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魔王からの質問


 私の好きは、家族として好きという好きだった。唇でちゅーをしたり、ベッドで身体を重ねる感じの好きではない。

 でもリーリアちゃんは違った。私と唇でちゅーをしたり、ベッドで身体を重ねる感じの好きだった。


 そりゃあ、リーリアちゃんは魅力的な女の子だ。美人さんだし、その魅力は私をそちらの道に引きずり込むほどの実力を充分に持っている。

 でも私がリーリアちゃんにそちらの道を歩ませる事になるのは、何か違う。だって私はリーリアちゃんのママなんだから。ここはビシッと言ってやって、リーリアちゃんをノーマルに戻してあげるべきだろう。それがリーリアちゃんのためになるはずだ。


「リンク族は異性と番になっても、子を孕む可能性が低い。そのため異性とは子を産むためだけの関係を持ち、婚姻の約束をするのは同性同士という者も少なくない。リンク族は長寿命じゃからな。なるべく気が合う相手と多くの時間を過ごしたいという想いで、そうなったのじゃろう」


 私とリーリアちゃんが唇を重ねる光景の向こうで、クエレヴレが冷静にそう解説をしてくれた。

 そのクエレヴレの言う通りなら、つまりリンク族にとって同性同士はノーマルという事か。なら仕方ない。受け入れよう。

 思えばリーリアちゃんは女の子相手に、ナチュラルに身体をくっつかせてナチュラルにやらしい手つきをしていたっけ。それはつまり……女の子でも全然いけちゃうクチだったから、と。

 だとするとある意味危なかったな。危うく他の女の子にリーリアちゃんを取られる所だった。一番候補は翻訳の、リシルシアさん。


「はぁ……今まで本当にごめんね、アリス。これからはあんたの事を嫌いなんて言わないから、だからもう、私を置いて行かないで。絶対に、死なないでよ。あんたがいなくなったら、私はたぶんダメになっちゃう……!」


 唇を離したリーリアちゃんが、泣きながらそうお願いをして来た。

 リーリアちゃんが私を恨んでいるなら、別に自分が死んでもいいだろうと、軽くそう思っていた所もあった。でもリーリアちゃんが私の事を愛してくれていると宣言された今、絶対に死ぬ訳にはいかなくなったよ。

 愛の拘束力を感じる。でも勿論嫌じゃない。何がなんでも生きてやろうという気概が生まれただけである。


「うん。じゃあ、リーリアも約束してほしい。私の傍にいて。でも生きる事を最優先にしてほしい」

「……分かった。約束する。えへへ」


 リーリアちゃんの涙を触手で拭ってあげると、リーリアちゃんは屈託のない笑顔を見せて約束してくれた。この笑顔はリーリアちゃんの武器だ。私はこの笑顔をいつまでも守っていきたい。

 ああ、それにしても嬉しいな。リーリアちゃん、そんなに私の事好きだったんだ。その愛の形は少し想定と違ったけどね。でも嬉しさが強すぎてそんなのどうでもいい。

 今回死にかけた事で、リーリアちゃんの本心を引き出す事が出来た。おじさんやクエレヴレには、ある意味感謝しなければいけないのかもしれない。


「仲良き事は、良き事じゃ。しかしそろそろ本題に入らせてもらってもよいかのう。我はお主に聞きたい事が山ほどあるのじゃ」


 空っぽになったコップを置き、クエレヴレの額の目が私を見た。

 よく考えれば、第三者の前で私達はとんでもない事をしていた気がする。ま、まぁいいか。あんまリアクションしてこないし、見られたって別に減るもんじゃない。


「その前に、どうして私にトドメをささなかったの?」

「お主から邪神の気配が消えたからじゃ。それだけではないが、先ほども言った通り、今お主に危害を加えるつもりはない」


 今、という部分を強調されると、今後は分からないと言っているのと同じだ。怖いな。逃げ出したくなっちゃう。


「あの、なんか身体が大きな魔族のおっさんがあんたを殺そうとして……その時魔王様が庇ってくれたの」

「あのままではリンク族の娘も斬り捨てられていただろう。愛する者を庇いたいと言う気持ち、理解できなくもないがあまりにも無謀じゃ」

「た、助けてくれて、ありがとうございました……」

「礼は必要ない。我の意思に反し、お主らを殺そうとしたバニシュの行動には思うところがある。また、あの白い魔物……アレも奴の事を恨んでおった。我がいない間どういう扱いをしていたかは知らんが、礼節を欠いた言動と扱いがあったようじゃ」

