仲間
私は事のいきさつをクエレヴレに話した。あの町で、何があったのかをね。もうあそこに神様関連の人はいない。だから魔族の軍勢が攻撃をする必要はない。そして、クエレヴレが懸念していたような出来事もおこらない。
その話を聞き、再びクエレヴレが笑った。そして私は褒められた。自分が好きなキャラクターに褒められると、めっちゃ嬉しい。ご褒美に、その胸にダイブさせてもらえないだろうか。
「ところでさっきから気になってるんだけど、スキルって何?」
リーリアちゃんがそんな素朴な疑問を口にした。
私とクエレヴレの会話の中で、度々その単語が出て来て気になっていたようだ。確かに、この世界の人はスキルという物を認識していない。でもクエレヴレは別で、私にとって初めてスキルという単語が通じる相手となった。
「スキルとは、力ある者が持っている特別な力の事じゃ。例えば……『怪力』というスキルはその者に力を与え、『聖女』というスキルは闇を滅する力を与える。お主もまたスキルを持っており、それを無意識に使っている」
「それはどうやって取得するの?」
「鍛える事じゃ。条件を達成した時、勝手に身に付く。一部例外はいるがのう」
例外とは、私の事だ。私は食べればスキルを奪う事が出来る。鍛える必要もないので、ちょっと卑怯。
「不思議なのは、ゲームにスキルという物はなかった」
「ふむ……。スキルは元々この世界に存在していたはずじゃ。もっとも、その存在を理解していたのは我だけだったようじゃがな」
「……なるほど」
もしかしたらスキルとは、プレイヤーの目には見えない隠しステータス的な存在だったのかもしれない。確かに存在はしていて、皆それぞれの特性みたいな力があったからね。
つまり、ない訳ではなくて表示されなかっただけなのだ。でも一部の生物はその存在を理解していて、この世界に来てアナライズのスキルを有する事になった私でも理解できるようになったと。
「ねぇねぇ。そのスキルを覚えまくると、凄く強くなれるって事?」
「そうじゃな。身に着ける事が出来れば、強くなれる」
その返答を聞き、リーリアちゃんの目が輝いた。
「じゃが、一つのスキルを身に着けるのに膨大な時間を要する。スキルは簡単に身に着けられる物ではなく、お主が頭で描いているようには決していかんぞ」
「そ、そうなんだ……」
そしてしょんぼりとした。
まさに、あげて落とされたって感じ。
「しかし我の見立てによれば、お主には才能があるぞ。お主は間違いなく、強くなる」
「本当……?」
「うむ。既に通常の人の域を超えているようじゃが、更に強くなれるじゃろう。それはお主を育てた魔物のおかげじゃろうな」
「アリスのおかげ……。うん。そんな気がする」
リーリアちゃんは、私がこの世界で培ったレベル上げのノウハウを駆使して強く育てた。そのおかげでレベルはクエレヴレの言う通り、常人の域を超えている。これからもっと強くなることができるという、クエレヴレのお墨付きももらえた。
「レベルについては、知ってる?」
「無論じゃ」
無論だった。
「レベルって?」
そして当然のようにリーリアちゃんが尋ねてくる。
「この世界の生物には、レベルがある。それが高ければ高い程、強い」
「ふーん……私っていくつなの?」
「500くらい」
「アリスは?」
「3000くらい」
「へ、へぇ……」
その差を聞いて、リーリアちゃんは納得しつつも顔をひきつらせた。
「てことは、魔王様は当然もっと高いって訳よね?」
「そうだと思うけど、クエレヴレのレベルが私の目には映らない。あの、魔族の偉そうなおじさんのレベルも見る事ができなかった」
「それはスキルの『鑑定阻害』によるものじゃろうな。そのスキルを持っている者の力を覗き見る事は、不可能じゃ。我のレベルについては、秘密じゃ。ただ我はこの千年間、神の復活に備えて身体を鍛え続けて来た、とだけ言っておく」
「……なるほど」
