満場一致
私はレヴと共闘するにあたり、いくつか約束をしている。
まず、私の名を魔族の軍勢の間に広め、周知させると言う事。それは魔族と私との間で、不必要な衝突がおきないようにするための物だ。自分の名前が広まるとか、なんか気持ち悪いけどまぁ仕方がない。
次に、もし魔族が神やらに攻撃されているのを見かけた時は、互いに積極的に魔族を守る行動をとる事。それは私に対しても言える事で、私が攻撃されている時は魔族も助けてくれるとの事だ。相互で守り合って行こうって事だね。基本私の周りで戦力になるのはリーリアちゃんくらいだし、そこにレヴやクァルダウラやらバニシュさんが加わってくれると思えば力強い。というか私の方が得してる気がする。
更に、ウルスさんが治める『ギギルス』や、この国『デサリット』まで守る約束をしてくれたので、国まで安心安全だ。
最後に、当たり前だけど神を倒すのに協力する事。主にはその3つだ。
他はまぁ臨機応変にという所である。なんてったって、私とレヴは友達だから。友達の間に細かい約束事なんて不要である。
と言ってはみたものの、私ってこの世界に来る前に友達とかいたっけ。
……いないわ。この世界に来てからは友達っぽい人は割とたくさん出来たけど、前の世界は本当に空虚である。
「つまりアリス様が大人っぽくなったのは、神に支配された者を食べて強くなり、進化したから、と……」
とりあえずその場で私とレヴの間で交わした約束を発表しておいた。
それからまだ会議中なんだけど、カトレアは相変わらず私に対する興味でいっぱいだ。レヴやテレスヤレスを放って私の隣に座り、腕に抱き着きながら私の事を尋ねて来る。
おかしいな。イチャイチャするのはこの場に相応しくないとかなんとか言ってなかったっけ。
「だと思う……」
「素晴らしいですわ。元々のアリス様も勿論魅力的でしたが、今のアリス様には大人っぽい魅力もあります。どちらも甲乙つけがたい美しさを持っており、このカトレア、アリス様に魅了され続けています!」
いや、私は魅了のスキルを持っていない。むしろ魅了のスキルを持っているカトレアの方が人々を魅了する力を持っており、カトレアの方が私なんかよりも美しいとすら思う。というか絶対的にそう。
「ねぇ、あんまり人の嫁にくっつかないでくれる?」
カトレアがくっついている反対の私の腕には、リーリアちゃんがくっついている。私を挟んでカトレアを睨みつけながら、私を嫁扱いで牽制した。
嫁……お嫁さんかぁ。自分がウェディングドレスを着る姿とか、想像もつかなかったな。でもこうして真剣に自分を好きだと言ってくれる人がいるなら、考えておくべきなのかもしれない。
てことは、リーリアちゃんはタキシードか。やば、似合いそう。凄い物を想像してしまった。
「……リーリアさん、知っていますか?結婚相手は一人までという決まりはどこにもありません。つまりアリス様が仮にリーリアさんと相思相愛で結婚するに至っても、私とも結婚する事は可能です」
「そ、そうだとしても、アリスは私の物なんだから気安くくっつかないで!」
「独占欲が強い女は嫌われますよ?」
「そうなの!?じゃ、じゃあ……少しくらいはいいけど……」
いや、良いんだ……。リーリアちゃん、私に嫌われたくないからって素直すぎるのはどうかと思うよ。
「そうですよ。くんかくんか」
私の腕にくっついているカトレアが、私の脇のあたりに顔を押し付けて匂いを嗅いできた。
さすがにその行動には引いた。今すぐに引きはがしたい衝動にかられる。
「……くん」
でも反対側のリーリアちゃんもカトレアを真似て、同じことをしてきた。嗅ぎ終わると2人とも、顔を赤く染めてちょっとニヤつくという気持ち悪さを私に見せてくれる。
というか感想を聞きたい。私、臭かったの?どうだったの?でもそれを聞く勇気がない。だって臭いって言われたら嫌だから。
いや、なんだコレ。どういう状況だ。
「あ、ああ、あのー……私、ここにいる意味なさそうなのでおいとましてもよろしいでしょうかぁ?」
そんな状況で、恐る恐るカトレアにそう尋ねたのはリシルシアさん。確かに私達は竜語で話しているので現状彼女の出番はない。でもやっぱり皆で話すときは人語になるので、リーリアちゃん一人だけ言葉が分からないのは可愛そうである。
「ダメです」
「……はい」
リシルシアさんは顔面真っ青だ。この空間、この状況に心底恐怖心を感じている。
