぶらと庭園をお散歩する。
ジルは手をつなぎたがるから、
「お姉ちゃんの手、ちょっと湿ってるんだけど、いいかな?」
と、聞いたら、問題ないらしい。手袋の中に薄いハンカチを入れてあるけど。
「いいよ!」
庭園の睡蓮がそろそろ咲き出す。
ここのところ毎夕のように観察に出掛けている。
「なんかいるよ?あかいの。」
「そう、金魚よ。赤いお魚。ほら、葉っぱの影にも一匹いるわね。」
「かわいいね。」
「うふふっ。そうね、かわいいわよね。」
バラ園を横切るお散歩道のゆるい傾斜を登っていく。
ジルは駆けだしていった。
前を行くフェリックスが、振り返って手を差し伸べる。
「ほら。」
「ん??」
あ、年寄りは登るのが大変だろうという気遣いかしら?そっと手を重ねると、ぎゅっと手を繋いでひっぱって行ってくれる。紳士だわ!小さい紳士ね、7歳児!
散歩から戻ると、中庭のガゼボにマノンがお茶を出してくれている。おやつ付き。
「マノン、あのねえ、いけにね あかいおさかな いたよ?」
「まあ、ジル様。私も見たかったですわ。」
「うふふっ。こんどマノンも みにいこうね?」
「はい。ぜひ。」
入れたてのお茶を頂きながら、二人の会話を聞く。
この頃は、使用人の皆さんもお坊ちゃまたちに声を掛けてくれる。
挨拶と、ほんのちょっとの会話。
それさえもはばかられるような雰囲気だったのね。あの家庭教師のせいで。




