回想と推測
『アリスエデンの神殺し』は、私が生まれる前に発売されたゲームである。
私がそのゲームの存在を知ったのは、小学校あがりたての頃だったかな。その頃父が死んだ……というか失踪してしまい、精神的にちょっと来ていた頃だ。
そんな精神的にちょっと来ていた時に、そのゲームをやり始めた。父の遺品みたいなゲームだったんだけど、コレが面白くてね。そのストーリーとゲーム性に惹かれた私は、ドはまりする事になる。
エンディングには、割とすぐに辿り着く事が出来た。でもその後に出現した裏ボス、邪神という存在を知り、挑んで負けた。レベル上げをして挑んでも負けた。当初は全く勝てる気がしなくて、絶望したよ。でも勝つためにレベル上げをしまくった。何年もレベル上げをし続け、そしてようやく邪神を倒す事が出来た。
感動の真のエンディングを……と思った所で、気づいたらナマコとしてこの世界に生まれていたのだ。
最初は、真っ暗な洞窟だった。その洞窟には色々な化け物級のモンスターが潜んでいて、私は何度も命を落としそうになる。
でも元々持っていたスキルを駆使し、進化をしたりしてどうにか生き延びる事が出来た。
スキルの中でも、スキルイーターは特に優秀だった。食べるという行為は防御力無視になり、それだけでも中々に優秀なのに、オマケで食べた相手が覚えているスキルを手に入れる事が出来る。言葉もスキルイーターのおかげで覚える事が出来たのだ。
その洞窟で、あの魔族のおじさんとも出会った。当初の私は本当に手も足も出なくて、細切れにされてしまったよ。テレスヤレスともその時出会ったんだけど、たぶん向こうは私の事なんて全く覚えていないはずだ。だって私、その時肉片だったから。
ま、そんな経験をしてからまもなく、私は洞窟を後にした。
洞窟を後にしてすぐに出会ったのが、ラネアトさん。リーリアちゃんのお姉さんで、私は彼女を初めて見たその時、どうしても食べたいと思ってしまった。だって、凄く美味しそうだったんだもん。
でもその欲求はラネアトさんに、まるでお母さんにされるように優しく叱られる事により、吹っ飛んでいった。
別に彼女をストーカーした訳ではないんだけど、それから美味しそうな匂いに誘われた私は、リンク族の村に辿り着いた。その村はラネアトさんの村で、リンク族が大勢暮らしていた。
でもその村にはハスタリクという流行り病があって、病のせいでどこか活気がなかったんだよね。でも私が駆逐してあげた。病気のリンク族を食べ、ハスタリクの温床となっていた土もキレイサッパリにしてあげたんだ。そうしてあっという間に流行り病をおさめた私、偉いでしょ。
でも偉くもない。実は、ラネアトさんがハスタリクにかかってしまい、私は彼女を食べてしまったのだ。彼女には妹のリーリアちゃんがいたのに、私は食べた。
仕方がなかったのだ。ハスタリクにかかった者は、確実に死んでしまう。ラネアトさんは病に苦しみ、その苦しみを妹のリーリアちゃんに悟られないよう、我慢していた。でもその我慢も限界だと私に訴えた。そして食べて欲しいとお願いしてきたのだ。だから、食べた。
その味は、この世界に来てから口にした物の中で一番美味しくて、それが今思い出してもゾッとする。
で、その際にラネアトさんから任されたのが、リーリアちゃん。
実は、リンク族の村の村長さんが、リーリアちゃんに酷い事をしようとしたんだよね。村長さんはラネアトさんに惚れていて、でもラネアトさんには妹がいるので中々なびいてもらえず、彼女を疎んでいたという形だ。その行動を、彼の片腕を殴り落として止めた私は、村からリーリアちゃんを連れ出した。
リーリアちゃんにとっては大切なお姉さんの仇に連れ出された訳で、最初は恨みと憎しみの視線が酷かったな。でもそれが彼女の生きる糧となり、私は私で一生懸命に彼女を育てて来たのだ。
旅を始めてしばらくした頃、この世界に神がいる事を知った。
ゲームで主人公たちの敵だった神に対し、私は最初からちょっと警戒していたと思う。で、その神の使いに殺されかけた事で明確に神に対して嫌悪感を覚える事になる。
決定的となったのは、その後デサリットを攻撃していたアスラ神仰国と遭遇した時だ。
アスラ神仰国は、かなりひどいやり方でデサリットを攻撃していた。攻撃を主導していたのが神に支配された人々で、私は彼らを退ける事でデサリットを救う形となった。デサリットのお姫様には特に感謝され、歓迎される事になる。
その後デサリットにアスラ神仰国から使者が訪れて、魔族に攻められているから助けて欲しいとお願いされた。普通なら、暴力的にお断りする所である。でも私は助ける事にした。その条件として、好きなだけ国の人を食べてもいいかと提示して、受け入れられたのだ。
