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強くなるため


 城内散歩はそれからも続く。途中で王様とも遭遇したけど、それは明らかにリーリアちゃんではないのでスルーしておいた。

 そんな中でまたリーリアちゃんと遭遇してしまった。勿論問答無用で抱きしめてその感触を確かめる。


 今までの中で、一番リーリアちゃんに近い抱き心地。でもこちらの方が胸が大きい。肉付きも、リーリアちゃんは筋肉って感じだけどこちらは柔らかめ。

 あと、向こうからも抱き返して来て私の身体を触って来る。更に息も荒くて、はぁはぁしているではないか。なんか身の危険を感じて引きはがすと、それはカトレアだった。


「アリス様の熱烈な抱擁いただきました。もっと、激しくしても良いのですよ?私も激しくいかせていただきますので」


 顔を赤くし、照れているカトレア。それはどう見てもカトレアで、リーリアちゃんではない。

 でもこれまでで一番リーリアちゃんに近い抱き心地で、けっこう良かったな……。でもカトレアかぁ……カトレアなのかぁ……。なんかちょっと怖いからやめておこう。


「いや、大丈夫。何か変わった事はない?」

「冷静にスルーされてしまいました。それもまた、アリス様の素敵な所ですわ。……変わった事という訳ではありませんが、ザイール諸王国で何か動きがありそうです」

「デサリットが抜けた、連合の事?」

「はい。デサリットが抜けた後も諸王国は当然存在しているのですが……何者かの意思に操られ、デサリットを潰そうとするような動きが見えるのです。具体的に言うと、一方的に交易や国交を断ってきたりとやりたい放題です。反発は予想していましたが、さすがに諸王国全ての国が同じ動きをするとは思っていなくて。困りましたわ」


 カトレアは、私程じゃないけど表情に感情が出ない。いつもニコニコで、怖いニコニコか本当のニコニコか、気持ち悪いニコニコか普通のニコニコのどれかだ。

 だから彼女が本当に困っているのか私には判断しかねる。


「……何かあったら、私に言って。私に出来る事があれば協力する」

「それは勿論期待していますわ。では、これで。アリス様に元気を貰い、お仕事がはかどりそうです」


 案外呆気なく、カトレアは去って行った。どうやら本当に忙しいようだ。それなのに抱きとめて悪かったかな。


「ぐへへ。アリス様の抱擁、気持ちよかったでしゅわ。髪の毛も一本いただきましたし、今日はこの髪の毛を抱いて眠りましょう」


 でもそんな呟きが聞こえて来たので、迷惑ではなかったようだ。安心した。


「人間の姫の方、忙しそうですね」

「はい……睡眠時間を削ってまでお仕事をしているようで、カトレア様のお身体が心配です」


 それは確かに心配だけど、私達が心配した所で出来る事は何もない。カトレアならきっと大丈夫。彼女は天才だ。きっと乗り越えてこの国を良い方向へと導いてくれるだろう。

 最近若干変態が加速している気もするけど、私は信じているよ。


「──アリスお姉ちゃん!」


 廊下で次なるリーリアちゃんが私に駆け寄って来て、私は彼女を抱き締めた。それをリーリアちゃんと呼ぶにはあまりにも小さすぎる。けど体温高めで抱き心地はいい。


「走ったら危ないでしょ、アルメラ……ひゃっ!?」


 更に続いて現れたリーリアちゃんを触手で拘束して引き寄せて抱きしめた。2人のリーリアちゃんを腕に抱きしめると贅沢な気持ちになれる。

 けどやっぱりリーリアちゃんじゃない。離してみてみると、アルちゃんとフェイちゃんがそこにいた。


「アル。フェイ」

「うん!」

「え、えと……こ、こんにちは」

「驚かせてごめんね」


 そう言って謝っておく。アルちゃんは自分から来たけど、フェイちゃんは無理矢理だったからね。無理矢理抱き締めるとか、痴漢と同じ最低な行為だと思う。まぁ自分のここまでの行動を顧みて、今更だと思ったよ。


「アリスお姉ちゃん」

「何?」

「リーリアお姉ちゃんがいなくなって、頭がパーになっちゃったって本当?」

「……」


 アルちゃんが、笑顔で核心をついた質問して来た。

 確かに私はパーになってると思うよ。親しい人がリーリアちゃんに見えて、抱き締めてからリーリアちゃんじゃないと気づくんだから重傷だ。でもだからと言って、面と向かって頭がパーになったと私に言える人はアルちゃんくらいだと思う。


