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小さな剣士


 お城に帰った私は、早速皆にお土産を手渡した。

 今回は、前回ほど遅くはならなかった。だからカトレアは心配していた様子はあるけど……というか、いつもよりちょっとテンションが低くてなんか元気がない。戻った私に対してもさほど熱烈な歓迎はなく、軽く抱き着かれただけ。

 でもお土産のハンカチを渡したら目を見開いて歓喜し、熱烈なハグをしてきた。喜んでくれているんだけど、そのハグがめっちゃ長い。あと、ハグしながら身体を擦りつけてきて別の意図も感じてしまう。だから途中で強制的にはがさせてもらった。


 リシルシアさんを見つけると、普通に話しかただけなのに直立不動で動かなくなる。でも竜語で殺と書かれたシャツを手渡すと、少し緊張がほどけた様子で受け取り、喜んでくれた。

 フェイメラちゃん程じゃないけど、リシルシアさんは私に対しての緊張を感じる。これをキッカケに、彼女とも仲良くなれたらいいな。ただ、リーリアちゃんは渡さない。


 王様には執務室に押し入って机の上に重りをおき、渡した。最初は戸惑っていたけど、たぶん喜んでくれたと思う。早速書類の上において使ってくれていた。


 自室に戻ると、ネルルちゃんがやってきたので彼女にはネックレスを渡した。

 円形のシルバーのネックレスで、円の上には三角形が2つくっついており、まるでネコミミのよう。雑貨屋さんの女性の手作りで、ミルネちゃんをデザインにして作ったのだとか。可愛くてキレイで、ネルルちゃんに似合いそうだと思って買ったんだけど、早速つけて見せてくれてやっぱり似合っていた。

 彼女も凄く喜んでくれて、いい笑顔を見せてもらった。


 そして一番の目的だった剣を渡すため、フェイメラちゃんを探してお城を出た。教室にいるかと思っていたんだけど、今は勉強の時間外で、勉強を終えた彼女はアルメラちゃんと共にさっさとどこかに行ってしまったらしい。

 勉強の先生情報だ。


 まぁ匂いですぐに分かるんだけどね。私はフェイメラちゃんの匂いをかぎ分けながら追尾し、お城の外にある兵舎へとやってきた。


「──そう、それで、受け止めたら受け流して肘で顔面に見舞ってやるんだ。上手いぞ。もう一度、今度は素早く」

「はい!」


 そこには、兵士に剣を教えてもらっているフェイメラちゃんがいた。

 手にしているのは、木の剣だ。それで大人が振り下ろして来た剣を受け止めて受け流してから、肘打ちを繰り出すフリをしている。

 その動きは、たどたどしい。でも熱意は感じさせられる。

 その姿を座って見つめるアルメラちゃんを発見した。私は彼女の下へ背後から歩み寄ると、アルメラちゃんのために買って来たぬいぐるみを隣に座らせた。ぬいぐるみはそこそこのサイズがある。デザインはよくあるクマのぬいぐるみ。抱き心地がいいので、抱き締めるのにいいと思って買った。


「わっ。アリスお姉ちゃん!」


 突然隣に座ったぬいぐるみに、驚いたアルメラちゃん。でも座らせたのが私だと気づき、笑顔を見せてくれた。


「この子、何?」

「お土産。アルメラの物」

「私に?くれるの?」

「そう」

「……ありがとう。大切にするっ」


 静かにぬいぐるみを抱き締め喜ぶ姿はカトレアよりも冷静で、偉くて、可愛くて、その頭を触手でなでなでしちゃう。


「フェイメラ、頑張ってる」

「うん。毎日頑張って練習してるんだよ。でも……」


 アルメラちゃんはぬいぐるみを膝の上におくと、その視線をフェイメラちゃんのほうにむけた。その視線は何かを心配しているようで、その心配の正体は私もそちらを向く事で理解できた。


