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嬉しい気持ち


 剣は大切に亜空間にしまいこみ、私は満足して武具屋さんを後にした。

 とりあえずの目標は、コレで達成だ。でも出来ればアルメラちゃんや他の皆にもお土産を買って帰りたい。

 正直、ここまででもうかなり疲れている。心労が凄い。帰りたい。


「あっちゃん、やっぱり凄いですね。あんなに重い剣を軽々と持ち上げちゃうなんて、さすがです」


 ミルネちゃんも私が手に持った剣を持ち上げようとして失敗し、慌てて私が持ってあげると言う一幕もあった。

 それを見て、やっぱり自分基準じゃダメなんだなと思ったよ。あんなの買ってプレゼントなんてしたら、親戚のおばちゃんに貰った服の如くの扱いをされるだけだっただろう。

 危ない、危ない。


「……ミルネ」

「はい、なんでしょう」

「実は、他にも欲しい物がある。小さな女の子にお土産と、少し偉い人とか年頃の女の子に、プレゼントがしたい。でも実は私、人ごみが少し苦手で、だからあんな狭い通路で路頭に迷ってた」

「そ、それなら!私がお供します!」


 ミルネちゃんが私の手を両手で掴み取り、そう申し出てくれた。

 彼女は、人ごみが苦手だという私の告白を笑ったりなんかしなかった。それどころか、こうして協力を申し出てくれた。とてもいい娘である。食べたい。


「いいの?」

「はい!今日はお仕事はお休みですし、おつかいも終わってます。だから、アリス様の力になれるならそうしたいです!」

「じゃあ……お願い」

「はい!それじゃあ、いいお店を知っているんです。大通りにあるみたいな広いお店じゃないけど、私の知り合いの女の人がやっているお店で、可愛い物がたっくさんあるんですよ!」

「それは楽しみ」

「こっちです!」


 この子は、奴隷という身分だった。それなのに、こんなに明るく交友関係もたくさんあるなんて、凄いな。普通は人間不信にでも陥りそうだけどね。

 そうならなかったのは、この子の人懐っこい性格のおかげだろう。見ていて危なっかしいくらいに、人懐っこいから。こんな魔物の化け物にも、臆することなく話しかけて来るくらいだし。だから交友関係も広いけど、その分危険もある事を知っておくべきだ。

 ……いや、もう知っているのか。騙されて奴隷にされてしまったとか言ってたからね。じゃあその性格をもう少しだけなんとかしようよ。


 そう思ったんだけど、道行く人に笑顔で挨拶をする彼女を見て考えを改めさせられた。彼女はこのままでいいのかもしれない。人懐っこくて皆に愛される、獣人族の少女。それがミネルちゃんなのだ。


 そして彼女が案内してくれたお店は、まさに裏道の名店だった。大通りのお店のようなきらびやかさはない。高級感もない。でも置いてある物のどれもが可愛い。雑貨屋さんのようだけど、アクセサリに食器に服まで置いてあって、そのどれもが可愛くて目を引かれる。

 どれにしようかと迷って色々と悩んだ末に、リーリアちゃんにはコップを。アルメラちゃんにはぬいぐるみを。ネルルちゃんにはネックレスで、リシルシアさんには竜語で死と書かれたシャツを。カトレアにはハンカチで、ついでに王様にはぐにゃぐにゃとしてよく分からない形の重りを購入した。書類が飛ばないように使えるはず。


 どうよ。私だってちゃんと買い物出来たよ。

 いやまぁ一人だったら今頃もしかしたら何も買えてないかもしれないんだけどね。全部、ミルネちゃんのおかげである。

 何かお礼が出来ないかな。そう思って考えていると、通りの方から匂いがして来た。何かを焼いている匂いだ。というかこんな感じの匂いを嗅いだ事がある。懐かしいあの匂いだ。


「ちょっと、ここで待ってて」

「はい?」


 私はミルネちゃんをその場において通りに出ると、一瞬人ごみに背を向けて戻ろうとしてしまった。けど、我慢して進んで行く。そして匂いの発生源へと辿り着いた。


「へい、らっしゃい!」

「……」


 すると、そこにはやっぱりタコ焼きがあった。屋台のおじさんが丸い穴のあいた鉄のプレートに、タコ焼きの元となる生地を流しいれて焼き、かたまる前に具をいれている。その具なんだけど、タコ焼きというよりは吸盤のついた触手だ。あと、デカすぎる。生地から飛び出る程で、ちょっと見た目が悪い。けどその美味しさを私は知っている。だから抵抗はない。


