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おじさんのペット


 白い魔物は、人型なんだけど顔がない。そして左右に腕が3本ずつ生えており、合計6本ある。足は2本指で、全体的にしなやかで美しい。だけど、人に似ているせいか不気味さも兼ね備えている。

 その魔物とは、戦った事はない。でも私の目の前で繰り広げられた壮絶な戦いは、ハッキリと覚えている。


「名を、テレスヤレスという。このオレのペットだ」

「はい。バニシュ様のペットの、テレスヤレスです」


 でもかつてその魔物は、おじさんに対して敵対的だったはずだ。それがおじさんに対して従順な態度を示し、別人のよう。

 その原因には思い当たる節がある。テレスヤレスの首に、首輪がついている。それが先日壊滅させた組織、バレルカミシュの奴隷たちがつけていた首輪とそっくりなのだ。首輪には恐らく、何か魔法の力が作用している。その魔法か何かにより、神に支配されるのと同じように、首輪をつけられた人の心が支配されてしまう。そんな所だろう。


 そしてこのテレスヤレスのステータスも、覗く事が出来ない。おじさんよりは弱いんだろうけど……かなり強いはずだ。


「テレスヤレスを倒したら、私の勝ち?」

「バカが。そんな訳がないだろう。テレスヤレスを倒したらオレが貴様を殺す。それだけだ」

「……そう」


 残念だけど、まぁ当たり前か。ていうか、それってちょっと卑怯じゃない?仮にテレスヤレスに勝ったとして、その後おじさんと戦わないといけないって事だよね。体力を削られてからもっと強いおじさんと戦わないといけないとか、反則だと思います。審判、彼にレッドカードを。


「バニシュ様。あの魔物の方を殺せば良いのですね?」

「ああ、その通りだ。しかし出来ればアレもペットに──」


 おじさんの話が終わる前に、テレスヤレスが動いた。手を振りかぶると、その掌にボコボコと白い塊が出現して先のとがった砲弾のような物体が出現。振りかぶった手を振り下ろすと、私に向かって砲弾を放り投げて来た。

 それはただの砲弾ではない。本当にすごい威力で、あんなのが普通の人に直撃したら身体が吹き飛んでしまうだろう。木っ端みじんにね。

 洞窟でも見た事のある技だけど、あの時よりもその威力凄さがよく分かってしまう。


 でも、思ったよりも遅い。あの時は凄く速く感じたのにね。それは私が強くなったからだ。


「……」


 避ける必要もない。かといって当たってあげる必要もない。

 私は触手を伸ばして触手でその砲弾を受け止めると、砲弾が私の触手の中で止まった。そしてその砲弾を、お返しとばかりに投げ返す。

 しかしテレスヤレスは新たに、それぞれの手に武器を作り出していた。槍が2本と、砲弾2つと盾が1個。金づちのような武器を1つ手にして、私が投げ返した砲弾をかわしながら正面から突っ込んで来た。


 さすがにその動きは速い。だけど、ついていける。その事に安心したけど、安心している場合ではない。


「テラブロー」


 私は正面からやってくるテレスヤレスに向かって、魔法を発動させた。紋章が私の頭上に5つ出現し、そこから岩が飛び出してテレスヤレスへと向かっていく。でもその岩は全て避けられた。

 まぁ避けられるとは思っていたから、大して驚きもしない。そしてお返しとばかりに、テレスヤレスが私に向かって砲弾を投げて来た。

 そちらがそのつもりなら、こちらもやってやる。私もテレスヤレスに向かって駆けだして、放たれた物を避けながら武器を構える。武器といっても、触手だけどね。


 私の触手がテレスヤレスに襲い掛かる。でもその触手の口を、テレスヤレスは避けてみせた。それどころか、回避しつつ触手の胴体に向かい槍を突き出した。その槍により、私の触手が串刺しになった。触手に攻撃されたのは初めてだったけど、普通に痛い。

 一方テレスヤレスは、私の本体に向かってもう一方の槍を突き出している。その槍は、触手で食べて処分した。更に、振りかぶられた金づちが襲い掛かって来る。その金づちも、別の触手で食べて処分。

 それらとは別の触手がテレスヤレスに襲い掛かったけど、盾で防がれてしまった。と思いきや逆にその盾に触手の口が襲い掛かり、食べる事によって貫通した。その先にいるテレスヤレス本体にそのまま襲い掛かったけど、軌道がずれた事によりそれは叶わない。


