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本当の邪神の目覚め


 おじさんの剣が降ってくる場所に、触手たちが配備されている。彼らはその剣を食べる気満々で、口を開いて待機されている。そんな所に剣を振り下ろしたらどうなるか。


 食べられるに決まっている。


 普通なら、ね。でもいかんせん、おじさんのその攻撃は普通ではなかった。威力が強すぎて、さすがの私の触手たちが剣に触れたその瞬間に消滅してしまったのだ。でも側面から襲い掛かると食べる事ができた。出来たんだけど、それでは剣を止める事が出来ない。

 仕方がないので私は片手を差し出して構え、その剣を受け止めた。

 剣が私の手に触れた瞬間、止まった。すさまじい風と衝撃を巻き起こし、全ての手を失い身体のバランスがうまく取れないのか、近くにいたテレスヤレスは倒れこんで地面に突っ伏し、どうにか踏ん張っている。


「消えろ……!」


 剣を受け止めた私の腕が、ぶちぶちと音をたてて崩壊し始める。あまりにも威力が強くて、このままでは受け止めきれずに身体に直撃してしまう。それはちょっとマズイ。

 でもこうしている間にも私の触手がおじさんの剣に噛みついていて、剣の威力はどんどん失われて行く。やがて完全に受け止めきる事が出来て、威力が失われた。


「……」


 おじさんは、剣を食べられてその手から失ったものの、剣を構えた姿のまま呆然とする。

 剣を受け止めた私の腕も、黒い血が溢れて使い物にならなくなってしまった。力を失い、下げられる。


「オレの一撃を、受け止めた。コレはさすがに想定外だ。神でもないこんな化け物、一体この世界のどこに潜んでいたというのかね?」

「……」


 その問いに答える義務はない。私の触手たちが、おじさんに向かって伸びていく。おじさんを食べ、養分とするために。

 でも黒い剣が通り抜けると、その触手たちが突然消滅した。


「忘れたのか?この幻影魔人剣は物体であり、幻影だ」


 食べたはずのおじさんの剣が、その手に握られ復活している。その剣によって私の触手たちが斬り捨てられてしまったのだ。

 でも触手たちはすぐに再生し、復活を果たす。

 自動回復による回復なんだろうけど、その復活速度は元の回復速度よりも比べ物にならないくらい早い。でも早いのは触手だけで、本体の腕の治りは緩やかだ。


「オレの攻撃を受け止めたのは褒めてやる。だがこの攻撃を繰り返したら貴様はどうなる?まさか、いつまでも再生し続けられる訳ではなかろう。それにその腕の治りは遅いようだね」


 弱点を見つけたような事をいう。でもその通りだ。このまま攻撃されて受け止めての繰り返しでは、私が消耗して倒されるだけである。


『──心を、闇に堕とせ』


 また、声が聞こえた。うん。たぶんそうすれば、おじさんに勝てる気がする。今でさえかなり堕としてはいるんだけど、これ以上は戻ってこれなくなりそうで怖くて踏み込めないのだ。

 でも勝てないのなら仕方がない。声に従うように私の意思が遠のき、闇に堕ちていく。


 その瞬間、何かがこの世界に生まれ落ちた。それは絶対なる闇であり、この世界にとっての悪の元凶。

 一本の触手が、私から生えた。その触手には口があり、一つの目がついている。口からは涎をたらし、凄くお腹を空かしている。


「何をしても同じ事──」


 おじさんの剣が私に向かって振り下ろされた。その剣に向かい、一つ目の触手が襲い掛かると剣が一瞬にしてその口に食べられ、消滅した。

 さらに無数の触手がおじさんの身体に襲い掛かろうとする。私の意思ではない。全てが勝手に動く。


 おじさんは慌てて飛び退こうとしたけど、そうはできなかった。


「っ……この!」


 おじさんの足に、両腕を失ったテレスヤレスの足が絡まっている。すぐにテレスヤレスを蹴り飛ばして自由となったおじさんだけど、その一瞬の隙は決定的になった。

 私の触手が、一斉に彼の身体に襲い掛かる。触手はおじさんに噛みつき、その肉体を食べていく。


 美味しい。凄く、美味しい。


「うおおおおおおお!」


 触手にまとわりつかれたおじさんが、再びいつの間にかその手に戻っていた剣を振りぬいてまとわりついていた触手を斬りはらった。一瞬にして、複数の触手たちが消滅してしまう。オマケに風が通り抜け、物凄い衝撃が周囲に広まって行った。