「美味しい触手焼きだよ!一つどうだい、お嬢さん」

「触手焼き?」

「そう、触手。と言っても、こいつはデサリットの湖に住んでるなんとかって生き物でね。魔物でもなんでもないただの生物なんだけど、見ての通りなんか触手みたいで気持ち悪くて、誰も食わない生物なんだ。でも食べてみると案外美味いっていうのを発見してな。こうして特製の生地と一緒に焼くと更に美味しくなる!」


 なんか、まるで自分が焼かれているみたいで妙な気持ちになった。でも実際はコレ触手じゃなくて、どう見てもタコだ。


「……一つください」

「まいど!」


 作り置かれていたたこ焼きを、おじさんが紙袋に包んで渡してくれた。そのたこ焼きに赤いソースのような物がかけられると、それで完成らしい。


「また来てくれよ!」


 ニコニコ顔で、人の良さそうな屋台のおじさん。この人、なんかどこかで見た事がある気がする。

 まぁいっか。はやくミルネちゃんの所に戻ろう。

 私はたこ焼きを手に、人通りの多い大通りを後にするとミルネちゃんが待つ狭い路地に戻って来た。そして彼女と合流する。


「はい、コレ」

「え、なんですか?美味しそうな匂い……」

「あげる。お礼」

「いいんですか!?丁度お腹すいてたんです!」


 と言って、ミルネちゃんが紙袋を開いて中を覗く。そして、固まった。


「どうしたの?」

「あ、いえ……コレ……な、なんですか?きもちわる……いえ、なんか変な……いや、見た事のない物が飛び出していますけど……」

「触手焼きって言うらしい。たぶん、美味しい」

「た、たぶん……」


 まぁ確かに、見た目はあまりよろしくないよね。たぶんと言ったのは、私も食べた事がないから分からないからだ。普通のたこ焼きなら美味しいよと、自信を持って言えるんだけどね。

 でもここは毒見をしてあげるべきだろう。という訳で私は紙袋に手を突っ込むと、一つ手に取って食べてみた。

 感触としては、本当にたこ焼き。生地は柔らかくふわふわで、口の中でとろけるよう。でもたこの部分が大きくしかも噛み応えがありすぎて、いつまでも口の中に残る。

 この身体の感想としては、他の料理と変わらない。美味しく感じない。でも懐かしい味はする。だいぶ違うけど、たこ焼きに近い物も感じる。50点。


「……い、いただきます」


 私が食べる姿を見たミルネちゃんが、意を決したように一つ手にすると、それを口の中へと放り込んだ。作り置きだったので、さほど熱くはない。若干熱そうにしながらもしっかりと噛み、最初は緊張していたその顔がどんどん緩んでいくと、目を輝かせる。


「美味しいです、コレ!」


 どうやら美味しいらしい。よかった。お礼として渡した物が不味かったらなんか嫌だから。


「たくさん食べるといい。足りなかったら、もっと買ってきてあげる」

「い、いえ、充分です。そんなにたくさん食べれないので……ありがとうございます。はむはむ」


 たこ焼きを頬張るミルネちゃんが可愛い。私は思わず手を伸ばし、その頭をなでなで。ついでにネコ耳も触ってもふもふすると、ミルネちゃんが笑顔になった。


「えへー」

「……」


 このネコ、連れて帰りたい。


「……ミルネちゃんは今、どうやって暮らしてるの?」

「えっと、宿で働かせてもらってます。住み込みなんですけど、毎日キレイなお布団で寝かせてもらって、ご飯も美味しいし、女将さんは優しくてとてもよくしてもらってます!」

「何か困っている事は?」

「ないです」


 ミルネちゃんは即答した。どうやら、本当に幸せに暮らしているようだ。なら、安心だ。


「今日は、ありがとう。私はそろそろ行く」

「はい!こちらこそ、ありがとうございました!ご、ご迷惑じゃなければ……また会いに来てください。私、ダリーシャ亭っていう宿にいますので」

「分かった。また、会いにいかせてもらう。私はお城にいるから、ミルネが来てもいい」

「わ、私がお城にですか!?私、獣人族ですよ!?近づいたりしたら檻にいれられませんか!?」

「いれない。もしそうなっても私が助ける。というかそもそも、させない」

「そ……それじゃあ、機会があれば伺わせてもらいます、ね」

「うん」


 私は最後にもう一度ミルネちゃんの頭を撫でると、そこで彼女と別れた。

 元奴隷の獣人族の少女は、この町で明るく生きている。あの時、助けられて良かったな。可愛いし、美味しそうだし、皆に愛される存在となってくれているのが嬉しい。

 こういうのって、本当にイイ。私はミルネちゃんのおかげで、嬉しい気持ちでお城へと帰るのだった。


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