「ははっ。頑張れ、嬢ちゃん!もっと力をいれて、振りぬくんだよ!」

「あー、ダメだって、そこで油断しちゃあ!もっと気合いれろよ!」


 彼女を取り巻く兵士達は、フェイメラちゃんを応援しているというより、からかっているように見える。でも悪意がある訳ではない。幼く、剣の扱いに慣れていない女の子を、親目線で微笑ましく思って意図しない言葉を投げかけてしまうのだろう。


「……はぁ、はぁ」


 それから少しの時間が経ったところで、フェイメラちゃんの息があがった。相手をしてあげていた大人はそうでもない。


「今日はここまでにしよう」

「ま、まだ出来ます!」

「……そうか?い、いや、やっぱり、ここまでだ!またな!」

「あ……」


 フェイメラちゃんは出来ると言ったけど、兵士が近づいて来た私とアルメラちゃんを見てさっさと退散してしまった。他の兵士達も散らばって行く。

 フェイメラちゃんに剣を教えている事に、後ろめたさでも感じているのだろうか。それとも、ただ単に私を怖がっているだけ?


「アルメラ。アリス様……」

「剣の練習をしてたの?」

「……はい。私、強くなりたくて。おかしいですか?」

「おかしくない。フェイメラのその気持ちを、私は理解している。だから、頑張って強くなればいい」

「あ……ありがとうございます、アリス様。アリス様にそう言っていただけると、なんだか力が湧いて来る気がします!」


 このタイミングだと思い、私は亜空間操作で穴を作り出すと、そこからフェイメラちゃんのために購入してきた剣を取り出した。そしてそれを彼女に差し出す。


「コレは……?」

「フェイメラの、剣」

「ほ、本当に用意してくれたんですか!?」

「そのつもりで、最初から言っていた」

「……」


 フェイメラちゃんは、鞘に納められたその剣をまじまじと見つめてから、やがて恐る恐る手に取った。そして鞘から抜いて構えてみたり、素振りをしてみたりする。その動きは、やっぱりぎこちない。


「やっぱり、木の剣よりは重い。ズッシリしてて、手に持っただけで緊張する。これが本物の剣なんだ」

「お姉ちゃんカッコイイ!」

「あ、ありがとう、アルメラ。ところで、そのぬいぐるみはどうしたの?」

「アリスお姉ちゃんに貰った!」

「あ、アリス様に!?剣に加えぬいぐるみまで!?お礼はちゃんと言った?というか私がまだだった。ありがとうございます、アリス様。この剣大切にします」

「うん。頑張って、強くなって。応援してるから」

「……はい。絶対に、強くなります!」


 フェイメラちゃんはそう誓い、その目に闘気が宿った気がする。

 誰でも最初から強いわけではない。これからの練習次第で、彼女ももしかしたらリーリアちゃんみたいな剣士になれるかもしれない。期待しておこう。この子の成長を。


「ところで、この剣のお礼に私に何か出来る事はありませんか?アリス様にはいただいてばかりで、これ以上は気が収まらなくて、なんでもいいので言ってください」


 最近よく、なんでもという言葉を耳にする。

 何度も言うけど、気軽に使って良い言葉ではない。

 なんでもでいいんだな?なら、お前の身体をよこしなぐへへとなったら、嫌でしょ。相手が魔物ならなおさら使うべきではない。食べられちゃうかもしれないよ。こんな可愛い女の子、一口でペロリだからね。


「……なら、これからフェイと呼びたい」

「な、名前ですか?構いませんけど、それだけじゃ……」

「私はそれでいい。アルメラは、アル」

「うん!いいよ、アリスお姉ちゃん!」


 笑顔でアルちゃんも賛同してくれて、これからこの2人の姉妹の事は、フェイちゃんとアルちゃんと呼ぶ事となった。いいよね、あだ名って。なんか、仲良くなれた気がする。実際フェイちゃんとの距離を、ぐっと縮める事ができた。それはプレゼントの事とかがあっての事だけどね。


 さて、残るはリーリアちゃんへのプレゼントだけだ。リーリアちゃんも、きっと、いや絶対に喜んでくれるはずである。私は上機嫌でリーリアちゃんの匂いを辿り、彼女を探しに行くのだった。


 その違和感に気づいたのは、鼻をならして匂いを嗅いですぐの事だった。


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