27・新しいお役目
「これが鳳梨ですかー。すごーい。どうやって切ればいいのでしょうねぇ」
「固いねえ。甲羅みたい」
数日後、厨で夜鈴が香月と星照殿から届いたばかりの鳳梨をなでたり叩いたりしていると、下女が「洪昭儀がお越しです」と告げに来た。二人で目を見合わせて唖然とするしかない。
「鳳梨の皮でもお出ししましょうか?」
「やめなさいよ」
「いまさら何の用でしょう。芳静様って懲りないですね。しつこい」
「香月って本当に口悪いよね……」
夜鈴は厨を出て、芳静の待つ房へ向かった。戸口のあたりまで来たとき、中から「ナ~」と猫の鳴き声が聞こえた。
(えっ。まさか)
勢い込んで駆け込むと、芳静がふくふくした白黒のぶち猫を膝に乗せて待っていた。
「宝宝!?」
最近知った名前を呼ぶと、ぶち猫は「ひさしぶり~」とでも言うように、夜鈴を見て「ナ~」と鳴いた。
「わー! 宝宝だ宝宝だ! 芳静様、どうして宝宝とご一緒に?」
「……猫のことより先に訊くことはないのかしら?」
「分眼の術ってどうやるんですか? 今も宝宝の目で賢輪様がわたしのこと見てたりするんでしょうか? みえるかな。おーい」
夜鈴が宝宝の目の前に顔を突き出して手を振ると、芳静が「あなたって時々、信じられないくらい子供ね」とあきれ顔で言ってきた。
「ふん。悪かったですね」
「宝宝はあなたではなくてわたくしの監視よ。勝手なことをやったせいで、兄から監視されているの」
「勝手なこと? ああ、わたしを妹に連れ帰らせようとしたことですか。ははっ、残念でした!」
「本当に子供……。主上はどうしてあなたなんかがいいのかしら」
星宇の話を出されると、夜鈴は赤くなってあわあわしてしまう。そんな夜鈴の様子を芳静がおもしろくなさそうに眺めている。
「星宇は言い出したら聞かない子だから、わたくしは皇后になるのはあきらめるわ」
「『星宇』って。『子』って」
「彼のことは子供のころから知っているもの。子を成さなければならないなら皇帝の子がいいけれど、わたくし、洪家の当主と話し合ったの。後宮での任務を完遂できたら、父はわたくしに女としての枷は負わせないと約束したわ。わたくしは輿入れや子産みから解放されて、好きなだけ自分の術と出世を追求できる」
芳静はそう言うと、胸元で拳をぎゅっと握りしめた。
「後宮での任務ってなんです?」
「この歴史ある後宮に溜まりに溜まった、呪詛の残穢を全て取り去ること。宮城内にこのような穢れに満ちた場所が存在するなど洪家の名折れ。後宮を浄化することは、我が一門に課された重大な使命なの」
「はあ……そうですか」
「協力なさい」
「は?」
「あなた解呪の妖でしょう、喰呪鬼さん。皇后になるなら後宮はあなたの庭。後宮を隅々まで浄化することは、あなたの使命でもあるのよ」
「待ってください。わたし、皇后になりたいなんて一言も――」
「あなたが言ってなくとも星宇が言ってるの。あなたを皇后にするってね。あなたはまだ彼のことをよく知らないでしょうけど、あの子はやると言ったら誰に逆らってでもやるのよ。覚悟なさい」
また覚悟か!
夜鈴は茫然となった。なんということだ。夜鈴の都合にお構いなしに、話がどんどん進んでいく。後宮なんて大きな庭、浄化できるわけがない! というか、皇后なんて知ったこっちゃない!
「わたし、後宮なんて菫花殿と桜花殿しか知らないのに……」
「そう。なら案内するわ。穢れが溜まっているところは怪異が出るから、そこを中心に回りましょう」
「怪異!? 怪異っておばけ!? ひーんこわい!」
「妖が何をこわがるっていうの? いいから行くわよ」
「今から!?」
おびえる夜鈴の気持ちを知ってか知らずか、宝宝が「がんばれ~」とでも言うように、のどかに「ナ~」と鳴いた。
〈第一話 完 第二話に続く〉
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引き続き第二話を公開します。一日あけて5月1日(水)スタートです。
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