 でも一つ目の触手は無事だ。その一つ目の触手が、おじさんへと襲い掛かる。防御しようとしたおじさんだけど、その触手に防御は無駄だ。おじさんは腕を食べられてしまい、また美味しい味を私に感じさせてくれる事になる。

 おじさんの全身は、既に血まみれだ。あちこちが私の触手にかじられた事により欠けていて、満身創痍である。それに加えて、片腕を失った。


「オレが、こんな魔物如きに負けるわけがない!ないんだよ!」


 自分にそう言い聞かせるように叫んだけど、その直後に一つ目の触手がおじさんを睨みつけ、何か魔法を発動させた。すると、おじさんの動きが止まった。

 それは対象の動きを完全に止める魔法。邪神が使ってくる厄介な技の1つで、これをくらうと数ターンにわたって行動できなくなってしまう。おじさんは一瞬行動を遅くする魔法を使えるようだけど、これはその上位版となる。


 一つ目の触手が、ケタケタと笑った。そして動きが止まったおじさんに向かい、最後の一撃を加えようとする。いつの間にか復活していた、他の触手たちもおじさんへと向かって伸びていく。


 勝負あった。おじさんは、私に食べられて死ぬ。


 そう思った時、私の触手達が突然降り注いだ雷によって吹き飛んだ。雷は本体である私にも攻撃してきて、私の身体が強烈な電撃によって焼け焦げてしまう。それでもまぁ、無事だった。立っていた場所から多少吹き飛ばされ、私が立っていた場所が数百メートルにわたって抉られクレーターができているけど、無事だ。


 けど、一体何がおこったと言うのだろう。突然の攻撃に私は呆然としてしまうけど、あれだけの攻撃を受けてもしれっと無事だった一つ目の触手だけは感じ取っていた。彼は、空を見つめている。

 つられて私も見上げると、そこに誰かがいた。


「──……久しいのう、邪神。よもやもう復活しているとは思わなんだが、随分と可愛い見た目となったものじゃ」


 空中に浮かび上がった紋章。その紋章の上に立つ人物。

 その人物を見て、私は驚いた。私はその人物を知っている。忘れられない。私はその人物を操作して何百回も戦闘を繰り返し、そしてようやく最後の目標である邪神を倒す事に成功したのだから。

 その人物が、紋章が動く事によって下がって来る。そして地面に降り立つと、紋章が消え去った。


 頭にはえた2本の角。やや黒めの肌。幼めの身体つきながらも、大きな胸。その胸を強調するかのように、谷間を大胆に露出したシャツを着こみ、履いているスカートは大胆にスリットが入ってセクシーだ。大きく立派なトカゲの尻尾がはえており、それをブンブン振っている。

 目は、瞑っている。その代わり額の第3の目が開かれており、それにより彼女は周囲を見ているようだ。

 その手には、先端に美しい青色の水晶が埋め込まれた杖を装備している。


「ま、魔王様……!」


 ようやく魔法がとけて動き出したおじさんが、彼女の事を魔王と呼んだ。魔王?彼女が?まず、このおじさんが魔王ではなかった事に驚いた。何か上位の存在がいるような事をほのめかしてはいたけど、本当にいたんだね。あれだけ強いおじさんよりも、更に強い存在。それが魔王と言う事になる。

 いや、先ほどの攻撃をくらった身として分かるよ。あの一撃はおじさんの攻撃よりも強烈だ。もし力を欲する前の私がくらったりしたら、跡形もなく吹き飛んでいたかもしれない。いや、即死耐性があるからギリ生きられるとは思うけどね。


「下がっていろ、バニシュ。コレはお前の手におえる存在ではない」

「……はっ」


 その指示におじさんは素直に従った。足を引きずりながら下がって行く彼を、私はただ見送るだけ。一つ目の触手はそちらに目もくれない。魔王なる存在をじっと見つめ、何かを考え込んでいるようだ。


 気持ちは、分かる。アレは、凄く美味しそうだ。絶対に食べたい。食べなければいけない存在。いや、絶対に食べる。逃がさない。溢れ出る気持ちは抑えられそうにない。


 欲に後押しされる形で思わず手を伸ばした瞬間だった。その手が切断され、吹き飛んだ。


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