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欲しい物


 部屋を後にし、リーリアちゃんと手を繋いでアルメラちゃんが待っていると言う中庭へとやってきた。

 そこではアルメラちゃんがフェイメラちゃんと手を繋いで遊んでいて、私達に気づくとアルメラちゃんが手を放してこちらに駆け寄って来た。そのまま私に抱き着いて来るような勢いである。


「……」


 でも、アルメラちゃんが笑顔のまま止まった。足も、顔もである。

 そして私の顔をまじまじと見て、リーリアちゃんをみたり、フェイメラちゃんの方をみたりと落ち着かない様子を見せる。


「……アリス、お姉ちゃん?」


 どうやら姿の変わった私に、戸惑っているようだ。

 私が私かどうか確証がもてず、だから立ち止まってしまったみたい。


「……」


 本当は嫌だけど、私はフードを外して顔を曝け出して見せた。

 それから触手をうねうねとさせてその存在をアピールさせ、アルメラちゃんの頭の上に手を乗せる。


「そう。私は、アリス。ちょっと見た目が変わったけど、私は私」

「……アリスお姉ちゃん!キレイ!凄い!」


 すると、目を輝かせたアルメラちゃんが私に抱き着いて来た。幼女の抱擁ってあったかい。心も、温度もね。

 私の方も、しばらくぶりのアルメラちゃんを抱き返して充電させてもらう。


「あ、アリス様?どうして、お姿が……?」


 そうしていると、フェイメラちゃんもやってきて素直な疑問を投げかけて来た。

 進化した……と言っても、彼女にはなんの事だかよく分からないだろう。


「私は魔物だから、たまに身体が変化する。これからも、もしかしたら変化する事があるかもしれない。けど私は私だから、食べないから安心してほしい」

「そ、それは心配していないですっ。アリス様は私達を助けてくれた恩人ですので、だからそんな事は微塵も考えていません!」

「……」


 必死に否定するフェイメラちゃんが、そう考えていたと物語っている。

 いや、私も悪いんだよ。フェイメラちゃんの目の前で、けっこうな数の人を食べちゃったからね。彼女は魔物という存在をまず怖がっていて、それが人食いだったと知って更に怖がってしまっている。

 だから彼女の私に対する態度はどこかよそよそしい。警戒している……という訳じゃあないんだろうけど、明かな距離を感じてしまう。


 それが、本来の人と魔物との距離なのだろう。

 その距離を埋めるのはとても難しい。カトレアやアルメラちゃんはすぐに距離を縮めてくれたけど、カトレアは変人でアルメラちゃんはまだ子供だ。フェイメラちゃんとは基本が違う。

 どうしたら、フェイメラちゃんも私と仲良くしてくれるだろうか。


「フェイメラは、相変わらずアリスの事が苦手みたいね」


 そう言いながら、リーリアちゃんがフェイメラちゃんの頭を撫でた。ごく自然な感じの動きでね。

 すると、フェイメラちゃんは嬉しそうに目を細めてリーリアちゃんを見上げる。その目はまるで憧れの人物を見つめるように輝いており、その目で良い笑顔を浮かべると凄く美味しそうに見えてしまう。


 ちなみにリーリアちゃんは竜語で喋ったので、今の言葉はフェイメラちゃんとアルメラちゃんには理解できない。


「やっぱり、そう見える?」

「そりゃあね。いっつもあんたに対してよそよそしいし、それにいつまでたっても他人行儀だもの。言葉が理解できなくても分かっちゃう」

「どうしたら、仲良くなれると思う?」

「その内なれるわよ。フェイメラも、あんたに命を救われた事を凄く感謝してる。新しい生活を与えてくれたのもあんただし、感謝しない訳がない。私と同じで、今はちょっとだけ……素直になれない時期なのよ。だから、待ってあげて」


 リーリアちゃんにそう言われると、妙な説得力があるな。

 ま、何にしても私に出来る事はない。私はいつでもウェルカムだし、あとはフェイメラちゃん次第なのだから。


「ちなみにフェイメラは、剣士になりたいみたいよ」

「剣士に?どうして……」

「私みたいに強くなって、大切な人を守れるようになりたいんだって」

「……なるほど」


 ショッキングな経験が、彼女にその想いを抱かせるに至った。それが良い事なのか悪い事なのか、私には判断がつかない。

 けどまぁ、この世界で強くなると言うのは良い事だと思う。この世界で力がない者はいともたやすく蹂躙されてしまうから。私はこの世界に来て数年だけど、嫌という程理解できてしまった事である。


