20、エレクトリカルファイヤー猫パレード ――永遠に輝く地上の星座――
「クロードニャンコスキー先生。こんばんは。お越しいただきありがとうございます。本日お呼びしたのは、ギャラクシー猫信仰において最も心優しいニャンコスキー先生とユニヴァース猫信仰において最もあたたかいミャーオ大師の二人に、お願いがあったからです」
「ええ、聞いております。そこに、火を灯すのですね」
「そうです、ここに炎を灯すことで、完成するのです。エレクトリカルファイヤー猫パレードが」
「間に合ったのですね。日程の調整など、いろいろと大変だったでしょう。ご苦労様です」
「ええまあ、お忙しい二人ですのでね、正直に申し上げますと、確かに大変でした。しかし、ギャラクシー猫信仰を象った光と炎の地上絵と、ユニヴァース猫信仰を象った光と炎の地上絵を繋ぐ、この一点。そこに平和の炎を灯すのは、やはりお二人の手によるものでなくてはなりません。ミャーオ大師が間もなく到着するそうですので、迎えに行ってきます」
「ミャーオ大師にお会いできるのは楽しみです。あの方の見出した様々な猫座は、今も天に懸かっています。今日は、さらなる数多の星座たちを地上に生み出せることを楽しみにしています」
そうして、企画を進めた猫信仰の名もなき徒は、車に乗り込み走り去った。
残されたニャンコスキー氏は、ひとり静かに語り出す。
「かつてミャーオ大師が、数多の猫座を創作しました。それは一人の才覚によるものでしたが、エレクトリカルファイヤー猫パレードは、たくさんの猫信仰を内包した上で、豊かで、エネルギーに満ちた、爆発した芸術としての光の連なりなのです。ミャーオ大師も、非常に喜んでいることでしょう。
それにしても、いいものですね祝祭の雰囲気は。色とりどりの光と炎に彩られ、とても賑やかでありながら、猫信仰への敬意と、新たな時代の到来を予感させる革新性。さまざまな文化の融合にあふれんばかりの和気あいあいを感じます。すばらしい芸術です」
誰も答えることのないひとりごとは、なおも続く。
「このイベントは、衝突から始まりました。地上絵の作成に火を使う派と電気を使う派とで争いになりました。全世界を停電させて真っ暗にしたうえで、シンプルな炎の絵を形作りたい炎派と、環境や安全や健康や人命に配慮するために電気を使いたい電灯派。
互いにそれなりの理由はありましたが、両者が意見を持ち寄って、より良い方法を探した結果、両方使おうとなり、エレクトリカルファイヤー猫パレードの開催が宣言されました。
これは、ギャラクシー猫信仰における『シュレディンガーの猫』を発想の基盤としています。どういうことかというと、われわれの教えのなかで、『シュレディンガーの猫』という語は、量子力学的なイメージを借りて、信徒たちが宇宙の真の形を議論する際に用いられるのです。早い話が、愛猫自慢大会ですね。
これを、スペース三毛猫デブリ信仰がもつ圧倒的な科学力。ギャラクシー猫信仰やユニヴァース猫信仰のもつ精神力や包容力。猫耳娘溺愛サークル、オールウェイズ猫耳娘のもつ膨大な猫や猫耳娘の資料。その他いろいろ駆使しながら、はるか昔にミャーオ大師が創作された猫座というものをアップデートするのです。
炎と光の地上絵『エレクトリカルファイヤー猫』たちは地上の人々からは見えません。町ひとつ、場合によっては国ひとつレベルの、非常に大きすぎる地上絵だからです。それでも、ただちに見えなくとも、エレクトリカルファイヤー猫たちは確かに存在する。
その事実は、自己内のギャラクシー猫やユニヴァース猫の存在を喚び覚ますものでもあります。すべて私たちは、天上の猫たちに見守られながらも、それだけでなく、猫の上や猫の中で過ごしている猫なのです。
つまり、猫座は見上げるものではなく、自分自身が猫座の一部として参加することで、通じ合い、結束し、心を躍らせるように、世界すべてを変えていくように。そういう目的をもった大イベントが、エレクトリカルファイヤー猫パレードなのです」
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そしてニャンコスキー先生は、ミャーオ大師とともに、二人で炎のついた筒を傾けた。
組み合わさった木材を炎が満たし、火柱があがる。最後の点火が行われた。そして、それはまた、はじまりの点火でもあった。
天球はめぐっていく。たくさんの炎と光の猫座を抱きながら。
その連なりは、猫の形をしたものもあれば、猫耳娘の形をしたものもあった。そのほかの生物の形をしたものもあった。無生物の形をしたものもあった。それらすべてが猫だった。
地上の星たちが連なって猫座となり、猫座たちがすべて連結し、暗い夜の中に美しい輝きを見せている。
ギャラクシー猫信仰、
ユニヴァース猫信仰、
マンチカン座流星群信仰、
三毛猫派、
ノルウェージャンフォレストキャット派、
メインクーン派
イリオモテヤマネコ派
虎党、
サーベルタイガー派
ライオン派、
スペース猫デブリ信仰、
三千世界の犬信仰、
トイプードル派、
パピヨン党、
チワワ派、
さまざまなドーベルマン信仰、
月のスコティッシュフォールド派、
日本本島猫信仰、
無限入れ子式のウサギ型女性神胎内信仰、
キジトラ振興会、
ホワイトニャンキー同好会、
スミロドン愛好者、
猫耳娘溺愛サークル・オールウェイズ猫耳娘、
ギャラクシー眠り猫、
スペース三毛猫デブリ信仰、
茶トラオデッセイ、
チワワオデッセイ、
エスケイプウサギ信仰、
ネザーランドドワーフオデッセイ、
フェリニティ再誕説、
キャッツクロック信仰、
龍信仰、
龍虎信仰、
身代わり黒猫信仰、
ハピハピキャリー黒猫信仰、
共感反転の黒猫信仰、
ニヤーニャ学派、
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「美しい光の連なりを感じます。今ここにあるのは、連鎖的止揚のすがたそのものであり、このパレードは永遠に続いていくことでしょう。もはや、私から言えるのはただ一つ、
――汝の猫を愛せよ
それこそが、カワイイひとつの道――あ、いえ、いえ、違いますね。カワイイ道のひとつなのです。であれば、自然な流れとして、この言葉も、ほんの少し変わるのでしょう。
――汝の猫も愛せよ
とてもカワイイです。」
おわり