「……そうだ。テレスヤレスは、無事?」

「白い魔物の事か?それならそこにいる」


 クエレヴレが指さした場所に、1体の人形が置かれて立っていた。それは白い人型の人形で、完全にただの置物のと化していたんだけど、間違いなくテレスヤレスである。

 いたんだね。全く気が付かなかった。


「眠っているようじゃ。再生に力を使っているのじゃろう」


 寝ているんだね、コレ。寝てると本当にただの置物にしか見えなくて、コレで鎧や剣を持たせて立たせて置いたら完全にマネキンだ。

 おじさんに腕を切られたり、身体を削られたり、クエレヴレの魔法に巻き込まれて吹っ飛んで行ったりしたんだけど、庇う余裕がなくて心配してたんだよね。今もまだ腕とかが再生出来ていないけど、生きてはいる。無事でなによりだ。


「では、こちらの番じゃ。まず一番気になる事を聞く。お主は、邪神か?」

「邪神という定義が分からない。種族という意味で尋ねているのなら、そう。私は邪神。でももし貴女が千年前に倒した邪神そのものをさしているのなら、答えは、違う」

「ではなんだという。お主がバニシュを追い詰めたあの時、確かに邪神がいた。アレは、千年前に我が仲間と力を合わせて倒した邪神であったという確信がある。そもそも何故貴様は、千年前に我が邪神を倒した事を知っている。それを知っていると言う事は、やはり千年前のあの邪神なのではないか。我の名をクエレヴレと呼んだのもおかしいぞ。我はここの数百年、魔王『レヴ』と名乗っている。フルネームを知る者は極わずかじゃ」


 クエレヴレは食い気味に私に尋ねて来た。

 その開かれた一つの目が、それとたまにフリフリと動く尻尾が可愛い。あと、口調もイイ。声も可愛くて好き。


 実は私、少しワクワクしている。だってゲームの中で見ていたあのキャラクターが、目の前にいるんだもん。興奮しない訳がない。しかも何を隠そう、ゲームの中でクエレヴレが一番好きなキャラクターだったのだ。

 この可愛い見た目と、老人口調のギャップがたまらない。あと口では色々と厳しい事を言うけど、いつも優しさが垣間見えてしまう心優しい魔族の女の子。それでいてセクシーで、ギャップが凄い。

 でも私、この人に殺されかけたんだよね。そう思うとなんか複雑な気分。


「……」

「急に黙ってどうした。答えられぬのか?」

「……何から説明したらいいのかが分からない」


 本当はただ、クエレヴレに見とれていただけだ。

 ゲームの中で見たキャラクターと変わらない彼女を見て、私は感動している。

 でも悩んでいたのも半分くらいは本当。私の生い立ちって、この世界の人に説明するのが少し難しい。


「というと?」

「全て説明する事は可能。でも、たぶんクエレヴレが知らない言葉も使う事になりそうで、上手く纏められない」

「千年生きたこのワシにも知らぬ事があると?」

「ある」


 そう言い切ると、クエレヴレは面白そうに笑ってみせた。


「何はともあれ、話を聞かん事には始まらん。貴様の言葉で良い。話してみよ」

「私も、興味ある。アリスがどういう経緯で生まれたのか、知っておきたい」


 2人の好奇心に満ちた目が、私へと向けられる。

 クエレヴレには話さなければいけないし、どうせならリーリアちゃんにも知っておいてもらってもいいだろう。


 でもホント、まず何から話せばいいものか……。まぁ最初からだね。始まりは、ゲーム『アリスエデンの神殺し』からだ。


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