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空腹の原因


 その剣の性能を自慢するかのように、おじさんが次々と私達へと向かって剣を放り投げて来る。その剣は当たれば勿論斬られるけど、纏っているオーラに触れただけで触れた物を破壊する能力がある。直撃しなくても当たり判定となり、受け止めるにも威力がありすぎて難しい。とりあえず、避けるしかない。私とテレスヤレスは、防戦一方となった。

 特にテレスヤレスがマズイ。おじさんの動きについていけておらず、どんどん身体を削られてHPが減って行っている。私はギリギリ対応できているけど、テレスヤレスを庇う余裕はない。


「どうした?つまらんぞ、退屈してきた」

「っ……」


 おじさんがわざとらしいあくびまじりにそう言って、私達を挑発してきた。

 挑発されても、こちとら必死で答える余裕がない。答えて欲しければ少し手を抜いてもらえないかな。


 心の中でそう訴えたら、本当に攻撃が止まった。


「……?」


 私とテレスヤレスは首を傾げる。

 でもおじさんはニヤリと笑うだけで何も言って来ない。

 もしかしたらコレ、なめプという奴だろうか。だとしたら性格が悪い。悪すぎる。そして悔しい。相手になめプをさせる余裕がある程、私達の実力が届いていないと言う事だから。


 でもこの隙に息を整え、テレスヤレスと作戦を考える時間が出来た。


 というのは全く甘い考えで、私がテレスヤレスに近づいたところでテレスヤレスの腕が吹っ飛んでしまった。やったのは、もちろんおじさん。

 剣を飛ばす技ではなく、私達に向かって突っ込んで来て直接の斬撃による物だ。更におじさんはテレスヤレスと私に向かって剣で攻撃してきて、テレスヤレスが反撃を試みたけど残った最後の腕も飛ばされてしまった。

 私はというと、2本の触手で攻撃を試みたけどやはりというか、当然のように避けられてしまう。

 そこで気づいたんだけどこのおじさん、私の触手をかなり警戒している。不自然なくらいその口を避けるようにし、攻撃も口に当たらないようにしている気がする。もしかして、気づいているのかもしれない。私の口に触れたら、何もかもがお終いだと言う事に。だとすると余計に戦い辛い。

 そして、何故悟られたのだろう。……先ほど、テレスヤレスと戦った時か。絶対に外れないと言っていた首輪を、私の触手が呆気なく食べてしまうシーンをおじさんも見ている。

 失敗した。だから連戦って嫌なのだ。


 私の触手を難なく避け切ったおじさんが、私を睨みつける。そして間合いに飛び込んで来た。彼は触手ではなく、私の本体を狙っている。

 迫る、おじさんの黒い剣。絶体絶命のピンチである。


『──食せ』


 そんな時、突然頭の中に声が響いた。その声は、暗闇の底から這いあがってくるようなとても不気味な声だ。


『──空腹を、満たせ』


 ああ。私はこの声を知っている。

 今まで気づかなかったけど、今わかった。私がこの世界に来てから、目の前の物全てを美味しそうだと思った原因が。

 全ては、この声による物だ。本来美味しそうでもなんでもない物まで、この声は私に空腹を与えて食すようにと促した。


『──世界の全てを、食べ尽くせ』


 全てと言われ、リーリアちゃんの顔が思い浮かぶ。その後ろにはカトレアやフェイメラちゃんに、アルメラちゃんが立っている。王様もいるね。ウルスさんもいる。デサリットのお店の人たちや、昨日神の支配から解放してあげた人たち。

 その全てを食べると、この世界には何が残るのだろう。きっと何も残らない。その時私は、真の化け物と成り果てる。この世界を覆いつくす闇──邪神とね。


 ……そうか。やっぱり私は、邪神だったのか。


 ショックだなぁ。私はやっぱり、この世界にとって害悪。居たらいけない存在だったのだ。だったらいっそのこと、このままおじさんの手によって葬り去ってもらおう。そうすれば、世界に平和が訪れる。


