『報告書②-2 リリについて』
教会を訪れた騎士がリリにもたらしたものは、リリにとって悪夢のようなものだった。
だから、リリは夕刻のことを忘れようとしながら、大好きなコッペパンを囓る。いつもは美味しいはずなのに、全然味がしなかった。口の中でもさもさとして、ずっと飲み込めずにある。
水筒の水を口に含んで、やっと口の中がすっきりする。
でも、もう一口を食べる気にはなれなかった。
小鳥たちがそんなリリの様子を窺うように、近づいてくる。
「どうしよう……」
そう呟きながら、コッペパンを小さくちぎり、小鳥にあげる。小鳥は変わらず細かいパン屑まで啄み、首を傾げて次を待つ。
リリはぼんやりとその様子を眺めていた。
業を煮やした小鳥がリリの持つコッペパンをつつきに来ても、リリはぼんやりしていた。
だって、知らなかったんだもの。そんな偉い人だなんて。
騙そうとは全く思ってなくて。
どうしよう……。牢屋に入れられるのかなぁ……。
牢屋って冷たいんだよね……。このコッペパンも食べられないんだよね……。
小鳥たちもいないだろうし、何よりも柱がない。
そこまで思い、ふと、もう一度コッペパンをちぎり、小鳥へあげる。
騎士さまは「大丈夫」って言ってたけれど。
でも、昔聞いた王様のお話の中で、恐ろしいものもあった。無礼を働いた者を即座に斬り捨てるのだ。お話の結末で、その王様は英雄にやっつけられて死んじゃったから、めでたしめでたし、だったけど。
騎士さまは確か、そんなことにならないと思うけど、リリの味方ではいてくれる、とは言ってたけど。
確かに、あの人……『ダルトン様』はお話の中の悪い王様っぽくはなかったけれど。
柱が大好きな王様の弟で。
だから、信じている柱の女神がわたしだって分かったら、ものすごく悲しいだろうし……。
リリは大きく溜息を付きながら、自分の膝に顔を埋めた。
自分の身も心配だ。しかし、相手に嘘をついてしまっているかもしれないという罪悪感も、同時にリリに襲いかかってくる。
どうしよう……。
でも、そもそも、いらっしゃるか分からないし……。
考えても答えは見つからない。だから、騎士さまの言った通りに正直に姿を現して謝るしかない。
でも……やっぱり捕まって牢屋に入れられるのかなぁ……。王様の弟に嘘をついたことになっているわけだし……。王様って偉い人だし……。怒らせると怖い人だと思うし……。
その弟……なんだし……。
リリの考えは堂々巡りだった。
お腹いっぱいになった小鳥たちだけがいつも通り、窓の桟へ戻り、自分の羽毛の中に顔を突っ込んでいた。