嫌な予感の正体
千年前におこった事を考えると、もしかしたら神様を倒すのって無駄なのかもしれない。アリスエデンの神殺しの主人公たちのように人々を解放したとしても、結局人々は争うもの。私はどこかアリスエデンの神殺しの主人公達と自分を重ね、調子にのっていたのかもしれない。
かといって、私の知り合いの人々が神に支配されてしまうのは嫌だな。神の気まぐれで殺し合う人々の姿は見たくない。なんていうか、それは胸糞が悪い話だ。
ま、結局は神は排除して、その後争うかどうかは自分たちの好きにしてって事で。だって神様ってけっこう性格悪そうだからね。この世界で私が対峙してみて来た神様関連の人って、ろくな人がいないし。
はい、悩みタイム終了。
ここで、大勢の神様関連の人を食べた私のレベルアップ具合を見てみよう。はい、どどん。
名前:アリス 種族:邪神
Lv :3124 状態:普通
HP:61991 MP:32511
『アリス』習得スキル一覧
・???
・亜空間操作
・スキルイーター
・アナライズ
・自動回復
・菌可視化
・土壌再生
・土内移動
・言語理解:人族
・言語理解:竜族
・言語理解:魔族
・邪神Lv3
・怪力LV3
・遠目Lv2
・俊足Lv1
・透視Lv1
・隠密行動Lv1
・気配遮断Lv1
・暗闇耐性Lv2
・自然環境耐性:熱Lv1
・自然環境耐性:水Lv1
・聴覚強化Lv3
・嗅覚強化Lv3
・感覚強化Lv3
・即死耐性
レベルが大きく上がっている。大量に食べたからね。そりゃこれくらい上がるか。
それとスキルがいくつか増えている。『俊足』やら『透視』は、私が食べた神様関連の人のどれかが覚えていたスキルだ。食べまくってたからどれが覚えていたのかは分からない。
効果はそのままで、素早く動けるのと物を透視してみる事が出来るというもの。透視は覗き放題って事だね。うん、男の人がこんな能力持ってたらちょっと引くわ。
『アリス』習得魔法一覧
・フィオガ
・ラグラス
・ラグジクス
・ラグネルフ
・シャモール
・テラ
・テラブロー
・テラブラッシュ
・テラガルド
・テラルード
・テラクェール
・グロム
・ネロ
・ネロレック
・ネロエグザム
・ガオウサム
・フィールン
・風刃
・ハスタリク
・エンドスカーム
・消滅魔法
・ジアスフロート
・レデンウォール
魔法も増えていて、ジアスフロートはクァルダウラが使っていた火の竜を操る魔法。レデンウォールは司祭のおじいさんが使ってた、透明な壁を作り出す魔法だね。防御に使えそう。
戦術の幅がだいぶ広がったな。レベルもかなり強くなった事だし、この町に来てよかったと思えるよ。不味い物しか食べれないのがアレだけど。
翌朝、私はリーリアちゃんと同じベッドの上で起きた。結局、リーリアちゃんが私を抱いたまま眠ってしまったからだ。ここまで旅続きだったからね。戦闘もあったし、疲れていたんだと思う。
そして私が目を開けてすぐ目の前には、リーリアちゃんの可愛い顔がある。窓の外では小鳥が鳴いていて、いわゆる朝ちゅんを演出している。いや、やらしい事は何もしてないけどね。本当にただの朝ちゅんで、深い意味はない。
リーリアちゃんの寝顔、可愛いな。起きて頬を撫でてあげると、気持ちよさそうに呻った。守りたい、この寝顔。
「っ!」
リーリアちゃんの寝顔に癒されていた時だった。背筋に寒い何かが走り抜けて、驚かされた。
何かこう……凄く嫌な気配がする。それは今まで感じた事のない気配で、凄く嫌な予感がする。
「……ん。アリス?」
リーリアちゃんが目覚め、私の名を呼んだ。そしてゆっくりと起き上がり、身体を伸ばす。
どうやらリーリアちゃんは感じていないようだ。
「どうしたの?なんか顔色が悪いけど」
「……」
なんでもないとは言えない。この気配には確信めいた物がある。何かがおころうとしている。だから、警戒すべきだ。
「何かが、来る。支度して」
「何かって……もしかして、魔族が攻めて来たとか!?」
「──アリス様!リーリア!」
そこへ突然、扉が開かれてウルスさんが部屋に入って来た。乙女の寝床にノックもなしに入って来るとはいい度胸である。
