第15話 お誕生会。
「もう半年になるというのに、子供の心配はなさらないのかしら?まあ、領地のほうが大変だとは聞いてはおりますが…。」
暑さのピークは去った。夕方は風が随分涼しくなる。
植え替えした樹木を心配したが夏を乗り越えてくれた。
盛夏はおばさまの別荘にお呼ばれして、みんなで2週間もお泊りしてきた。
近くに綺麗な川が流れていて、水遊びをしたり、釣りをしたり。お昼寝は木陰で。
隣国から来たおじさまのご友人と隣国語でご挨拶もしたわね。いい経験だった。
楽しい夏休み。
でもですね、もう9月になるんですよ?
子どもは教師に任せていれば大きくなると思っていらっしゃるんでしょうかね?
「そうでございますね。もうすぐフェリックス様のお誕生日でございますので、その時に一度はお戻りになるかと。」
さらっと執事さんが答える。まあ、お誕生日?じゃあ、お誕生会をしなきゃですね!!
朝食の時に使用人の皆さんと打ち合わせを重ねる。
侯爵殿は戻られるかどうか微妙なところなので、みんなでパーティーを開きましょう!執事さんも快諾してくれました。
こっそり、来賓用の応対室に飾り付けを始める。
できればフェリを驚かせたい。皆さんに聞いたら、今までは夕食が少し豪勢になるくらいだったらしいから。
飾り付け。
お誕生日ケーキ。
プレゼント。
もちろん、ごちそう。
・・・本当なら、お父様に会いたいでしょうにね。
「お父様はお仕事が忙しいので、仕方ないでしょ。毎年、僕の机の上にプレゼントの本が置いてあるんだ。」
「え?」
「去年は、繰り返される歴史への考察、だ。」
おい。
フェリは夏の間にまた背が伸びた。
ジルも大きくなってきた。
私たち大人は去年も今年も来年も、そうそう代わり映えしないけどね。子供は違うでしょ?うちの弟も小さかったけど、いつの間にか私の背を越えていた。
夜、部屋に下がるフェリとジルにお休みのキスをしてから、大急ぎでお風呂に行って、庭師小屋でコツコツプレゼントを作る。朝が早いので、一時間が限界かな。お昼寝しているから、寝不足だと思ったことはないけど。
フェリは8月末、ジルは私と同じ10月がお誕生日。
フェリだけにプレゼントもなんなので、ジルにも同じように作る。
コツコツ…。うふふっ。小さい頃のお誕生会は楽しみだったわよね?プレゼントの包装を開けるワクワクを覚えている。
そうこうしているうちに当日。侯爵殿はまだお見えにならないようだ。
さらっといつも通りの一日を送り、夕方のお散歩も普段通り。隣国語での会話もかなり上手になってきた。おばさまの別荘で、本当に隣国の方とお話して通じたのが、自信になったのかしらね?思わず、ほっこりしてしまう。
「なに?」
「え?ああ、フェリは本当に隣国語が上手になったなあ、って思ってね。」
「ぼくは?」
「ジルも上手よ!」
「フェリは大きくなったら何をやりたいのかな?」
「僕?僕はお父様の跡を継ぐから。」
「そ、そうね。ジルは?」
「ぼくはね うみにいってみたいの。せんせいのせんせいの おにわのいけより もっとずっと おおきいんだよ?」
「そうかあ。」
手袋をした手をジルとつなぐ。
フェリはこの頃恥ずかしいのか、手をつなぎたがらない。
「お前は?」
「え?私?私はね、小さい時から庭師になりたかったの。今はまだまだ勉強中だけど、やりたいことをやっているのよ?」
「ふーーーん。」
「それに…嫁の貰い手が無かったら、フェリがお嫁さんにしてくれるんでしょう?うふふっ。」
「・・・ああ、そうだな。」
「ぼくも!せんせいをおよめさんにするよ?」
「まあ、ジルも?嬉しいなあ!」
いつものようにお坊ちゃまたちはマノンに連れられて着替えに行く。
さて!私もちゃっちゃと着替えて会場に向かおう。
来賓用の応対室に使用人の皆さんと一緒に息をひそめて待機する。
マノンが少しニマニマしながら、お坊ちゃまたちを連れてくる。
「おめでとう!」
「フェリックス様お誕生日おめでとうございます!」
「おめでとう!」
びっくり眼だったフェリが、はにかんだような笑顔に変わる。
「これは私から。お誕生日おめでとう。」
「これはみんなから。おめでとうございます!」
「私からは、これを。おめでとうございます。フェリックス様。」
執事さんも用意していたのね?やるわね。
今日は使用人の皆様も席に着く。
おめでたいことは、みんなで分け合うともっと楽しいわよね。
たくさん食べて、たくさん飲んだ。無礼講、ってやつね。
執事さんが意外なほどピアノが上手だったり、コック長がバイオリンが上手だったり。その演奏でみんなで踊った。私とフェリ。ジルとマノン。騎士さんはさすがに全員参加にはならなかったけど。