「し、失礼でしょ、アルメラ!」

「だって、リシルシアお姉ちゃんが言ってたんだもん!」


 うん。後でちょっとリシルシアさんとお話ししよう。


「こんにちは、人間の子供の方」

「っ!こ、こんにちは……!」

「こんにちは!」


 礼儀正しく挨拶をしたテレスヤレスに対し、フェイちゃんは緊張気味に。アルちゃんは元気よく挨拶を返す。

 アルちゃん、なんか肝が据わって来たね。相手は私と同じ魔物だと言うのに、物おじせずに接する事が出来るのはこのお城でアルちゃんとカトレアくらいだよ。


「質問なのですが、貴女は剣士なのですか?」


 テレスヤレスが、腰に剣をさしているフェイちゃんに対して疑問を投げかけた。

 その剣は私がプレゼントした剣で、彼女はいつもその剣を携えるようになっている。プレゼントした物を身につけてもらえるのは嬉しい。それは剣もネックレスも変わらない。


「い、いえ、とんでもない!私なんて、剣を振り始めたばかりの新米の中の新米です」

「……なるほど。ではこれから剣士になるのですね」

「……なれたらいいな、とは思います。いつか私も、私達姉妹を助けてくださったお二人のように……誰かを助け、そして大切な人を守れるようになりたいんです」


 フェイちゃんが剣を振り始めた理由は私も知っていた。そのために武器を欲していた訳で、だから私は彼女にその剣をプレゼントしたのだ。


「……」


 なんだか、昔を思い出す。リーリアちゃんと旅をし始めた、あの頃をね。

 私は幼いリーリアちゃんに、武器を与えた。その武器でいつか私を殺せるように、鍛えた。事情や背景は違えど、状況的にはリーリアちゃんとの旅の始まりと似ている。

 あとは私が彼女を鍛えると言う選択肢を選べば、更に同じようになる。

 でも私はもう、誰かを鍛えるとかするつもりはない。リーリアちゃんを育てたのは、ラネアトさんから頼まれたから。強くしたのは、育てると言う責任を果たすための一環である。責任を私が負ってる訳ではないので、だからフェイちゃんに関して私はノータッチ。自分のやりたいようにやって強くなれればいいと思っている。


「なるほど。でも貴女には無理です」

「え?」

「貴女はあまりにも弱すぎます。貴女に守れる物は、どこにもありません」

「それは私がまだ子供だからで、これから──」

「ハッキリ言って、私の目で見て貴女には戦いの才能がありません。諦めた方がよろしいのではないでしょうか」


 テレスヤレスのフェイちゃんに対する評価は、最底辺だった。その辛辣な評価を、本人に堂々とぶつけられるとフェイちゃんは黙り込んでしまう。

 彼女はまだ、戦いの世界に足を踏み入れたばかりだ。それなのに早速、自分と比べて圧倒的な実力を持っている魔物にそう言われてしまうと、ぐうの音も出す事が出来なくなるのも仕方がない。


「……」

「──お姉ちゃんは強くなるもん!」


 黙り込んでしまったフェイちゃんの代わりに、アルちゃんがテレスヤレスに向かって叫んだ。


「お姉ちゃんはいっつも私を守ってくれるし、誰よりも優しくて……強いんだよ!剣は今は上手くいかなくても、いつか絶対に強くなる!お姉ちゃんは、凄いんだから!」

「アルメラ……」

「ですが──」


 先ほどはフェイちゃんの反論を遮ったテレスヤレスを、今度は私が触手で口を塞いで遮った。


「フェイ。強くなりたいのなら、強い人に鍛えてもらうのがイイ。リーリアも最初は弱かった。何も出来なくて、武器を満足に振る事もままならない。フェイと同じ。でも私が鍛える事で強くなっていった」

「それって、つまり……」

「あとは自分で決める事。フェイにその覚悟があるのなら、思った通りにすればいい。ただ、厳しい道のりになる事は覚悟して」


 顔を伏せ、やや言葉に詰まったものの、次にフェイちゃんが顔をあげると目が据わっていた。その目で私の方を真っすぐに見て来る。その姿に強さを求めるリーリアちゃんと被る物を感じ、一瞬再び彼女がリーリアちゃんに見えてしまった。でも違う。そこにいるのは、愛する妹のために強さを欲する女の子だ。


「アリス様。どうか私を、鍛えてください。どんなに厳しい鍛錬にも文句は言いません。私を……強くしてください!」

「……分かった」


 テレスヤレスに焚きつけられた形で、私はフェイちゃんを鍛える約束をした。本当についさっきまでそんなつもりは微塵もなかったのに、私って案外乗せられやすいタイプなのかもしれない。意外とね。


 でもそうと決まってしまえば、この子がどんな風に強くなってくれるのか楽しみだ。


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