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空の移動


 羽の生えたトカゲは、竜ではなくワイバーンというらしい。そうだとは思っていたけど、本当にそうだった。ワイバーンと言えば、異世界物の定番だからね。


 彼らは卵から産まれてくるワイバーンを、生まれた瞬間から人の手によって育てる事で手懐け、ワイバーンを移動手段や軍事的に利用しているらしい。野生のワイバーンはとても狂暴な魔物らしいんだけど、このワイバーン達はそうでもない。本当に人に懐いていて、まるで犬か何かのように従順だ。


 で、ここからの移動はそのワイバーンによって運ばれる事になった。


 方法は簡単。まず馬車から馬を外します。馬車をロープで6匹のワイバーンと繋ぎます。あとはワイバーンが飛んで馬車を浮かばせ、目的地までひとっ飛び。

 という訳で現在私達が乗る馬車は、空を飛んでいる。周辺には馬車とロープで繋がれたワイバーンが飛んでおり、見た事のない光景が広がっている。

 でもコレ、大丈夫か?少しでもワイバーンの編隊が崩れると馬車が大きく傾き、馬車の中にいる私達も当然片方に寄ってしまう。

 乗り心地?最悪だね。安定している時はいいけど、安定していない時は本当にヤバイ。それでも私は触手を駆使して皆を固定してあげているので、さほど大きな混乱はないけどね。

 一部を除いてね。


「ひ、ひいぃぃぃ……!」


 私の触手に必死にしがみついて叫び声をあげているのは、ネルルちゃんだ。どうやら高い所があまり得意ではない……という訳ではないみたいなんだけど、この高さと揺れに激しく動揺している。

 始めは、『面白そうですね!』なんて言ってたのに、想像してたのと違ったみたいでこの有様だ。


「落ち着いてください、ネルルさん!大丈夫です!慣れれば割と面白いです!」

「全然面白くないです!怖いです!」


 一方でフェイちゃんはこの状況を楽しんでいる。

 さながら、ジェットコースターを純粋に楽しんでる人と、最初は楽しんでいたけど乗ってみたら案外怖くて泣きべををかいている人の図だ。


「カトレアは、平気?」

「はい。カラカスに訪れる時は割とよくある事なので、もうなれてしまいました。最初はやはり、怖かったですけど」


 さすが、カトレア。イスに座ったままノーリアクションで、本当に慣れているっぽい。


 そうして激しく揺れる事2時間程だろうか。窓の外へと目を向けると、その町が見えて来た。


 2つの山の間にそびえたつ、山のような形のお城。さながら3つ目の山のように建っているそのお城は、巨大で優美。美しい金属の装飾が施されているお城は、日の光に反射して眩しいくらいくらいに輝いて見える。

 城下の町もまた巨大で、大きな建物が立ち並んでいる。さながらマンションの密集地のよう。ただ、あちこちから黒い煙が立ち込めていて、若干空気が悪いね。ちなみに煙は火事による物ではない。煙突から出ているので、何か火を使った作業をしているんだと思う。この町は鉱山がどうのと言っていたから、鉱石関連の火かもね。

 町の大きさは、デサリットより大きく、ギギルスよりも少し小さいくらいだろうか。ここが、ザイール諸王国の中心となっている国である。


「ついたようですね。この移動力には本当に驚かされます……。皆さん、あそこがザイール諸王国一の技術大国、カラカスですわ」


 カトレアは、あと数日かかると言っていた道のり。空路を利用する事で、それをたったの2時間程で移動できてしまった。

 この町は高度の高い場所にあるので、陸路だと山を登るためにくねくねした道を通る必要があるからこの差が生まれたのだと思う。それにしたって、速すぎる。

 この移動速度は大いに武器になる事だろう。あの大きな国を支えているのは、この移動力かもしれない。知らんけど。


 ワイバーンによって運ばれた私達は、直接お城へと連れて来られた。お城の中腹くらいには、出張った円形のヘリポートみたいな場所があって、そこに軟着陸をして空の旅はおしまい。

 ちなみに馬とか他の兵士は、地上ルートでこちらに向かっている。ここへ連れて来られたのは、私達だけである。

 さすがにあの荷物全てと馬に人も運ぶのは、骨が折れそうだしね。ワイバーンだって数と体力に限りがあるだろうし、そういった問題でとりあえず一番偉いカトレアだけを運んでくれたと。そんなところだ。


 たどりついた私達は、馬車から降りたってその光景を目にする。

 眼下には、背の高いマンションのような建物が建ち並ぶ。活気に溢れていて、人は無数にいる。この国は確かにギギルスよりも小さいけど、その分建物が密集していて人が多い。それは山の間に挟まれた限りある平地に、できるだけたくさんの人が住めるようにするためにそうなったんだと思う。

