12、二次会:ギャラクシー猫耳娘たち ――大衆化の諸相――
惜しまれながらも終わった懇親会。
二次会は有志のみで行われることとなり、そのメンバーはユニヴァース猫大学やギャラクシー猫大学、ジャパニーズボブテイル大学などにまたがって活動する猫耳娘溺愛サークル、「オールウェイズ猫耳娘」のメンバーが大半だった。
ほとんど無理矢理に連れ去る形で、大学の大教室の一つにクロード・ニャンコスキー先生を招いたのだった。
それぞれが持ち寄った大量の飲食物を広げて、二次会が始まる。
リーダー格の男は言う。
「つい先日、クロード・ニャンコスキー先生が講演に来て下さると知り、皆でそれぞれが推すギャラクシー猫耳娘と、ついに結婚に踏み切ったのです」
すでに酔いが回ってきていたクロード・ニャンコスキー先生は、冷静な判断能力を少し失い気味であった。
「ほう、それは興味深い」
と朦朧とする意識の中で歎息した。
「先生がよく語るお言葉をもじって、『汝の猫を愛せよ』というのが、我々の合言葉です」
「なるほど、面白そうです。それでは、あなた方の信仰を見せてください」
そうして「シュレディンガーの猫」(愛猫自慢大会)が始まった。
★
「これは? タイトルを教えてください」
「これはですね、先生。何だと思いますか?」
「足が三本あるように見えるのは、これはギャラクシー猫耳娘を描く際に、たまに行われる作法ですね。あくまで人間ではないことを示すために、あえてそう描くのです。つまり、これはギャラクシー猫を描いていることになります。そして、それが眠っているということは……」
「『ギャラクシー眠り猫』です」
「やはりそうですか。なんと素晴らしいことでしょう。眠り猫というイメージは、かなり昔からありまして、こんにちでも瞑想に繋がるという考え方は表向きの意味としてはあります。
ただし、このあなたの嫁は、役目を終えて眠りについた、そう、ギャラクシー猫信仰の現在そのものを象徴しています。もはや信仰を喧伝しなくとも、人々の心にギャラクシー猫は根付いたのです。起きて布教する段階は過ぎ、穏やかで安らかな永遠の休眠期にいることを示しているのです!」
「その通りです。さすがです先生」
「見てください、この安らかな寝顔。本当に何の苦しみもなく、この空と大地、すなわち、我々が詳細に観測できる範囲全てを抱いています。カワイイ……あまりにもカワイイ嫁です」
「ありがとうございます! その通りです!」
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「ニャンコスキー先生、わたしの嫁も見てください」
「ほう、どのようなカワイイがありますか?」
「これです」
「カワイイですね! これは?」
「ふふ、かわいいでしょう先生。何がモデルか、あててみてください」
「配色が白黒オレンジの三色であること、そして、この砂漠のような異星の大地と、そこに置かれた箱型の機械……。ということは、スペース三毛猫デブリ信仰の猫耳娘ですね。科学力を宣伝するために生み出された人気の猫耳キャラクターです」
「お見事です」
「スペース猫デブリ信仰とは色々ありましたが、本当に今は良い思い出なのですよ」
★
「ニャンコスキー先生、次は俺の嫁です」
「なるほど。地上から見上げる月と猫耳娘。この幻想的で美しい雰囲気は、月のスコティッシュフォールド派をモチーフにした猫耳娘ですね。はじめは猫そのものと月とを幻想的に描いていたのですが、時が流れ、この形が定型になっていきました。この流派が多数の絵師を抱えたことによってのちに猫耳娘のクオリティが格段に跳ね上がったのを強く記憶しています。やはり、カワイイですね」
「そうでしょう? 母の飼っていた猫が亡くなった時に描かれたもので、我が家の家宝になっているんですよ」
「非常にカワイイです。あーカワイイ。カワイイなぁ」
「先生、もう語彙が」
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「次のカワイイのは何ですか?」
「先生の前でこの嫁を見せるのは恐縮ですが……こちらです」
「おおおっ! マンチカン座流星群信仰ですね! はぁああカワイイ!」
「あの、これ、先生とは、いろいろ軋轢があった信仰ですよね」
「でも見てください。カワイイですよ。ほら、ほおら、カワイイ!」
そう言って、ニャンコスキー先生は拍手をされた。
「あの、先生、どちらかといえば先生は、偶像崇拝は推進しない立場ではありませんでした? 我々、それをカワイイの力で塗り替えようと意気込んで集まったのですが、これでは肩透かしといいますか……」
「何か文句がおありですか? 目の前のカワイイものはカワイイに違いないです。この子はあなたの嫁ですか? 私の嫁にしたいほどです」
「えと、お褒めにあずかり、光栄です」
★
「おや? こちらは?」
「これは僕の嫁ではないのですが、ホワイトニャンキー同好会の猫耳娘が知り合いにいまして、儀式の様子を描き取ったものを見せてもらったんです。誰にも見せないことを条件に研究資料として複写させてもらいました」
「約束を破ってはダメでは?」
「しかし、それでもニャンコスキー先生に見てもらいたかったんです。みてください、これ、おもったより屹立してるでしょう? しっぽが」
「ええ、美しい白い尾に女性が手を伸ばしていますね。聞いていたより立派な尾です。というか、全体的に想像のひとまわり巨大ですね」
「白猫がこちらを睨みつけているのも、なにか不気味ですよね」
「貴重な資料をありがとうございます。それで? あなたの嫁は?」
「これが僕の本命の嫁です。僕のユニヴァース猫は、異世界猫耳娘信仰です。現実の猫ではなく、異世界から召喚されてきたユニヴァース猫耳娘に人生を捧げています」
「このこは、なぜ泣いているのですか?」
「予期せぬ召喚だったんです。帰りたい帰りたいと言って、すがってくるんです」
「カーワイイッ」
「先生? 酔ってます?」
「酔ってますよ? 見てわかりません?」
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「カワイイですね。カワ……」
「先生? 先生? 起きてください。先生?」
「おっと、すみません、睡魔が。ええと、おお、この私の嫁はギャラクシー猫娘ですね。地上で、ねこじゃらしを持っているところからすると、やや現実的な信仰をもった一派のものとみました。ひょっとして、ギャラクシー猫耳娘が描かれ始めた初期のものですか?」
「カワイイでしょう?」
「カワイイです。はぁー、もう、すべてがカワイイのです」
★
「先生、先生ッ。朝ですよ。ああだめだ。眠ってしまわれている。すっかり満足されたようすで、安らかな寝息を立てて、まるで、ギャラクシー眠り猫のようだ」
「ほんとですね。先生も、ずいぶん楽しんでおられたから。今日はこの大教室を借りっぱなしにして、存分に眠ってもらいましょう」
「おやすみなさい、ニャンコスキー先生」
「起きたらつづきをしましょうね。まだまだ嫁を自慢したい者たちが先生のお言葉を待っていますから」
「すやすや」
【終】
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ありがとうございました。