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幕間──リーリアちゃん


 どうしよう。本当に困った。

 私は子育てなんかした事がないし、お金もない。それなのに勢いでリーリアちゃんをリンク族の村から連れ出してしまった。

 無責任にもほどがある。でも仕方なかったんだよ。あのまま放っておいたらリーリアちゃんは間違いなく不幸になってしまう。オマケにラネアトさんとの約束も破る事になる。あんなの連れて行くしかないでしょうが。


「ふー……!」


 しかも、姉の仇としてめっちゃ睨まれている。隙あらば刀で斬りつけて来るし、こんな関係のまま育てるとか無理すぎね。

 でもまぁ、やるしかない。

 とりあえず、そうだな……。もう少し上手く武器を扱えるようになってもらいたい。


 私は手ごろな木の枝を触手を伸ばして拾うと、それを振って素振りの仕草を見せた。


「……私にもやれって事?」


 縦に頷いて答える。


「嫌」


 だけど拒否されてしまった。仕方がないので、強硬手段だ。私は触手で彼女の身体を巻きあげると、無理矢理刀を掴ませた状態でぶんぶん刀を振らせる。


「やっ、やめ、て!」


 いくら嫌がろうとも、拒否しようとも、私は操り人形状態でリーリアちゃんに強制的に素振りをやらせる。


「分かった!自分でやるから、やめて!放して!」


 そう訴えられたら、仕方ない。私はリーリアちゃんから手を放してあげた。

 でも自由の身となったリーリアちゃんは、ふてくされたようにため息を吐くだけで素振りをしようとしない。

 仕方ないので再び操り人形にしてあげようと触手を伸ばしたところで、慌てた彼女が自主的に素振りを始めてくれた。

 やはり、刀の重さに身体がついていけていない。根本的に、筋肉が足りていないのだ。しばらくは基礎の基礎を伸ばしていく必要があるだろう。

 問題は、ご飯や寝床だ。自分1人ならどうとでもなる。でもリーリアちゃんが一緒となると、それなりに色々と揃える必要が出て来る。

 リーリアちゃんを鍛えるより、そっちの方が急務だな。

 という訳で、仕方ないので一旦リンク族の村へと戻った。そしてリーリアちゃんの家から布団や食料に調理道具などを拝借すると、それらを亜空間操作によってしまい込んで今度こそ村を後にする。


 それから本格的なサバイバル生活が始まった。幸いにして、食料には困らない。お肉は向こうからやってきてくれるし、野草も豊富だ。キノコや木の実も私が毒見してから食べさせれば問題はなく、栄養バランスはたぶんイイ感じの食事をとらせてあげられていると思う。

 夜になると亜空間操作からテントやお布団やらを取り出し、それを設置してあげれば雨に濡れる心配もない。

 それに、お風呂だって毎日いれてあげられている。魔法で水を生み出し、それを火の魔法で温めると簡単にお湯が出来てしまうのだ。それをリーリアちゃんにかけてあげる事で、毎日身体は清潔で汚れは全くない。

 服も毎日洗濯しているので清潔だ。


 ……サバイバル生活だよね、コレ。まぁ何かが違う気もするけど、そんな感じで過ごしている。


 そんなある日の事。毎日の鍛錬の成果で、リーリアちゃんの素振りがだいぶマシになってくると、私は頃合いだと判断した。


「わっ!?」


 私は触手でリーリアちゃんを担ぎ上げると、勢いよくジャンプした。そして高い場所から周囲を見渡し、手ごろな相手を探す。そして見つけた。

 見つけた方向にフィールンで糸を伸ばすと、身体を引っ張ってそちらへと移動。見つけた魔物の前に降り立った。


 それは、ウサギ型の魔物だ。小さく、レベルも低いしまさしくチュートリアルにもってこいな相手である。

 ただウサギといっても、牙が剥き出しだし目つきも鋭いのでけっこう怖い。


「……何?」


 私はウサギの前にリーリアちゃんを立たせると、背中をおして戦えと促した。


「ひ!?」


 ウサギが近づいて来たリーリアちゃんを威嚇する。相手はリーリアちゃんよりも遥かに小さな魔物だ。それなのにただ威嚇されただけでリーリアちゃんは驚き、腰をぬかしてしまった。

