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自分のやり方


 それから少しの時間が経過し、デサリットの運営はピンチを迎えた。周辺の国から交易を止められるという、嫌がらせをされているせいだ。

 加えて天候が悪い。晴れの日が続いて今年は作物が不漁で、食料問題も噴出したのだ。というか元々戦争によって田畑が荒らされているので、食糧問題は遅かれ早かれ訪れる事だった。


 でもそんなピンチを、レヴがなんとかしてくれた。レヴが去ってから少しの時間が経過し、デサリットを魔族側の偉い人が訪れたのだ。魔族と色々な交易の約束を交わし、様々な品物がデサリットに入るようになると町は前よりも活気づいた気がする。

 食料についても、ギギルスが支援してくれる事になったのでそれで解決した。ギギルスは田畑に被害が全くないからね。食料も余り気味で、話を聞いて支援してくれる事になったらしい。デサリットの人々に酷い事をした、せめてもの償いといった所だろう。

 魔族からの物資の搬入は、魔族の領地と接しているギギルス経由で何とかなるし、ついでに食料も一緒に運ぶことが出来る。

 何もかもが上手く回るようになり、カトレアの重荷も少しは軽くなったようで。近頃はあまり忙しくないらしく、用もなく私の下に訪れては無駄にくっついてくる。


 まぁ、それはそれで嬉しいよ。彼女の私に対する愛は、本物だ。ちょっと重くて怖いけど、リーリアちゃんの穴を彼女が少しだけ塞いでくれて楽になれるし。いや本当……ちょっとだけね。


 私の方は、フェイちゃんを強くすると言う約束を果たすため、彼女と奔走している。リーリアちゃんにしたのと同じように、彼女にはまず基礎を覚えてもらった。それで少し剣を操れるようになると、一緒に近くの森の中へと入るようになった。そこで弱めの魔物と戦ってもらい、地味にレベル上げをしていく。

 その際私も魔法の習得のために魔法を使用させてもらい、魔法の経験値をあげていった。


「──はああぁぁ!」


 現在は森の中で、巨大な熊型の魔物を相手にフェイちゃんが剣を振りぬき、切り裂いたところである。熊は雄たけびをあげながら身体から血を噴き出すと、事が切れたように地面に倒れこんだ。


「はぁ、はぁ……」


 中々の激戦だった。熊の魔物のレベルは、この辺りの魔物にしてはけっこう高めだったから。それをフェイちゃんは、ほぼ一人で倒して見せたのだから大したものだ。

 あの小さくか弱い少女が、大きな魔物を倒せるにまで至ったんだよ。その期間はたったの半年程。彼女の身体はまだ小さいままなんだけど、それでも強さに比例するように、着実に大きくはなって成長している。


 名前:フェイメラ・リングレイシア 種族:人間

Lv:34  状態:普通

 HP:480  MP:155


 フェイちゃんのステータスはこんな感じで、普通レベルの大人では相手にならないくらいに強くなっている。


 『フェイメラ・リングレイシア』習得スキル一覧

 ・言語理解:人語

 ・連続攻撃Lv1

 ・俊足Lv1


 スキルも少しだけ増えた。最初は何のスキルも持っていなかったフェイちゃんが、戦いの役に経ちそうなスキルを覚える事によって更に成長を見せている。

 そのスキルから、彼女がどう戦えばいいのかが見えて来る。

 連続攻撃は、連続して攻撃を繰り出すときにその剣のスピードをあげるというスキルだ。フェイちゃんは素早い連続攻撃で相手を圧倒するタイプだね。一撃は一撃は、弱い。でもその弱い攻撃を繰り返す事により、確実に相手の体力を減らしていく。


「お疲れ様。イイ感じだった」

「あ、ありがとうございますっ……はぁ、はぁ」


 激戦だったため、フェイちゃんの息はかなり上がっている。


 今の彼女は、戦うのに邪魔がなるという理由で髪の毛を短く切ってショートヘアにしている。その体つきは女の子っぽく成長しつつあるのに、どこか男勝りでまるで……リーリアちゃんのようだ。