翻訳が必要ないという事を理由に逃げ出そうとしたみたいだけど、あえなくカトレアに却下されてしまった。返事を聞き、凄く落胆している。
「──であるからして、我が国の穀物は現状非常に厳しい状況にあり、出来れば良い取引をできればと……」
「貴国が望むのであれば、取引は可能じゃ。その他にも取引できる物があるかもしれん。詳しい事は担当の者を寄越すので話し合って決めれば良い」
「あ、ありがとうございます!」
カトレアがこんな感じのせいで、王様が頑張ってレヴと何やら大切そうな事を話し合ってるよ。まったくカトレアはしょうがないんだから。自分の仕事はちゃんとしようよ。
と思ったけど、別にコレが普通だった。
そういえば、私まだ皆に大切な事を聞いていなかったな。
レヴとの約束は、私が勝手にかわしたものだ。皆もなし崩し的に巻き込みそうなこの状況だけど、皆の意思も聞いておく必要がある。
「……」
私は静かに席を立った。両腕に抱き着いていた2人はついてこず、座ったまま私を見上げる形を取る。
「皆に、言っておきたい事がある」
改めて切り出すと、この場にいる皆の注目が私に集まった。
「私は、レヴと共に神様と戦う事にした。知ってると思うけど、神様は人々に対して残酷。そして強く、ずる賢い。この先、何が待ち受けているか分からない。私と繋がっている事で、神様が再びこの国に攻撃を仕掛けてくるかもしれない。勿論出来る限り守るつもり。でももしかしたら被害が出るかもしれない。それでも私の名を使う?」
「……この国は、アリス様と共にあります。アリス様が敵と定めた者は私の……この国の敵ですわ。共に戦いますので、気にする必要はありません。アリス様はただ、ついてこいと言えば良いです。足手まといかもしれませんけどね」
と、カトレアは苦笑しながら言ってくれた。
まぁ、カトレアはそう言ってくれるとは思っていたよ。この子、私への好感度が異様に高いから。
「神は……この国の民を殺した。しかも自らは手を汚すことなく、人の意思を操るという形でだ。しかし操られた側にも責任はある。いくらギギルスと名を改めても、かの国によってもたらされた悲しみと憎悪は消える事なく付きまとうのだ。そのような国がアリスの傘下にある今、ワシとしては思うところがある。アリスに協力し神の討伐を目標に掲げれば、それはなし崩し的にギギルスとも手を取る事になってしまうからな……」
「その通りじゃ、人の王よ。この国に住まう民の、ギギルスに対する憎悪は消えておらん。共闘するのは不可能な状況じゃ。しかし幸いにして、ここに仲介できる存在がいる。それは双方の国から恐れられ、絶対なる力の象徴として君臨する魔物じゃ」
レヴが指しているのは、もう間違いなく100%私である。
言われなくとも、分かっている。この2つの国の間を取り持てるのは、私しかいない。
でもレヴに絶対なる力とか言われても嫌味にしか聞こえないよ。私、この可愛い魔王様に、けっこう本気な状態になったけど手も足も出ず殺されかけたからね。
「……分かっている。アリスがやるというなら……異存はない。ワシもアリスに協力し、フェイメラとアルメラの親の命を奪い悲しませた神どもに天誅を下してやる……!」
あれ、王様……フェイメラちゃんとアルメラちゃんの両親の事で、そんなに神様を恨んでくれていたの?というか、目が本気になってるよ。いつの間に2人の事が大好きになっちゃったのさ。
「しかしながら、ギギルスとは手を組まん!絶対に組まんぞ!神との戦いが終わるまで、問題を棚上げにするだけだ!」
「……それでいい」
「微力ながら、私も協力します。アリスさんには私を支配魔法から解放していただいたご恩がありますので。それに、アリスさんとは何か不思議な御縁を感じるのです」
続いて手をあげてくれたのは、テレスヤレスだ。テレスヤレスは私がバニシュさんの支配から解放してあげた事を本当に感謝していて、恩返しがしたいと言う事でついてきた。
テレスヤレスが仲間になってくれるのなら、これまた心強い。
リーリアちゃんは、当然ながら付いて来てくれる。聞くまでもない、というか、もう返事は聞いてある。満場一致で、協力して神と戦う事がここに決定した。
顔面蒼白で震えているリシルシアさんは除いてね。まぁ彼女はほら、ただの通訳さんだから。だからノーカンで。




