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のんびり


 デサリットを留守にするにあたって、いくつかの問題がある。

 私が留守にしている間、ここを誰が守るのか。ギギルスに行った時はさほど危機が迫っているようには感じなかったので留守に出来たけど、本格的に神様に喧嘩を売りだした今はそういう訳にはいかないだろう。

 でもそれは、頼れる魔物の友達によって解決された。


「私にお任せください。命を懸けても、この町の人々は守ってみせます」


 テレスヤレスがそう言ってくれたので、安心だ。

 テレスヤレスの強さは折り紙付きだからね。安心して任せる事が出来る。


 問題は、フェイちゃんだ。離れる事になれば彼女に稽古をつける約束を、果たす事が出来ない。かといって、一緒に連れて行くのも問題しかない。

 だって、危険な目に合うかもしれないし。私が守ってあげられるとも限らない事態になる可能性だってある。そもそも子供を連れて大切な会議に赴くとか、どうなの。


「付いて行きます。自分の身は自分の身で守るので、何があっても捨て置いていただいても構いません。是非、カトレア様の護衛の任につかせてください!」


 フェイちゃんに話したら、こんな感じでついてくると言い出して聞かなくなってしまった。

 いやまぁ、彼女の実力なら護衛についてもらってもいいくらいなんだけどね。でも子供なんだよなぁ。

 ……待てよ。逆に、子供だから相手も油断するかもしれない。まさかこんな子供がお姫様の護衛だなんて、誰も思わないだろうし。

 いやいやいや。かといってそんな危険な仕事を子供にさせるとか、どうなの。大体にしてアルちゃんはどうするの。アルちゃんを残して行くとか、可哀想じゃないか。


「私は大丈夫!お留守番、ちゃんとする!だから、頑張ってお姉ちゃん!」


 姉の大役を、妹は喜んで応援して送り出そうとしてくれている。

 アルちゃんにそんな事を言われたら、連れて行かない訳にはいかない。こうして、フェイちゃんの同伴が決定した。




 それからしばらくして、私達は会議が行われるという国へ向かい、デサリットを出立した。

 歩いて彷徨うのも、馬車で移動するのも、もう割となれた。のんびりとした移動は、嫌いじゃない。特に、馬車に揺られているだけで目的地につく移動は好き。


「フェイメラ。このお菓子、とても美味しいですよ。食べてみますか?」

「あ、ありがとうございます、カトレア様。ですが私は今、お仕事中なので……」

「では、お茶を淹れますね。馬車の中なので零さないように気を付けてください」

「ありがとう、ネルル。お願いしますわ」

「え、えぇっとー……あ、ありがとうございます」


 馬車の中には私とカトレアに加え、フェイちゃんとネルルちゃんがいる。馬車は対面式の座席になっており、4人でも充分な広さがあるんだけど、カトレアは当然のように私の隣に座って密着気味。窓際においやられた私は若干狭さを感じている。まぁ別にいいけどね。


 女子率100%の馬車内は、さながら遠足気分の女子会である。良い匂いのするふわふわ空間が出来上がっており、私の食欲がそそられる。


 ネルルちゃんはカトレアにお願いされると、座席の下から荷物を取り出した。そして馬車に揺られながらなのでいつもより丁寧に慎重に準備し、水筒に入ったお茶をコップにいれてくれた。

 さすがに、熱々のお茶という訳にはいかない。それでも馬車に揺られながらお茶を飲んでお菓子も食べられるとか、贅沢過ぎるよ。


「アリス様も、どうぞ」


 渡されたカップに口をつけると、常温だからいつもより何か物足りない。味も、美味しいのか不味いのかよく分からない。今の私は人と美味しいという感覚がずれているからね。でもネルルちゃんが淹れてくれたお茶は好きだから飲む。

 お菓子は遠慮しておいて、フェイちゃんにあげた。高そうな焼き菓子なので、私が食べてももったいないから。


「アルメラにも、食べさせてあげたいなぁ……」


 美味しそうにお菓子を食べながらも、そう呟くフェイちゃん。本当に、妹思いのお姉ちゃんだ。

 しかしフェイ自身もまだまだ子供だという事を忘れてはいけない。それは私も、本人もね。


「……あの日、全てに絶望していた貴女が、まさかこんな形で行動を共にするようになるとは思いもしませんでした」


 カトレアが懐かしむように言って、私もあの時の事を思い出す。

 両親を殺され、酷くショックを受けたボロボロの服装の女の子。その女の子には妹がいて、必死に妹を抱き締めていた。

 あの時の子が少しだけ成長したけどまだまだ子供で、だけど大人顔負けの強さを誇るようになっている。そしてお姫様の護衛なんて務めるようになっているんだから、感慨深いよ。


「み、皆さんには、本当に感謝しています。平民の、孤児となった私とアルメラに本当によくしてくださって……感謝してもしきれません」

「感謝してほしくて言ったのではありません。本当に、よく成長したなと思ったのです」

「私も分かります。あの時のフェイメラさんを想うと立派になられて……私、泣いちゃいそうですっ。ぐすっ」


 さすがに泣くのは早いと思う。でもあの時のフェイちゃんを知っているからこそ、今のフェイちゃんを見て泣けるのだ。


「や、やめましょう、この話!私は皆さんに感謝しています!その恩を返すために働く所存です!以上です!」


 フェイちゃんが空気に耐え切れず、強制的に話を打ち切った。打ち切りながらも所信表明をし、皆に感謝している事を伝える。良い子だな。


「それは嬉しいけれど、気張らないようにしてくださいね。特に今回は、貴女が気張る必要はありません。私の傍にいてさえくれれば良いのです。ネルルも、くれぐれも私から離れないようにしてください」


 まとまっていてくれた方が、私が守りやすい。だから3人には常に一緒にいてもらう作戦である。カトレアはお城を出てから、確認するように何度もフェイちゃんとネルルちゃんにそう言い聞かせている。


 窓から馬車の外を覗くと、周囲にはもう3台の馬車がいるだけ。礼服姿の兵隊さんが馬に乗って付いて来てはいるけど、ほんの5人程。馬車には荷物が載せられているだけで、戦力としては私達を覗き、全部合わせて10人くらい。一国のお姫様を運ぶ車列としては、あまりにも護衛が少なすぎる。けど私の存在を考慮すれば、充分と言えなくもない。というか私だけでもいいくらい。

 でもカトレアの身の回りのお世話をする人も必要なので、ネルルちゃんについてきてもらった。さすがに兵士がゼロというのも礼節にかけるので、最低限の兵士に付いて来てもらう事にし、この数に落ち着いたと言う訳。

 ちなみに兵士はデサリットでも選りすぐりの実力者だ。あくまで、人間レベルだけど。それでもフェイちゃんよりもレベルが高い人達で、強者の手も借りずに自力で強くなった彼らは凄いと思う。


「わ、分かっています。カトレア様の傍で、カトレア様の身を守るのが私のお仕事ですから」


 その言葉の意味を、フェイちゃんは勘違いして受け止めている。別に、傍にいてくれるなら勘違いしたままでもいい。


「ふふ。期待していますよ、フェイメラ」


 カトレアも分かっているので、フェイちゃんの気合を否定せず、優しく笑いかけながらそんな声をかけるのだった。


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