真剣勝負
名前:── 種族:ジェリアント族クイーン
Lv :1106 状態:興奮
HP:17088 MP:2087
これまでのアリよりも遥かに巨大な身体。胴体よりも頭の方が大きく、身体のバランスは悪く見える。でも威圧感が半端ない。頭の部分には前にも後ろにも横にも無数の目があり、口に備わる牙は4本。胴体にはカマキリのような鎌の手が何本もついていて、それを武器として足として使って移動しながら隆起した岩を切り裂き、私を威嚇して来る。
その姿は、アリ達の王として相応しい。とても迫力があり、チビってしまいそう。
レベル差もあるし、コレは一旦逃げるのが正しいだろう。という訳で、私は再び穴の中に潜ろうとした。
でもその瞬間、女王アリの鎌が私に襲い掛かって来た。私はフィールンで近くの岩に糸を放つと、その鎌を回避。すると私が今までいた地面が鎌によって大きく切り裂かれ、爪痕を残した。
なんという切れ味。でもたぶん、避けなくても私には効かないよね?効かなくてあってほしい。もしあんなのが効いたら、私は一瞬にして真っ二つである。
「キィィィィィ!」
どうやら、逃がしてくれるつもりはなさそうだ。
女王が甲高い悲鳴のような声をあげると、地面が揺れた。そして隆起していた地面が崩れ去り、辺りは瓦礫の山となる。
上等じゃないか……。いいよ、やってやる。今私はアリの液体に苦しめられた事により、お怒りモードなんでね。ちょっと不機嫌だよ。どうなってもしらないよ。
でもやる前に、女王のスキルも覗いておこう。
・種の女王
・共鳴
・物理攻撃耐性Lv2
・攻撃魔法耐性Lv1
・弱体魔法耐性Lv1
・毒耐性Lv3
・麻痺耐性Lv2
・呪い耐性Lv3
・魅了耐性Lv3
・石化耐性Lv3
・暗闇耐性Lv5
・聴覚強化Lv2
・嗅覚強化Lv2
『種の女王』
種族の長として、MPを消耗して同種族の生成ができる。
生成されたモンスターは自分に従う。
『共鳴』
生成したモンスターと自分の感覚をリンクさせ、意思を伝えあう事が出来る。
少し特殊なスキルを持っているようだ。上記の2つのスキル以外は、現在私が所有しているスキルと少し被っている。状態異常系については、私は全状態異常耐性を持っているので覚えてもきっと意味がない。
しかし特殊そうな2つのスキルを手に入れたら、私もアリみたいに自分の小さい版を生み出せたりするのかな。その小さいのに働かせて私は楽をする、なんて夢の生活も出来るのかもしれない。
これは倒さなければいけない。
テラブラッシュ!
私は覚えた魔法で、女王に攻撃を仕掛けようとした。
でも魔法が発動しない。そういえば、MPが尽きていたんだった……。
フィールンの消費MPは少ないので発動したけど、テラの上位版であるテラブラッシュを発動させるほどのMPが残っていない。
「キィ!キィ!」
女王が私に向かって突進しながら、無数の鎌の手を振り回して無差別に斬りつけて来る。大半は空をきるけど、中には壁や地面を斬りつけている手もあるので周囲の地形を変えていく。
なんとかして近づきたいけど、これでは無理だ。私はフィールンで糸を伸ばして女王から距離を取ろうとする。でも女王は追従してきて私はまた逃げる事になる。地面に隠れようとしても無駄だ。彼女の鎌はちょっとした地面なら平気で抉ってしまう。
このままではいつか、鎌が身体にあたってしまう。あの鋭い刃が自分を捉えると思うと、ゾッとする。
──あ。
切られた時の事を想像していたら、本当に切られてしまった。
女王の刃は、私の身体を貫通した。先端の数センチだけが身体を通り抜けただけだけど、私の身体はキレイにスパッと切れてしまったよ。まるでペラペラの紙をハサミで切るかのようにね。
不思議と痛みは感じない。身体は半分くらい離れているけど、残りで繋がっているから自由に動かせる。
距離を取ってから切られた所を確認するけど、本当にキレイに切れている。血は出ていない。この身体に血はないようだ。
HPも少し持っていたけど、それは自動回復によってすぐに回復し、切られた所もすぐに元通り。
……なのはいいんだけど、切られたら切れる事が判明した。レベル差のせいだろうか。物理攻撃耐性でも防ぐことはできない。
「ギイイイイィィィ!」
せっかく私を捉える事に成功したのに、殺し切れなかった事が気に入らないのか女王が更に甲高い雄たけびをあげ、私に突撃してきた。また鎌によって周囲を切り刻みながらだ。まだ半分生きているアリもいるんだけど、お構いない。それらも巻き込んで切り刻みながら私に突っ込んでくる。
今私のMPは、50程しかない。でも仮に覚えた魔法が使えたとしても、結局はレベル差的に通用しないかもしれない。私が彼女に勝つには、やはり防御を無視できるスキルイーターを駆使するしかない。どうにかして近づき、その身体をつきやぶって内側から食べてやれば勝てるはず。でもそれが難しい。あの鎌のせいだ。下手に近づけば私は鎌によって刻まれて死んでしまう。
どうすればいい。考えろ、私。
考えて考えて、少し危険な賭けになるけど一応案が浮かんだ。でも成功するかどうか怪しい。失敗したら私は終わりだ。
でもどうせこのまま逃げ続けてもその内死ぬだけなんだから、やるしかない。私のMPはもう残り20になってるからね。コレが切れたらフィールンで逃げ回る事も出来なくなる。
意を決して私は行動に移す。
まず天井に向かってフィールンを放ち、私は空高く舞い上がった。逃げるつもりかと女王が追従の構えを見せるけど、違う。私は高く舞い上がっただけで、重力に引っ張られて地面に向かって降って来る。
それを確認し、女王は私の落下点に待機した。そして鎌を滅茶苦茶に振り回して私を一瞬にして肉片に変えようとする。
何もしなければ本当にそうなってしまうだろう。でも私は死ぬために飛んだ訳ではない。
女王に向かって落下する中で、私は意識を集中させる。集中しなければ、殺される。いくつもある女王の目が私を向いている。女王も私に集中し、切り刻もうとしている。
これは真剣勝負だ。どちらかが生き、どちらかが死ぬ。確実に。
その覚悟で落下していき、私はついに女王の鎌の間合いに入った。私に向かい、無数の鎌が襲い掛かって来る。私はその鎌に向かって口を開いた。なるべく大きくね。
そして鎌を食べた。私を切り刻もうとしていた刃は私の口の中に入り、切り刻まれる事なく私の栄養の一部になってしまったとさ。別の鎌が襲ってきても、同じように食べた。
鎌に切られる前に食べれば、切られずに済むんじゃね、て思ったんだよね。私の賭けは成功し、鎌を食べながら女王の頭の上に着地。着地した私を、女王の目達が見つめて来る。
そんな目で見てもダメだよ。私はこれみよがしに口を開き、女王の頭に食らいついた。