でも彼は私達の姿を見て驚いている。まさか本当にここにいるとは思っていなかったようだ。私とリーリアちゃんは、このお城に泊まるとだけ行って昨晩彼と別れたからね。たぶん城中探し回っていたんだと思う。汗だくだし。
「……どうしたの」
状況を鑑みて、許してあげよう。
彼は一応もうこの国の王様だしね。私のおかげでね。押し付けたとも言う。
「魔族が、攻めて来た……!」
「……そう」
できれば、このまま穏便にいきたかった。でもどうやら、そう言う訳にはいかないらしい。
きっと、次は昨日のように上手くはいかない。甘さや、偉そうなおじさんと対立するかもしれないという懸念を振り払い、覚悟を決める必要がある。
「なんだって?」
「リーリアの言う通り、魔族が攻めて来たらしい」
「やっぱり、のんびりとしている訳にもいかなそうね」
リーリアちゃんは早速身支度を整え、刀を腰にさした。やる気満々である。
「でも、攻めて来たと言う割に気配を感じない」
軍勢が攻めてきたら、例え寝ていたとしても確実に私が気づく。聴覚でも、嗅覚でも気配でもね。その気配がないので、疑問に思った。
ちなみに先ほどの嫌な気配はそういう気配ではなく、もっと別の何かで、もっと嫌な物だった。
「み、見張りによると、攻めて来たのは一人だ。城門の前に立ち、アリス様との面会を要求している。それと、出て来なければ皆殺しにするとも……」
「分かった。会いに行く。リーリア。攻めて来た魔族は、一人。私との面会を要求しているから、今から会いに行く」
「一人で?本当だとすると、相当腕に自信があるって事よね……」
「ただ話し合いに来ただけかもしれない」
「でも、攻めて来たんでしょう?」
確かに。ウルスさんはハッキリと、攻めて来たと言っていた。つまり、話し合いに来た訳ではない。
「まぁいいわ。私も一緒に行ってあげる」
リーリアちゃんは相変わらずどこか面白そうにしている。
でも私は、どうにも嫌な予感がする。今この町に私がいると言う事は、たぶんクァルダウラ等から伝わっているはず。私の実力も伝わっているはずであり、それでもたったの1人でのこのことやってくるなんてありえない。
それに、やっぱりこの異常な気配。背筋が凍り付き、何故か自分が死の淵にいるような感覚がつきまとう。
でも、行くしかない。どれだけ嫌な予感がしても、ここで私が引き下がればこの町は壊滅してしまうから。
不安は消えないけど、私はリーリアちゃんとウルスさんと共にお城を後にし、城門へとやって来た。そこには大勢の兵士達が既にいて、私を待っていたようだ。
私が彼らに門を開くように指示すると門のカンヌキが外され、数名の兵士が観音開き式の門をおして開いて行く。
そして、門の外で待機していた魔族の姿が見え、私は自分が感じていたこの気配の正体を瞬時に理解した。
「……ようやく、開けたか。遅すぎはしないかね、人間ども。そして、クァルダウラを退けたと言う魔物の娘」
その魔族は、筋肉でシャツがもりあがった白髪のおじさんだった。顔のシワは目立つけど、ダンディでカッコイイ系のおじさん。片眼鏡をかけており、鋭い目つきは歴戦の戦士を思わせる。指先の爪は異様に長く、切れ味が鋭そう。耳も長く、先端が尖っている。
そこにいるのは、間違いなくかつて私が洞窟の中で遭遇した、あの『偉そうなおじさん』だった。
できれば、彼とはまだ会いたくなった。相手のレベルがハッキリしていないというのが第一の理由。それに加え、レベルアップや進化で強くなったとはいえ、彼にボコボコにされた記憶は私にトラウマ気味な物を植え付けている。彼と対峙するだけで、手足は震えないけど触手が震える。
レベルが分からないのが、怖い。かつてボコボコにされた事があるから、怖い。
「──アリス」
名前を呼ばれ、私は我に返った。傍にリーリアちゃんが立っていて、私の触手を掴んでいる。
今の私には、守るべき物がある。あの頃のように、1人ではない。私が負けるという事は、リーリアちゃんや他の人々にも迷惑をかける事になる。それどころか、もしかしたら殺されてしまうかもしれない。
怖がっている場合じゃない。しっかりしろ、私。
私は自分に発破をかけ、目の前の強大な敵を睨みつけた。