最初は上手く行った。魔族の包囲を解くのに成功したし、条件で示した人々も食べさせてもらった。ボロボロになった国を再建するため、国王の代わりに私の友達を国王に推薦して受け入れられ、今生まれ変わろうとしている。
で、そこへ魔族の偉そうなおじさんが訪れた。彼が町を殲滅するとか脅してくるから、仕方なく戦う事にした。
洞窟以来の再会で、そんな彼と戦う内に自分の中に秘められた力を欲するようになり、目覚めた力のおかげで彼に勝てそうだったんだよ。
それを邪魔したのが、魔王レヴ──クエレヴレだ。
クエレヴレには手も足も出なかった。
私の中で目覚めた力は、実はゲームの裏ボス邪神の力で、彼女は邪神を滅しようと私に酷い事をして来たんだよ。もう、死んだかと思ったね。
でもリーリアちゃんが私を庇ってくれたり、他にもなんやかんやあって結局は魔族の偉そうなおじさんに身体を半分吹き飛ばされた所で、戦いは終結。次に気付いたらクエレヴレが傍にいて、あとリーリアちゃんがデレて唇にキスされた。
ちなみに、私のファーストキスである。
ここまでが、私がこの世界に生まれる少し前と、生まれてからのおおまかな物語である。
「──確かに、お主が語ったテレビゲームとやらの物語と、我の神殺しの旅の記憶は重なっておる。間違いなくその物語の通りに、我等は神殺しの旅をした。そして人々を神の支配から解放した。それは千年前の事である」
私の生い立ちを話し終わると、真剣に話を聞いていたクエレヴレがそう教えてくれた。
話す中で、ゲームの内容も覚えている限り教えたんだけど、やっぱり重なるらしい。あのゲームは、間違いなくクエレヴレが繰り広げた物語であり、千年前の出来事である事がここに確定した。
「ま、待ってよ。伝承とかなり違うけど、それ本当なの?」
「お主が知る伝承がどんな内容かは知らんが、千年もあれば伝承の内容はねじ曲がって伝わる。あるいは何者かが意図的にそう導いているか……なんにせよ、今語られた事が全てじゃ。神は、この世界の生物にとって悪である」
ここがアリスエデンの神殺しの世界だというなら、クエレヴレの言う通り。神は悪だ。
というかこれまで私自身が見て来た物で、既にそう言い切れる。
「──ここでお主という存在について、一つの可能性を述べよう」
「何?」
「まず、お主は間違いなく邪神じゃ。かつてこの世界を神をも超える存在として君臨した、絶対悪である」
「でも私は、元居た世界では普通の人間だった。邪神なんていう存在じゃない」
「……我等は、邪神を倒した。その時邪神が、扉を開くのを見た。その扉はどこかこの世界ではない場所に通じていて、邪神はそこから何かを引っ張り出したのじゃ。その瞬間、全てが弾けた。邪神は引っ張り出した何かと共に消え去り、その場には何も残らなかった。我等もその時、満身創痍でな。開いた扉や消え去った邪神が真に消滅したのかを確かめる余裕もなかったのじゃが……その時引っ張り出されたのは、もしかしたらお主だったのではないか?」
「私?」
「推測になるが、お主がテレビゲームで邪神を倒した時と、我等が邪神を倒した時に何かが起こり、お主が元いた世界とこの世界が繋がってしまったのかもしれん。我等に敗北し魂だけの存在になろうとしていた邪神は引っ張り出したお主という存在に寄生し糧にして、この世界に身を隠していたのじゃ。肉体を得てからも完全に復活するその日まで、何者にも悟られぬようその気配を押し殺し、お主に身体の権利も与えていた。しかしそれが仇となったと言うべきか、お主が主要な人格となってしまった。しかも一度目覚めた邪神を、お主は聖女の力によって再び閉じ込める事にも成功している」
「……私が、聖女?」
なんていうか……むずかゆい。聖女って、アレでしょ。凄く敬虔なシスターさんとか、美しく神々しい女性だけがなれる、アレ。今も昔も、私には全く似合わない存在だ。
「その聖女の力、どこで手に入れた?邪神であるお主が手に入れる事は、まず不可能のはず。必ず何か、キッカケがあって手に入れたはずじゃ」
いや、そう言われても……でも確かに、自分のスキル一覧を覗くと聖女というスキルがあるんだよね。
効果は、闇属性に対する最高レベルの耐性効果と、闇を浄化する力。
一体いつ手に入れたんだこんな物。たぶんスキルイーターで誰かを食べて手に入れたんだと思うけど、けっこうたくさん、それもランダムで食べていたので、いつどこで手に入れたのかなんて見当がつかないよ。ていうか聖女って、食べて覚えられる物なの?色々と疑問がある。
で、色々と考えて気づいた。謎のスキル『???』が消えている事に。