 一瞬のうちにそんな打ち合いを繰り広げてから、私とテレスヤレスはすれ違った。


「──ペットにしたいから、生かして捕まえろ。話は最後まで聞かないか。これだから低能な魔物は困るね」


 私とテレスヤレスの位置が入れ替わった事により、私のすぐ後ろでおじさんが先ほどの話の続きをしていた。

 私をペットに?このおじさんの?冗談ではないし、ちょっと変態っぽいからやめたほうがいいと思う。


「……」


 私は別の触手で触手に刺さった槍を抜きつつ、テレスヤレスを睨みつける。その際に触手から黒い血が飛び出した。痛いな、本当に。よく考えればこの身体になってから傷つけられるのは初めてだ。まぁ別に痛みに耐性がなくなった訳ではない。細切れにされた時よりは大分マシな痛みである。

 痛いので、触手の頭を撫でてあげる。


「貴女のその触手……中々凄いですね。私の盾をいとも簡単に破ってしまうなんて、まるで私の主のようです」

「おい、こんな魔物と一緒にするな」

「失礼しました……ただ、本当に凄いと思っただけなのです」

「ふん。さっさと殺せ。貴様はそれでも、かなり強い部類にあるとオレは踏んでいる。こんな魔物風情に苦戦されては困るんだよ」

「はい。では、本気でやらせていただきます」


 テレスヤレスに変化が表れる。その口が裂けて大きくなり、同時に背中に新たな腕が生えた。その腕の大きさは自身の背丈ほどもあり、とても大きくアンバランスとなる。更にその手から白い塊が溢れて変形し、形が整うと大きな剣となった。それを両手に構えると、テレスヤレスの本気モードへの変形が完了だ。

 空気が、震える。あの時、洞窟の中でその姿を見て私は恐怖した。こんな化け物には絶対に敵わないと思い、チビりそうだった。でも今はそうでもない。


 テレスヤレスが、地を蹴った。私も地を蹴って飛び退いた。テレスヤレスから距離を取るようにね。

 着地した先で跪いて掌を地面に当てると、魔法を発動させる。


「ジアスブロート」


 覚えたての、火の魔法だ。地面がボコボコと膨れると、地面を通って私が生み出した魔法が向かい来るテレスヤレスへと突っ込んでいく。そしてテレスヤレスに迫ると、地面から火の竜が姿を現わした。

 でもその火の竜はテレスヤレスが振り払った巨大な剣によって、切り裂かれてしまう。その斬撃は火の竜をいとも簡単に分断し、火の竜は一瞬にして消え去ってしまう事になる。

 クァルダウラと戦って覚えた魔法だけど、案外弱くて使い物にならないな。いや、相手が強いだけか……。

 火の竜を切り裂いたテレスヤレスは、私との距離を詰めようと迫って来る。今度はその場を動かずに魔法を発動させた。


「テラガルド」


 突如として、地面から岩の巨人が出現。それも、3体。


「む?」


 そういえば、おじさんにはこの岩の巨人を見せた事があったんだった。岩の巨人を見ておじさんが片眼鏡をつけなおし、呻っている。

 まぁでもさすがにあの時のヒトデの魔物が私だとは思うまい。


 出現した岩の巨人が、3体一斉にテレスヤレスへと殴り掛かった。

 でもテレスヤレスが巨大な剣を1振りすると、それだけで3体の巨人が真っ二つになってしまう。障害物を一瞬にして排除したテレスヤレスが私の方を見た。手に持った砲弾を私へと放ち、同時に距離をつめようと駆けだす。

 私は尚もその場から動かずに待つ。砲弾は、私の顔面のすぐ横を通って後方で衝撃音を響かせる。

 直後に砲弾に追いつかんばかりの勢いでテレスヤレスが迫り、テレスヤレスが突き出した槍が眼前にまで迫った。そして、止まった。

 槍が急に止まった物だから、物凄い風が私の顔を襲う。その風によってフードが取り外れてしまい、私の顔が露になる。


「……」

「……」


 目の前で睨み合う、私とテレスヤレス。テレスヤレスには顔がないのでその表情から感情を読み取るのは難しい。対する私も、無だ。お互いに顔に感情が出ないので、何を考えているのか分からない。


「……嗚呼。私はこの時を待っていた」


 やがて、テレスヤレスが呟くように言って槍が下げられた。

 そしてその視線を私ではなく偉そうなおじさんへと向けると、物凄い殺気を放って睨みつける。私と戦っていた時はそんな殺気を感じさせなかったのにだ。これじゃあまるで、彼を憎んでいるみたい。

 まぁ実際そうなんだろうね。テレスヤレスがおじさんからどういう扱いを受けて来たかは知らないけど、恨まれるような事をしたんだと思う。だからこんな殺気を放たれるんだ。


「……テイムが解かれた?強制的に?あり得ない。だがこれは現実だ」


 よく見れば、テレスヤレスの首についていた首輪がなくなっている。そして先ほど火の竜が出て来てあいた穴から、私の触手が生えているではないか。

 まぁつまり、そう言う事だ。


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