第20話 散歩。
王城に今回の堤防補修の補助金の申請をしに出掛け、ついでに王立図書館に寄って来たら、夕刻になってしまった。
馬車寄せで迎えに出たジャンにカバンとコートを預けて、真っすぐ庭園に回る。
この時間帯は、息子たちはお散歩の時間のはず。
ここのところずっと観察していた。
毎日毎日、息子たちは楽しそうだったが、勉強の時間が短すぎないだろうか?
ジャンに聞いたら、十分だと思いますよ、と、返された。
いや。どうなの?
ほんの少し、意見も必要かな、と。
家庭教師を執務室に呼び寄せようかとも思ったが、ジャンがなぜか渋った。
『おとうさま!』
中庭のほうから歩いてきたジルが、私を見つけて駆け寄ってくる。
『おかえりなさーい!』
え?隣国語?
『おさんぽ いっしょ いこう?』
ん?隣国語??
『こっち きて。』
「・・・・・」
ジルに手を引かれて、池に近づく。
『おさかな あかいの みて』
『ああ、ほんとだね。赤いのがたくさんいるね。』
よくはわからないが、ジルが隣国語で話しかけてくるので、隣国語で返す。
『きんぎょ いう。しってた? おとうさま?』
『あんまりのぞき込むと危ないぞ、ジル。』
池のふちにお座りして見ていたジルに、フェリが走り寄ってくる。
『や・く・そ・く!』
『うん。やくそく ぼく した せんせいと。』
そろそろと、池のふちから足を降ろして、それでもまだ池を覗き込んでいる。
『おとうさま、お帰りなさい。』
「あ、ああ。」
家庭教師が遅れて歩いてくる。
『まあ、フェリ、紹介していただける?』
『お父様、こちらが僕たちの家庭教師をしてくださっている、エメリーヌ嬢。エメリーヌ、こちらが僕たちの父、アシル侯爵です。』
『初めまして、侯爵殿。家庭教師のエメリーヌと申します。』
家庭教師は、20ちょっと位?すっぴんでそばかすが目立つ。質素なワンピースだが、手袋はレースだ。
スカートをつまんで、綺麗な礼をした。
「あ…ああ。」
『フェリ、今の紹介、上手にできたわ。さすがね。』
『いえ、先生、それほどでもありません。』
『まあ、謙遜も完璧ね。』
『では、参りましょうか、お嬢様。』
『まあ!うふふっ。』
フェリが慣れた手つきで先生の手を取る。
そのまま隣国語で話しながら、バラ園に向かっている。
『では おとうさま まいりま しょう』
ジルがフェリの真似をして私に手を差し伸べる。思わず笑ってしまった。
『はい。よろしく。』
ジルと手を繋いで、バラ園のゆるやかな坂を上っていく。
『ばら』
『はっぱ』
ジルが一生懸命教えてくれている。
『そら あおい』
『ぼく おさかな すき』
『ぼく おとうさま すき』
そう言って、くすぐったそうに笑った。