 なんて、まっぴらごめんだよ。


 今このおじさんに殺されるくらいなら、私は食べるさ。食べてやるともさ。でも友達や大切な人たちは食べない。当然だ。


『──全ての生物を、我が肉体に』


 うるさいな。私の決意、聞いてた?私は全部は食べないよ。


 でも、目の前のこのおじさんは食べる。そしてリーリアちゃんの下へと帰るのだ。たとえどんな手を使っても、縋ってはいけない力だとしても……縋ってやる。


 謎の声よ。今私の目の前にいる敵に勝つために、力を貸して。


 お願いすると、身体の底から力がわいてきた。わいてきた力はやがて爆ぜ、同時に斬り落とされたはずの触手が再生した。更に、複数の触手が出現する。10本程だろうか。お尻の上のあたりから生えたそれらは、元の触手とは違って可愛げのない、とてもグロデスクな触手だ。牙を剥き出しにし、涎を撒き散らしている。

 更に、私の視界も変化する。視界が、真っ赤だ。まるで赤いフィルターでも通してみているかのように、世界が赤い。


 私に迫る剣も赤いんだけど、その剣は生まれ出た触手が絡まり動きが止まった。


「……ふむ」


 おじさんは悠長に呟き、少し力をいれるような仕草を見せると剣からオーラが生まれた。そのオーラに私の触手が巻き込まれると、触手が溶けて切断されてしまった。更におじさんは触手を切断して来る。

 ついでに本体も斬り刻もうとしてくるんだけど、私は切られるのもお構いなしにおじさんに向かって手を伸ばした。

 斬られたけど、傷は浅い。オーラに身体中が包まれ、熱い。それでも予想以上に私を傷つける事ができず、私の手がおじさんに触れる事になる。


「──アグルキーフォ」


 空間の収縮が、私の掌で触れている部分で起きた。収縮された空間は歪みを生み、やがて収縮が限界を迎えて爆ぜる。

 空気が無音で震えた。風が通り抜け、静かに地面が揺れる。


「がはっ!」


 おじさんの口から、血が吐き出された。私が手で触れていたおじさんの身体に、風穴があいたためだ。

 ところで今の魔法って確か、アリスエデンの神殺しで邪神が使用していた魔法だ。自然と頭に浮かんで使ってみた魔法なんだけど、やっぱり自分が邪神という存在なんだと認識させられる。まぁ、別にいい。私はおじさんを、食べるだけ。


「舐めるな、雑魚が」


 体に風穴があいているというのに、おじさんは何故か元気そう。そして私を睨みつけて来る。憎しみたっぷりの、殺気がこめられた目でね。


「ああ、ああああぁぁぁぁぁぁ!」


 おじさんが叫ぶのと同時に、その身体中から剣から溢れる物と似たようなオーラが溢れ出す。そしておじさんの身体に変化が表れた。上半身の服が破れ去ると、筋肉が更に盛り上がって身体が一回り大きくなったのだ。さらに頭から角が生え、その角はまるで額に寄生しているかのように血管が盛り上がっている。

 おじさんが巨大化したのに伴って、手に持ったその黒い剣も巨大化した。変身が終わると剣を軽く一振りし、それだけで大地が揺れ動く。


「ペットにするつもりだったが、もういい。殺してやる」


 私を見下ろし、おじさんがそう宣言する。今までは、おじさんは何も本気を出していなかった。あんなに強かったのに、それでもまだまだ本気ではなかった。でも私が風穴をあけたことで身の危険を感じ、ようやく本気になったのだ。

 ちなみに巨大化しても身体にはぽっかりと穴があいていて、そこから血が溢れ出している。でもおじさんは気にする素振りもみせない。


「消滅しろ」


 おじさんが剣を振り上げる。その剣にオーラがたまり、力が蓄えられていく。

 あまりにも、禍々しい光景だ。見ているだけで吸い込まれ、絶望しそうになる。その剣が振り下ろされると、まるで空が降って来るかのような錯覚に見舞われた。


 でもおじさん、貴方が警戒している私の触手はなんでも食べる事が出来るんだよ。


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