みんな仲良し
アスラ神仰国はその名を改め、正式にギギルス国という名に生まれ変わった。生まれ変わったと言うより、戻ったと言うべきか。
王様が、神の使いたる王妃様によって操られる事により、アスラという神を信仰する国となってしまった。神に操られているとも知らず、この国の人は神を敬いながら、大勢の人を殺して来た。しかし実際無駄な虐殺をしていたのは正式にはこの国の人々ではなく、雇われの傭兵達だったようだ。
とはいえそこに、神に操られた、国の正式な兵隊も一部加わっていた。それ以外の、操られていない兵士も一部加わっていた。人間は、他がやっているのを見ると、自分もやってもいい事だと錯覚する。また、戦場という場が人間の本能というヤツを呼び起こしてしまったのだと思う。
フェイメラちゃんとアルメラちゃんの両親は、そのせいで死んでしまった。それ以外にも大勢の人が残虐な方法で殺された。あの2人の事を想えば、2人の両親を殺した犯人は始末してしまいたい。でもこの世界の技術で犯人を見つけるのは不可能だ。そもそも私の魔法に巻き込まれて既に死んでいる可能性もある。
モヤモヤするけど、さすがにギギルスに生まれ変わったこの国の人々を、皆殺しにする訳にもいかない。彼らも神の支配という、天災のような物に巻き込まれただけだから。
同情はするよ。でも、自分が住まう国がおこした事に対する責任は、取るべきだとは思う。例え生まれ変わったとしても、だ。
負うべき責任を放置して、国として被害者面をすれば周囲から反感を買う。負うべき責任を負おうとしても、その責任はあまりにも多くて重すぎる。
全てを清算するのは時間がかかるだろうけど、頑張ってもらいたい。この国の将来は、新たな王様であるウルス・ヘッグヴェルにかかっている
ちなみに前王様は、やはり王妃様に薬を盛られていたようだ。彼は神に支配されていたのではなく、薬で頭を破壊されていた。薬の正体はレヴが教えてくれて、ワルガボネとかいうどっかで聞いた事のある魔物の毒を利用して作られた物らしい。なんでも、人の頭を溶かして正常な判断が出来なくさせる効果があるのだとか。
そんな物を長年吸わされ続け、王様の身体はボロボロになっていた。彼は療養する事になったけど、もう元に戻る可能性は限りなく低いらしい。
いやホント、大変だろうけど頑張れウルスさん。
とまぁ、心の中で他人事みたいに応援するばかりの私なんだけど、仕方ないんだよ。私はレヴやウルスさん達の話し合いが決着するのを見届けると、その後デサリットに帰る事になってしまったから。
という訳で、私はデサリットに帰って来た。そしてかつてと同じように、円卓の会議室の席についている。
席に付いているのは、私とリーリアちゃん。カトレアと、顔面蒼白の王様。加えて、レヴが座っている。リーリアちゃんの傍にはリシルシアさんもいるんだけど、彼女も顔面蒼白だ。レヴを見て、めっちゃ怖がっている。
「アスラ神仰国は、アリスによって神を排除された事により、ギギルスに戻る……それは分かった。が、何故ま、魔王様をこの場に連れて来るような事態になるのだ……?」
会議の場で、私は王様とカトレアにアスラ神仰国でのいきさつを話した。最初、魔族を連れ帰った私を見て驚いた王様だけど、その魔族の正体が魔王レヴと聞いて卒倒していたっけ。私と対峙した時よりも酷い反応である。
一方でカトレアは冷静だ。取り乱すことなく、優雅に美しく自己紹介をしていた。その堂々さに、レヴも感心していたよ。
でも2人とも、私の姿を見てまずはそこに驚いていた。若干大人っぽくなった私に、カトレアのテンションは爆発。はぁはぁしながら四方八方から見つめられ、身体中触られた。
あと今の私の服装はリーリアちゃんがコーディネートしてくれた新たな服装なんだけど、それも見てテンションあがってたね。鼻血を出しそうな勢いで。
でもまぁ今回は割と普通な服だよ。ワンピース風の服で、上から色々と羽織ってフードも被っておしまい。ちょっと生地が薄い気がするけど、透けたりする心配はなさそう。
「それについては我が話そう。まずは突然の来訪にも関わらず、受け入れてくれたことに礼を言いたい。我がこの場に赴く事になったのには紆余曲折あるのじゃが、アスラ神仰国に魔族が攻め入る事になった経緯を説明すれば簡単じゃろう。簡潔に言えば、我等魔族はあの町から神を排除しようとしていた。その目的と同じくするアリスと鉢合いになり、衝突。しかし目的が同じだと分かり、和解したと言った所じゃ。今は我とアリスは仲間であり、友である。その友が治める国とも正式に挨拶をし、交流が出来ればと思ってやってきた」
「ま、魔族の王と、友……!」
王様が私の方を見て来た。そんな、信じられないような物を見るような目で見られても困る。だって、本当だし。
