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04

***


此処から一旦

軍事国家アルバネヒトが

隣国アイネスの支配を受けるまでの話に

刻は遡る……





「…………」


 夢のなかで夢を見ていたような感覚に濃く囚われたまま、他人のベッドの上で仰向けになって目を覚ます。

 最初に視界を占めたのは木目が綺麗に並んでる天井……、ログハウスか?新築ではなさそうだが、古くもない。

 窓から差し込む陽射しが照明代わりの部屋でふかふかの布団をかけられ、頭の下にはお日様の匂いがする枕を置かれている。生かされてて環境が良いトコを見ると、此処は悪い場所ではなさそうだ。


「イナバ?…………居ないのか……」


 ゆっくり体を起こして室内を見渡す。ベッドの横には座布団を敷いた椅子が一脚に、真新しそうな本が置いてあるサイドテーブル。人様の家を物色なんて行儀が悪いけど、手に取って横から見た感じ、紙は手漉きか?

 背表紙のタイトルは『教養なんてクソ喰らえ』。表紙には、マッチョの男がボディビルダーみたいなポーズをキメている絵が。どうやら、家主の趣味らしい。

 ていうか、日本語でも英語でもない架空の文字っぽいのに、なぜかすらすら読めてしまうのが異様に気持ち悪くて今頃吐き気がする。ぉえッ。


 逆流してきた胃酸を出すまいと飲み込み、ベッドから降りてすぐにサンダルっぽい靴を拝借。

 試しに、部屋の隅に置いてある大きな(かめ)に近付いて覗き込み、水面に映る顔を見たが、目や鼻といったパーツが変化した様子はない。

 違いがあるとすれば、服は手縫いらしき半袖のシャツにズボン。下着は履いてる。俺の物じゃないのは明らかだ。


   ……ちりん、

      カン!


   ……ちりん、

      カン!


 鈴の音が鳴ったあとに斧で薪割りしてるような音が、窓の外から聴こえてくる。

 俺は一つしかないドアを開き、部屋を出た。廊下には此処以外に、同じ形をした三つのドアがあるけど、いまは裏口へ向かうのが先だ。

 屋外へ出て、手入れが行き届いた庭のほうへ回り、音の根っこに忍び足で近付く。

 

   ……ちりん、

      カン!


   ……ちりん、

      カン!


 視界は、斧を振り下ろしている後ろ姿を捉えた。

 小柄な体格。身長は俺の鼻頭くらいの高さで、渋い緑色の髪にうっすら赤色が差し込まれている。束ね方も見るからに、アスパラガスの穂先みたいだ。

 袖無しのハイネック。軍人や傭兵?が履いてそうな長ズボンとブーツ。格闘技でもしてるのか、腕は筋肉隆々。


「?」


 彼女は薪割りをやめて、呆れたように溜め息を吐く。


「なんじゃ、起きてたか」


「!」


 古めかしい口調。声は女子高生っぽい。

 彼女はやや気怠げに、此方へ振り返った。その際、首のチョーカーに付いてる鈴が、ちりんと可愛らしい音色を出す。近くで聴くと、思いのほか音量は小さかった。



「おい、少年。反応が些か悪いようだが、調子はどうだ?」


 無言の俺に対し、そこら辺の人に向けるみたいな笑みを浮かべ、斧を担ぐように自分の右肩に乗せた。

 くりっとしたドングリみたいな形の目。ぺちゃっとした鼻。男子中学生に間違えられてもおかしくない小生意気な感じの顔立ちで、品定めするような視線を注いでくる。



「元気っぽい。あんたが介助してくれたのか?」


 俺がゲームの会話みたいなやり取りに持ち込もうとすると彼女は笑みを引っ込め、斧の柄で、肩をとんとん二回叩く。


「まるで、予め用意した台詞を言ってるように聞こえるぞ」


 どうやら不信感を抱いたらしい。けど、話が通じる相手のようだ。

 俺は物怖じせず、単刀直入に切り出してみる。


「じゃあ、手っ取り早く」


「?」


「イナバが求める答えに俺を導いてくれ。夢から覚めたいんだ」


 彼女は含みを込めた笑みをふっと零す。

 そして次の瞬間、前触れもなく、突風のブーメランが俺の左頬をひゅっ!と掠めて過ぎ去った。

 後方にある木の幹に力強く、ガッ!と突き刺さる音が聞こえたけど振り向かない。何が飛んできたか見なくてもわかる。

 ……斧だ。

 斧が飛んできた。

 俺は腰を抜かして座り込む。


「少年よ、目は覚めたか?」


「ちびるよ」


「だろうな。

 (わし)はチャペル。おまえさんの名は?」


 先に名乗った彼女は、此方に向かって歩いてくる。

 俺は一拍置いて、

「ユンリ」と答えた。イナバを幽霊にしたワニが、この人である可能性が無くもない。

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