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真面目な話


 カトレアに連れて来られてやってきたのは、お風呂だった。

 お城のお風呂は凄く広い。まるで浅めのプールのようで、窮屈さとは無縁だ。


 そこに、私はいる。勿論素っ裸でお湯に浸かっている。

 隣にはカトレアもいる。勿論素っ裸でお湯に浸かっている。


 なんていうか……こういうのもなんだけど、カトレアって脱ぐと更に凄い。服を脱いで改めて見る彼女のスタイルは、やっぱり完璧だ。胸は大きく、お腹はくびれ、顔もよくて、完璧で人々を魅了するのが彼女である。

 彼女の持つ魅了のスキルは、ただでさえ完璧な美しさをもって人々を虜にする力を補完している。


 でもそのスキルは時として、私のような化け物を誘ってしまう。とても美味しそうに見えてしまうのは、ある意味弱点でもあるよね。


 まぁそれはそれとして、何故私はお風呂にいるのだろうか。確か、大切な話があると言われて連れて来られたはずだ。それがどうしてお風呂になるのか……不思議だ。

 でも丁度外で汗を流して来た所だし、丁度良いと言えば丁度良い。彼女とは女の子同士だし、裸体を見られるのも見るのも問題ない。


「ふふふ……」


 いやぁでも、歪んだ笑顔を浮かべながら私の全身を見て来るのは勘弁してもらいたいな。

 それに、フードがないのも落ち着かない。いくら見知った人が相手とはいえど、顔を湯面に半分ほど沈めて隠してみても、どうにも落ち着かない。顔を隠すのに、なれすぎたな。


「フェイメラの修行は、上手く行っているようですね。彼女の強さは子供ながらも大人を圧倒するようになり、皆が驚いています。全てはアリス様の教育の賜物……アリス様は教育の才能もおありなのですね」

「……それは違う。私のやり方では、真に強い人を育てる事は出来ない。だからリーリアちゃんがいなくなった。もっと強くなるためには、私の傍にいたらいけないという理由で」

「リーリアさんは、アリス様のため、自分のためにアリス様の下を去ったのですよ。ひがまずに、フェイメラやリーリアさんを強く育てた自分を誇ってください。私はアリス様のその人を育てる才能を褒めているのですから」

「……」


 素直には受け取れない。だって私がもっと上手く教えてあげる事ができれば、リーリアちゃんと一緒にいられたのだから。

 レヴは一体、どうやって強い人を育てているのだろうか。確か、神様に対抗するための戦力を揃えるために強い人を育てているんだよね。

 化け物級に強いバニシュさんや、結構強いクァルダウラも彼女が育てたらしい。一体どうやってあんなに強い人を……。


「それはそうと、真面目なお話があると言いましたよね」


 そういえばそうだった。お風呂で素っ裸の若く美しい女の子と2人きりの環境に落ち着かなくて、忘れていたよ。


「……何?」

「実は、近くザイール諸王国の王達が集い、デサリットに対する対応を協議する会議が開かれるようなのです。会議は不定期的に行われており、ザイール諸王国会議と呼ばれています。諸王国の王たちが集まり、諸王国の方針を決める大切な会議です。その会議の決議次第で、事と場合によってはザイール諸王国と戦う事になるかもしれません」

「私の強さの事は、伝わっているはず。それでも戦う事になるの?」


 私はそのために、デサリットに名前を貸して守護者を名乗っている。アスラ神仰国の軍勢を、退けた化け物。デサリットで暗躍する組織を、一人で壊滅させた化け物。魔族の軍勢に包囲されたアスラ神仰国に乗り込み、神を崇拝する者達を殲滅して国の名を元のギギルスという名前に戻した化け物。


 アリスという人物にまつわる噂は、こんな感じで周囲に広まっている。もうホント、化け物扱いだよ。

 そんな化け物が守ると宣言しているデサリットに攻め込むとか、正気の沙汰じゃあない。


「勿論、アリス様の存在は周辺の国々も認知し、その強さについても知っているはず……。その上でデサリットに攻め込もうなどと考える者は、通常はいないでしょう。ですが、私の考えが正しければザイール諸王国の中には神に支配されている者がいます」

「何故、そう思うの?」

「ザイール諸王国がデサリットに援軍を送らなかった事から始まります。普通であれば、全会一致で援軍が送られるはず。ですが知っての通り、援軍は送られませんでした。まるでデサリットがアスラ神仰国に飲み込まれる事を望むかのような、そんな意思を感じます。恐らく、ザイール諸王国の中のそれなりの立場にいる者が、神に支配されている者と推測されます。そしてそのような立場に神に支配されている者がいると言う事は、例え無茶な提案であったとしても通ってしまうかもしれません」