「……アリス様の魅力を考えれば、当然の事。私はそれよりも気になる事があります」
「なんじゃ、人の姫よ。どのような質問でも受け付けようぞ」
「何故……リーリアさんがアリス様とくっつているのですか……?」
カトレアが指摘してきたのは、私とリーリアちゃんの事だった。リーリアちゃんは私の隣にイスを持って来て、私の腕に抱き着いている。
今だけではない。このお城に帰った直後から、リーリアちゃんはずっとこんな感じで私から離れようとしない。ぱっと見、人前で堂々とイチャイチャするカップル状態である。
そんな私達を見て、カトレアの目から光彩が失われている。なんか、凄く怖い。包丁で刺されたりしそう。
「え。我の事ではないのか?」
「魔王様の事はもう分かりました。アリス様のお友達だというなら、もうそれで結構です。それよりも……アリス様とリーリアさんは、まるでその……恋人のようではありませんか?一体どういう事で?」
「……色々あって、デレた」
「で、デレ?というのはよく分かりませんが、こういう場でイチャイチャするのはマナー違反では?今すぐに、お離れになるべきでしょう。ね?アリス様」
「……」
マジでカトレアの目が怖い。だからここは一旦離れておくべきだろう。私は空気が読める子なので、リーリアちゃんから優しく手を回収した。
「ふ。いいわ、今は離しておいてあげる。私とアリスはもう、相思相愛の仲だもの。誰にも私達の愛は邪魔できない」
リシルシアさんが翻訳して、それに対しリーリアちゃんが竜語でカトレアに返した。
「そ、そそそ、相思相愛!?一体どういう事ですか、アリス様!?リーリアさんと、一体何が!?もしや、一線を越えたのですか!?そうなのですね!?」
カトレアは机を叩いて立ち上がりながら、同じく竜語で私を問い詰めて来る。
まぁ、どういう事かと言われてもそういう事だ。私はリーリアちゃんが好きで、リーリアちゃんも私が好き。という事である。
「私とリーリアの間には、色々な事があった。誤解もあって……それが解決された感じ」
「ま、その通りよ。もうキスだってしちゃったんだから」
「我の目の前でな。ちょっと驚いた」
竜語でレヴが呟くように言った。出されたお茶をすすりながらね。
「き、キスぅ?へ、へぇーそう、キスもしたのですか。でも、身体を重ね一夜を共にしたのはまだでしょ?まだですよね?」
「そうよ、いいでしょ。身体も……身体を重ねるって何?一緒に寝るって言う事?」
「……」
私とのキスを自慢げにいうリーリアちゃんが可愛い。そして身体を重ねると言う意味が分かっていないのも可愛い。
「身体を重ねるというのは……そ、そうです。一緒に寝ると言う意味ですわ」
「そうなの?それだったら昔から何度もした事あるわよ。いいでしょ」
「ええ、そうですね……とても羨ましいです」
カトレアのテンションが一気に下がった。リーリアちゃんがピュアすぎて、これ以上深堀したらダメだと判断したようだ。
私としても、リーリアちゃんにそういう教育はまだ早いと思う。知らないなら知らないまま、ピュアなリーリアちゃんのままでいてもらいたい。セッ〇スなんてまだ知る必要ないよね、うん。特に、女の子同士の行為とか特殊だし。尚更早いと思います。
「我の事で質問、ないか?何でも聞いて良いのだぞ?」
「ありません」
「……そうか」
カトレアに言い切られ、レヴがしょんぼりしてしまった。
いや、聞くべき事は色々とあると思うよ。というか聞くべきだと思う。どうしてしまったのさ、カトレアさん。貴女は聡明な人だから、私が言うまでもなく分かっているはず。
「魔王様はまだいいですよ。私なんて、この部屋にいながら紹介される事もなく放置されていますから……」
そう呟いたのは、マネキン……じゃなくて、テレスヤレスだった。この国、この部屋に一緒に来てはいたんだけど、動かなくなって放置されていた。よく見れば王様の上着をかけられているんだけど、服かけと間違えられていたらしい。
私もその存在を若干忘れていた。若干だからね。そこ、大切。
「っ!?」
「に、人形が喋った!?」
テレスヤレスが喋り、動き出した事に対し、王様が剣に手をかけながら立ち上がり、リシルシアさんが驚きの声を上げてリーリアちゃんの背後に隠れた。
「安心して。友達になった魔物だから、皆に危害は加えない」
「始めまして、人間の方々。テレスヤレスと申します」
テレスヤレスは上品に頭を下げる仕草を見せ、皆にご挨拶。その所作は人間なら美しく見えるんだけど、テレスヤレスがやるとどこか不気味だ。
「……魔王様に加え、魔物にも友が出来たのか。もう驚く気にもなれん」
王様はイスに座り込み、頭を抱え込んでしまった。リシルシアさんは、隠れたまま怯えている。カトレアは顔を引きつらせてリーリアちゃんを睨んでいる。
まぁなんていうか……皆仲良くなれそうで良かったよ。