 これはまで、リーリアちゃんの前にはいつも私がいた。でも今は違う。私はリーリアちゃんの後ろにいて、彼女を庇おうともしない。


「ね、ねぇ!助けてよ!」


 リーリアちゃんが私に助けを求めて来る。でも私はそっぽむいて、助けるつもりがない事を行動で示した。

 そうこうしている内に、ウサギがリーリアちゃんに襲い掛かって来てしまった。リーリアちゃんは咄嗟に刀でウサギの口を受け止めると、ウサギはそのままリーリアちゃんに覆いかぶさって刀をがぶがぶと噛み締める。刀で受け止めなかったら、その鋭い牙に噛まれて怪我をしていた事だろう。

 怪我をする前に私が殺すけど。


「っ!や……このっ……!」


 リーリアちゃんが、覆いかぶさるウサギを押し返して勢いよく立ち上がった。押し返されたウサギは地面に着地すると、再びリーリアちゃんに向かって飛び掛かって来る。

 でもそのウサギの身体が切り裂かれ、地面に落ちた。


「はぁ……はぁ……!」


 やったのは、リーリアちゃんだ。刀を鞘から素早く抜くと、見事な居合斬りでウサギを仕留めてみせたのだ。

 私は喜んでリーリアちゃんの頭を撫で、最大限の称賛を贈る。リーリアちゃんは息を乱し、興奮気味だけどね。でもこれがリーリアちゃんにとっての初勝利だ。祝わずにはいられない。

 周囲に群れの仲間なのか、今のウサギと同じ魔物がいっぱいいるけど、私は触手で薙ぎ払いながらリーリアちゃんの頭を撫で続けた。

 その日のご飯は、リーリアちゃんが仕留めたウサギの魔物だ。私が適当に捌き、適当に食べれそうな所を焼いて調理してあげた。リーリアちゃんはそれが自分が仕留めたウサギだと理解し、最初は食べるのを躊躇っていた。でも空腹に負け食べ始めると、もう止まらない。完食し、そして満足したのか眠ってしまった。


「うっ、ううぅ……!」


 その日は何か悪い夢でも見ているのか、テントの中でリーリアちゃんがうなされている事に気がついた。気になってそっとテントの中を覗くと、枕に必死に抱きつきながら、縋るように身をよじっているではないか。


「お姉ちゃん……!」


 私はそう呟いたリーリアちゃんを触手で抱きしめると、胸の中で泣かしてあげた。どこが胸だって話だけど、まぁものの例えだよ。

 するとこんな身体でも抱擁の効果はあったようで、甘えるようにして胸に顔をこすり、しばらくして安心したように眠りについてくれた。


 リーリアちゃんはこうして泣いて眠る日がよくある。その度に私は抱き締め、落ち着くまで手を握っていてあげるのが私の夜の習慣だ。

 それにしても、見てよこの寝顔。世界一可愛くない?いつまでも見ていられる。


 いくらラネアトさんと出会ってから食欲が抑えられるようになったとはいえ、食べたいと言う衝動は勿論ある。でもそれ以上に、この子の事が愛おしい。私はこの子のために生きていく。この子を立派に育て、育ってからも一緒に過ごしていけたらなと、そう思う。


 まぁ将来的にはもしかしたらこの子に殺されてしまうかもしれないんだけど……それはそれでいいだろう。それでこの子が生きてくれるなら、私は大満足である。


 でももし万が一にも私が欲に負け、この子を食べようとするような事があったら、その時はどうかラネアトさん。お願いします。私を止めてください。あの時、ラネアトさんに襲い掛かろうとした私を止めた時のように、ビシっとね。

 私はどうなっていい。殺したっていいからさ。私は自分の中にいるかもしれないラネアトさんに、そうお願いをした。


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