 確かにこんな国が援軍として駆けつけてくれるのなら、デサリットをアスラ神仰国から守る事もできたんじゃないか。そう思える。

 ただ、やはり空気が悪い。町を覆いつくす程の黒い煙は、焦げ臭いのと何かが腐ったような臭いやらが混じっており、とても臭い。そして気づいた。私の鼻、麻痺している。この臭いのせいで、人々の臭いを嗅ぎ取る事ができない。つまり、神様関連の臭いも嗅ぎ取る事ができない。


「ちょっと空気は悪いけど、凄い所でしょ。自慢のカラカス王国首都クルグージョアは、気に入ってもらえた?」

「す、凄いです。こんな光景、初めて見ました……」


 フェイちゃんはその光景に感動している。元々平民暮らしで、デサリットから出た事もなかったみたいだからこういう光景を見た事がなかったのだろう。その分、彼女は私よりも感動しているように見える。


 それはそれとして、私は妙な気配を感じ取った。煙で臭いが分からないので、感覚強化か何かで感じ取っている物だろうか。何か、どこかで感じた事のあるような気配を感じるんだよね。それは町を囲う山の方から感じる気がする。

 だけど山は普通の山だ。切り立ったごつごつの岩が立ち並ぶ、険しい石の山。見ても気配の正体は分からない。


「ところで貴女は何?アリス様とメイドさんは分かるけど……剣を持った子供?」

「も、申し遅れました。私、カトレア様の護衛を務めるフェイメラ・リングレイシアと申します」

「子供が護衛?」


 兜を被ったままのシェリアさんが、首を傾げる。

 まぁ変だよね。フェイちゃんみたいな子供が剣を持って護衛とか、聞く人が聞いたら笑ってしまうかもしれない。だけどそれは、フェイちゃんの実力を見てからにしてほしいものだ。


「カトレアが認めたと言う事は、強いんでしょ?凄いね!その年でお姫様の護衛とか、普通はなれるもんじゃないよ!」

「あ、ありがとうございます」


 しかしシェリアさんの反応は予想外だった。フェイちゃんが護衛だと言う事をあっさりと認め、兜で隠れている顔も笑っている気がする。

 この人、イケメンだ。もしかしたらリーリアちゃんも超えるイケメンかもしれない。


「それで、貴女のお名前は?」

「わ、私ですか?私はただのメイドで、自己紹介などおこがましく……」

「いいから、教えて。あたしは知ってるだろうけど、シェリアね」

「ね、ネルル・ケイロンと申します!」


 ネルルちゃんはシェリアさんに迫られ、勢いよく頭を下げながら自己紹介をした。


「うん。よろしくね」


 それを満足げに見ているシェリアさんは、更にイケメンだ。身分関係なく、親し気に接する彼女には更に好感が持てるよ。


「空の移動は、怖かった?ごめんね、怖がらせて。実は少し前に、貴方達が通ろうとしていた道の先にある小さな村が一つ、何が原因か分からないんだけど突然消えちゃって……。原因がハッキリしないから危険を避けるため、要人は大きく迂回させるか空での移動になっちゃうんだ」


 村が、消滅?しれっと怖い事を聞かされた。一体何がおこったら村が消えるなんて事になるのさ。もしかして、隕石?隕石がふってきて、村に直撃して吹き飛ばされたと。

 ちょっとロマンはあるけど、それで死んでしまった村人の事を想えばロマンを感じている場合でもないね。


 それよりも私は、カトレアに伝えなければいけない事がある。この鼻がきかないと、彼女に伝えておかなければいけない。


「……カトレア」

「──ようこそいらっしゃいました、カトレア様!」


 しかし私の声は、お城の中から出て来た男の人の声でかき消された。

 男の人は長身やせ型の人で、男なのに長髪だ。長い髪を後ろで編んでおり、風に揺れている。目は糸目のように細く開いており、それがすんごく怪しい。

 臭いが分からないので、私は即アナライズを発動させて彼のステータスを盗み見る事にした。臭いで判断済みだけど、ついでにシェリアさんも見ておく。


 名前:シェリア・リル・クルグージョア 種族:人間

 LV :130  状態:普通


 名前:アンヘル・ジェネット 種族:人間

LV :80  状態:普通


 レベル的には、なんとも言い難い。でも人間的には強い方だろう。少なくともフェイちゃんよりは強いね。でも私よりは弱すぎる。

 まぁレベルの事はとりあえずいいんだよ。問題は、2人が神様関連の人ではなかった事だ。安心したよ。


「アンヘル様。お久しぶりです」

「ええ、お久しぶりです。しかしまぁ、来るとは聞いていましたが本当に来るとは思いませんでした。ザイール諸王国を一方的に抜けておいて、会議にはのこのこと姿を現わすなど誰も思いませんから。ボクも、思いませんでした。その根性には感心させられます」


 でも、男の人はカトレアに向かってそんな事を言って来た。

 神様関連の人じゃないけど、いきなりカトレアにそんな事を言ってくるなんて無礼じゃないかな。食べたくなる衝動に駆られたよ。


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