「だからさ、剣をプレゼントするとか?まだ練習用の剣しか持ってないみたいだから、ちゃんとしたのをあげると喜ぶと思う」

「なるほど……いや、良いと思う?」

「なんで?本人が欲しがってるんだからいいんじゃない?」


 いやね、フェイメラちゃんみたいな年の女の子に剣をプレゼントするとか、どうよ。

 と思ったけどまだ幼いリーリアちゃんに、身体の大きさに見合わない刀をプレゼント……というか無理矢理持たせた私がここにいる。そのせいかリーリアちゃんはさも当たり前のように剣をプレゼントする事を提案し、何も疑問に思っていないようだ。

 私がリーリアちゃんの感覚を狂わせてしまった。でも後悔はしていない。


 というか今思えば、私がリーリアちゃんに何かを与えてあげたのって、その赤い刀くらいだな。私はよくリーリアちゃんに服やら食べ物を奢ってもらうけど、私があげる事はまずない。


「どうしたの、アリスお姉ちゃん。リーリアお姉ちゃんと何話してるのー?」

「……なんでもない。そうだ。アルメラは何か欲しい物ってある?」

「欲しい物?うーん……触手!」

「しょ……触手かぁ……」


 さすがにそんな返答が返って来るとは思わず、私は取り乱した。

 この子の感覚を歪めてしまったのも、また私だろう。アルメラちゃんは明らかに私の触手をみてそう言っている。

 でも残念ながらこの触手は欲しいと言われてあげられる物ではないのだよ。当然か。


「触手は、ダメ。他には?」

「そっかぁ……じゃあ、えっとー……お勉強で使うペンが欲しいかな」


 それはハードルが下がり過ぎだ。というかアルメラちゃん、明らかに別に欲しいと思ってないよね。目が死んでるもん。


「もうちょっと、高い物でもいい」

「高い物……それじゃあ、王様の冠が欲しい!」


 めっちゃ高い物キタ。


「アルメラ、無茶言わないの!アリス様困ってるでしょ!」

「えー」


 私が欲しい物を尋ね、それでアルメラちゃんが怒られるのは心苦しいな。

 とりあえず触手でまぁまぁとフェイメラちゃんをなだめておく。


「アルメラはちゃんと言っておかないと、本気にするからダメです。特にそんなお願いもし王様が聞いたら、あの方は本当にくれそうだから、尚更ダメなんです。アルメラがこんな事を言っていたなんて、絶対にあの方のお耳にはいれないでくださいね」


 ふーん。王様、そんなお願いも聞いてくれそうなんだ……。

 王様、この姉妹の事大好きすぎない?孫に対するおじいちゃん的な何かを感じるよ。

 というか、アルメラちゃんの事に対してはぐいぐい来るな。そこには私に対しての遠慮という物を感じない。

 ……頑張っているんだね。まだ子供なのに、妹のアルメラちゃんをしっかりと育てようという気概を感じるよ。


「……分かった。フェイメラも、あまり気張り過ぎないで。困った事があれば、周囲に頼るといい」

「は、はい」

「うーん……えっと、それじゃあ、剣が欲しい!」

「剣?」

「そう!お姉ちゃんが欲しいって言ってた!」

「あ、アルメラ!」


 自分のためではなく、姉のための物をねだってくるなんて、この子本当に良い子や。でも出来ればそれはサプライズでプレゼントしたかったな。その方が喜ばれそうだし。


 これをフェイメラにあげよう。えー、すごーい。私が欲しい物ちゃんと分かっててくれたんですね!さすがアリスお姉ちゃん、嬉しい!ギュッ。ちゅっ。


 私が頭の中で描いていたプランは崩れ去ってしまった。


「分かった。いい剣を探してみる」


 まぁ本気で欲しいみたいだし、それでいってみよう。本気で欲しいなら、喜んでくれそうだしね。


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