「……」


 カトレアが深刻にそう呟き、両手ですくったお湯を顔にかけた。それで一息ついて、話を続ける。


「とはいえ、諸王国を動かすにはそれなりの理由が必要ですわ。理由とは、例えば諸王国に所属する国が他国に攻められたとか、諸王国を脅かす存在となり得る者がいるとか、と言った所です。デサリットは後者の、諸王国を脅かす存在になりつつあるという理由で攻め込まれる可能性が高いです」

「……諸王国を攻めようなんて、誰も考えていない」

「考えていなくとも、人々の目には私達が脅威として映るようになってきています。その原因が……魔族との繋がりです」


 合点がいった。どうして今になって急にそんな話になったのか、分かったよ。

 つまり、魔族と仲良くなってしまったのがトリガーになったのだ。この世界において、人間と魔族の仲は悪い。デサリットが人間と仲の悪い魔族と手を組んだ風に見られ、諸王国は警戒しているのだ。特に魔族は先日、ギギルスに攻め込んだばかり。それは人間全体に喧嘩を売るのと同義で、レヴはその覚悟で侵攻を始めた。

 結果は私が神様関連の人だけを余す事なく食べきった事で、大きな混乱を生むことなく収まった訳だけど……攻め込んだ事には変わりない。オマケにギギルスには魔族が駐留する事になり、はたから見れば事実上占領されたとも受け止められる。


 次はデサリットと魔族が手を組んで、自分たちを攻めて来るのではないか。だったら、攻められる前に手を打とう。自然な流れといえば自然だ。


「……ごめん。私が勝手にレヴと組んで、神様に喧嘩を売る事にしたからこうなった」

「それは違います。私達は、自分の意思でアリス様についていき、神という存在に対抗する事を決めました。この国は、貴女に救われてから貴女と共にあります。私達は、巻き込まれたなどとは思いません。そのような考えはお捨てください。良いですね」

「でも──」

「いい、ですね!」

「……うん」


 珍しく怒り顔のカトレアに押し切られ、私は頷いた。


「でも、どうするの?」


 いくら攻め込んで来たからと言って、殲滅するのは気が引ける。いやまぁ、デサリットを守るためならやるけどさ。食べればレベルも上がる訳だし、私にとってメリットはあるからね。相手が例え神様関連の人ではなくても、敵だというならやるしかないだろう。

 でもカトレアはそれを望んでいる訳ではない。だから、私に真面目な話があると言って呼び出し、こうして話をしているのだ。


「……その会議に、私も参加しようと思っています」

「出来るの?」

「はい。何を思ったか、諸王国を抜けたこの国にも招待状が届いたのです。参加するもしないも自由ですが……私は参加しようと思っています」

「罠の可能性がある」

「分かっています。チャルスは呼び出されて罠に嵌まり、神の紋章を刻まれる事で神に支配されてしまいました。彼を殺したのは私も同然……そして今、今度は私がその罠に足を踏み入れようとしている。でも勿論、おとなしく罠に嵌まる訳ではありません」

「……私も一緒にいけばいいの?」

「その通りです!アリス様が一緒に来てくださなるなら、罠も意味がありませんので!」


 カトレアが喜んで、私の手をとってきた。顔が自然と近くなる。お風呂につかっているせいか、その顔も身体も赤く染まっていて色っぽいんだよね。

 照れた私は、触手で顔の間を遮る事で自我を保った。でも手は握られたままなので、距離はあまり変わらない。


「でもそれで、変えられる?」

「会議で神に支配されている者を炙り出し、神の危険性を説いて人々の意識を変えるのです。敵はデサリットでも魔族でもなく、神だと認識させる事が出来れば、デサリットが攻められる事はありませんし、神に対抗するための仲間も増えますわ」

「それじゃあ、諸王国を抜けた意味がなくなる」

「諸王国を抜けたのは、ケジメです。それにまだ、上手く行くと決まった訳ではありません。いざとなったら逃げる事になるでしょうし、リスクはありますわ」

「……素朴な疑問が、一つある」

「なんでしょう」

「王様じゃなくて、カトレアが行くの?」

「父上はそれ程頭の回転がよくないので、話がまとまりませんわ。それに逃げる事になれば、あの体形では体力が持たないかもしれません。なのでお留守番です」


 酷く納得できてしまう理由だった。


「とりあえずお話は終わりにして、あとはお風呂を満喫しましょう。アリス様のお肌を、目に焼き付けておきたいのでもっとよく見せてください。……触ってもいいですか?」

「ダメ」

「……」


 カトレアは不満そうにしているけど、そればかりは譲れない。だってまだ、リーリアちゃんともした事がない事だからね。

 一緒にお風呂に入ってあげたんだから、それで満足してもらいたい。



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