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23・麗霞参上


 輿で担がれ星照殿へ行くのはこれで二度目だ。徒歩なら白い石造りの大階段を上ればいいが、輿の場合は殿舎の周りをぐるりと遠回りする。

 輿に乗っている間、夜鈴は周家や麗霞(れいか)のことではなく、見たことのない妖の村のことを考えていた。妖を捕えるとき「山狩り」と言うから、村があるのは山の中だろうか。山ってどんなところだろう。幼いころに見た絵巻でしか、夜鈴は外の世界を知らなかった。

 輿を下りると目の前に星照殿の大扉があった。扉の上部を飾る木彫りの四神が夜鈴を見下ろしている。この神聖な獣たちは、妖の自分をどう見ているのだろうと夜鈴は思った。


 宦官の先導で回廊を進む。向かう先は以前行った謁見の間ではないようだった。皇帝は場にいないのかもしれない。そのほうがよかった。麗霞が侮蔑の目で自分を見るところに、星宇はいてほしくなかった。


 謁見の間ほど広くはないが、豪奢な(へや)に案内された。上座は皇帝の席であるためか空いており、一段下がった席に二十代半ばほどの男と芳静が並んで座っていた。男の顔立ちは美しく、芳静とよく似ていた。血縁かもしれない。男と芳静の後列に、墨色の袍をまとった数人の若い文官がいる。墨色の袍は宮廷方士の官服だ。

 夜鈴は花鳥文の絨毯が敷かれた壁沿いの一画に座るよう示され、芳静の斜め向かいに席をとった。芳静の顔を見ないように窓の外を見る。飾り格子の窓の向こうに、木々は見えなかった。緑の園林のある菫花殿がもう恋しくなってしまった。


 貴族らしき年配の人物が何人か入ってくる。皆、夜鈴を見て驚いたように目を見張るのが視界の隅に映った。星宇の妖力とたくさんの呪いを吸って、容姿がさらに人間離れしてきたから無理もない。


(わたしは、本当は人の世にいないほうがいいんだろうな)


 夜鈴は誰にも悟られないよう、静かに重い息を吐いた。


「周麗霞様がおいでです」


 案内の宦官がそう告げると、女官に続いて着飾った妹が入ってきた。夜鈴も入宮して最初に星照殿へあがるとき、これでもかとばかり着飾らせられたが、あれよりもっと華美で派手で場違いなほどだ。この力の入りようは峰華(ほうか)のせいだろう。峰華は夜鈴ではなく、麗霞を入宮させたがっていたから。


 麗霞は緊張気味に歩を進め、まず芳静のとなりの男性に視線をやった。ビクッとしたように歩みが止まる。麗霞の目が男性の顔に釘付けになり、頬がぽおっと朱に染まる。男性は麗霞に見つめられてもまるで動じなかったが、横にいる芳静が眉をひそめた。


「……ようこそおいでくださいました。お座りください、麗霞様」

 芳静の声はやさしかったが、表情は面のように硬かった。

 促されてやっと麗霞が我に返る。芳静たちの正面に用意された座に着き、麗霞はようやく壁際の夜鈴に目を止めた。


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