 勿論彼女はリーリアちゃんではない。リーリアちゃんの代わりになんてなり得ない。

 でも、とても美味しそうに育ってくれている。それが嬉しくて、疲れて地面に座り込んでしまっている彼女を労うように、触手で頭をなでなでしてあげた。


「少し休憩したら、今日はもう戻ろう」

「……私は、まだいけます!」


 剣を杖代わりにして立ち上がり、気合を見せてくれる。

 彼女は、根性がある。どんなに疲れていても、無理に身体を動かそうとするのは彼女が強くなろうと焦っているせいだ。その焦りは彼女を強くするのと同時に、身体を壊す危険性もある。


「……そう。なら、今からしばらくの間、私の触手を剣で防いでいみて」

「あ、アリス様の、触手をですか……?」

「そう」

「っ!?」


 私は問答無用で触手を繰り出すと、フェイちゃんが剣でその触手を防いだ。でも更に別の触手も襲い掛かっており、その触手によってフェイちゃんの足が叩かれてしまう。

 勿論手加減している。だいぶ力加減が上手くいくようになっているので、脛当てを装備しているフェイちゃんを怪我をさせるような事もない。でも多少は痛いだろう。ちゃんと防がなければその痛みが続く事になる。

 でもまぁ、元々疲れているフェイちゃんは、それから二分ほどで音をあげた。攻撃を防げなくなり、半べそかきながら無理だと訴えて来たのだ。


「疲れているのに無理をしても、強くはなれない。自分の身を滅ぼす事に繋がる可能性もある。だから、今日は帰る。いい?」

「は、はい……ごめんなさいっ。ぐす」


 ちょっとスパルタすぎたかな。こんな事しなくても、言葉で言えばよかった気がする。

 いやいや。これくらいしないと、彼女は分かってはくれないだろう。でもちょっと可愛そうだったので再び頭をなでなでしてフォローをいれておく。


 でも、これでいいのだろうか。

 レヴ曰く、私のやり方では真に強い人は育てられないらしい。だからリーリアちゃんは私の下を離れてしまった。

 確かに最近リーリアちゃんのレベルは停滞していたよ。でもそれは周りに丁度良い感じのレベルの人がいなかったであり、私のせいじゃない。

 レヴは、一体どうやってリーリアちゃんを強く鍛えているのだろうか。気になる。教えてもらえば、私にも出来るようになるのだろうか。

 ま、とりあえず今は何も分からないので、自分のやり方でやるしかないね。


 それからフェイちゃんの体力の回復を待って、私達はデサリットへと向かった。デサリットについたのは昼過ぎで、午後はフェイちゃんに座学の勉強が待っている。

 お城を出ての修行は、週に一回ほど。それ以外は城内で稽古をつける形でバランスを保っている。けどお城の外に出ての修行があった日は、大抵疲れ果てて眠気との戦いになるようで、勉強に身が入っていないようだ。でも、修行するのと同時に勉強も頑張ると言う私との約束を守るため、彼女は頑張って意識を保っている。そんな状態になるのが分かっているのに、まだ頑張れると言い張るんだからその根性に感心させられる。


 本当は、山に籠もった方がレベル上げもはかどるんだけどね。でもまぁそこまでするつもりはない。彼女は充分に強くなっているし、それに今以上の成長速度は彼女の身体に負担がかかりすぎる。そんな気がする。


「──アリス様っ」


 それは、フェイちゃんとお城に帰り、フェイちゃんと別れた直後だった。自室に戻ってちょっと休もうと思っていた所で、カトレアと遭遇。カトレアは当然のように腕に抱き着いてきて、甘えるように肩に頬ずりをしてくる。


「どうしたの、カトレア」

「……実は、今日は珍しく真面目なお話があるのです」


 まるで、いつもは真面目な話なんてないかのような言い方だ。まぁ大抵は私に意味もなく抱き着いたり、私の一部を持って帰ろうとするだけだからね。そんな彼女が真面目な話があると切り出すのはけっこう珍しい。


「ここではなんですので、場所を変えましょう」


 そう言うカトレアと腕を組んだまま、場所を移動する事になった。

 ここしばらくは平和に時が経過した。ギギルスにも行って様子を見に行ったりもしたけど、本当に何もなくて、ただただ時間が経過するだけで何もおこりはしなかった。


 勿論、裏では何か動きがあるようだ。レヴやカトレアが暗躍し、他の神仰国への対応が練られている。


 たぶん、それ関係なのだろう。いつまでも平和のままではいかない。ついに動く時が来たのだ。


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