つまりクエレヴレと魔族のおじさんと、テレスヤレスも『鑑定阻害』のスキルを持っていると言う事か。
相手に自身の情報を隠して見せないのは、戦いを優位に進めるために大切だ。そのスキル、是非ともほしい。
「……よし、決めたぞ!」
そこで突然、クエレヴレがイスから立ち上がった。
「魔物、リンク族の娘。お主ら、我の軍勢に入るがよい」
そしてそんな事を言って来た。手を差し伸べて、私とリーリアちゃんを見下ろしその手をとるように促してくる。
「どうして、突然……?」
「我等の目的は同じじゃ。神の支配を嫌い、神をこの世から駆逐しようとしている。手を取り合わぬ理由がないではないか。我が軍団に入れ。お主らなら、軍団長……いいや、我直属の部下にしてやろうぞ」
確かに、私は神という存在を嫌っている。目の前にいる神様関連の人は、食べて行こうと心に誓った。
クエレヴレも、千年前の事もあって神という存在を嫌っている。そして神という存在を再びこの世から消し去るために、行動を開始した。
目的は確かに同じだろう。辿り着く所は私もクエレヴレも変わらない。
「いや、そういうのは、ちょっと……」
「……ふむ。断るか」
私が断ると、クエレヴレはしょんぼりとして、期待するようにリーリアちゃんの方を見た。
「アリスが入らないなら、私も嫌」
「そうか……」
見るからにクエレヴレが落胆の色を示し、イスに座り込んでしまう。尻尾も額の目も垂れ下がり、なんだかショックを受けたようだ。曲がるはずのない角までもが曲がって垂れ下がっているように見え、断ったこちらの心が痛くなる。
でもさ、嫌じゃん。いくら目的が同じでも、誰かの配下になるのってなんか違うと思う。
「まさかこの流れで断られるとは思わなんだ……」
まぁ確かに、コレは完全に共闘する流れだったからね。しかも私はクエレヴレに殺されかけ、生かされた立場だ。本来ならこんなに堂々と断れる立場にはない。でも断る。
私は誰かの部下になるとか、そんなの御免だ。だってそれって、組織に属するって事だもん。組織に属するって事は、つまり働くって事でしょ。働くって事は、そこに人間関係が生まれる。顔色を窺い窺われる、社会の生活が待っている。無理。絶対に無理。
「あー……魔王様。こいつはたぶん、誰かの配下になるのが嫌なだけなんだと思う。配下とかそういうのじゃなくて、神様を倒す、同じ目的をもった……そう。仲間にならなってくれるんじゃない?」
さすがはリーリアちゃん。よく分かってる。
そう。私は働くのは無理だけど、友達にならなりたいと思う。クエレヴレが悪い人じゃない事はよく知っているし、何より私が好きなキャラクターだ。是非とも手を取り合っていきたいと思う。
「そ、そうなのか?我と仲間に、なってくれるのか?」
クエレヴレが今度は遠慮がちに、額の瞳が上目遣いでそう尋ねて来る。
その姿は、あざとカワイイ。思わず抱きしめたくなる。
これこそが、クエレヴレの魅力なのだ。偉そうな口調で、決して他人に甘えたりはしない。なのに、ささいな行動の節々が可愛い。その魅力に私は魅了された。
「仲間になら、喜んでなる」
「そ、そうか。仲間になってくれるか……。うむ、良いじゃろう。今からお主と我は、目的を同じとした仲間じゃ」
クエレヴレが私に向かって再び手を伸ばして来たので、今度は迷う事なくその手を握り返した。
クエレヴレの手、小さい……。でも力が強い。
「アリスがそうするなら、私も仲間になるから。だから私も、今から魔王様の仲間って事で」
「うむ。よろしく頼むぞ、魔物。リンク族の娘」
「その呼び方も、もうなし。私はリーリアで、こっちはアリス。魔王様の事は私もこれから……えっとー……」
「レヴと呼ぶが良い」
「分かったわ。レヴ様」
こうして、私とリーリアちゃんは魔王レヴの仲間となった。
ウルスさんの町が魔族に攻撃される事もなくなり、割と平和的に魔族と和解できてめでたしである。いやまぁ、大分死にかけたけど。




