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新しい王


 神に操られている人は、町中にそこそこいる。大半は向こうからやってきてくれたのでかなり楽だけど、さすが神によって国の中枢を支配されていただけの事はある。まだまだそれなりの数が残っていて、それなりに時間がかかりそう。

 それでも、残っているのは雑魚ばかりだ。神に支配されているといっても、皆が皆でレベルが高い訳ではない。残っているのは戦闘力の低い者ばかりで、食べるのはかなり楽だ。

 町へと繰り出した私は、臭いを辿って神に支配されている人間を発見。触手を伸ばして食べると、周囲の人々が叫び声をあげて逃げ出す。その中にも神に支配されている人がいたので、触手を伸ばして食べる。隠れている者は遮蔽物ごと触手で食べて駆除する。

 そんな感じの繰り返し。


「しっ、神聖なるこの地を荒らす魔物を駆除するのだ!かかれ!かかれー!」

「はああぁぁぁぁ!」


 兵士の中には、私に抵抗を試みる者もいる。

 今も10人程の兵士が、神に支配された少女を食べようとする私を止めようと、果敢に襲い掛かって来た。

 でも足元を魔法で凍らせて動けないようにした上で、伸ばした触手によって彼らの武器を食べて丸腰にしてから、ガオウサムで毒をくらわしてあっという間に戦闘不能にしてあげた。彼らは殺さない。だって、神に支配さていないから。


「──神に歯向かう化け物めっ」

「……」


 私に対し、神に支配された少女が忌々し気に呟く。そしてそんな少女も、私の触手によって食べられた。

 まだ、小さな少女。フェイメラちゃんと、その姿が被る。でも神に支配されていたのだから、仕方がない。罪悪感は、ある。でもむしろ、こんな少女にまでその支配の手を伸ばした神様に対する怒りの気持ちが勝る。

 さて。次は、と。


「……」


 逃げ惑う人々が散見する周囲を見渡すと、狭い路地からこちらを覗いている、杖をついたおじいさんと目が合った。彼は逃げようとしない。私はそちらに向かって歩き出す。


「やあああぁぁぁぁ!」


 そんな私の行動を止めようと、1人の勇敢な少女が立ち上がった。少女は立派な剣を手に私に斬りかかって来たんだけど、私が剣を素手で受け止めると彼女はそれだけで身動きができなくなってしまった。


「あっ、ぅ……」


 私が睨むと……というか見ただけなんだけど、それだけで少女は戦意を喪失。手にしていた剣をどうにか私から取り戻そうとしていたのを諦め、力なく地面に座り込んでしまう。

 可愛らしい少女だ。背は、大人になる前の私よりも少し小さいくらい。12歳くらいかな?おさげの髪の毛と、快活そうだけど無茶な事もしそうな、そんな元気系な少女だと勝手に想像する。まぁ実際、圧倒的な力を誇る私に、無謀にもろくに剣を扱う事も出来ないのに斬りかかって来たんだから、その通りなんだと思うよ。


「に、逃げて!カークスおじいちゃん!」


 少女が怯えながらも私を睨み返し、おじいさんに向かって叫ぶ。彼を私の魔の手から守るために行った少女の行動は、称賛に値する。

 きっと、あのおじいさんの足が悪くて、私から逃げられないと判断して咄嗟に行動したのだろう。それはこの子の勘違いだ。

 私がおじいさんの方を指さして少女に見るように促すと、少女がおじいさんの方を見た。すると、おじいさんは壁を這いあがって家の屋根に乗り、驚異の運動神経で逃げ出しているではないか。この子が作った僅かな隙を活かそうと、全力で逃げ出している。


「え……?」


 そんな信じられない光景を前に、少女が戸惑っている。でもそんなおじいさんに私の触手が襲い掛かり、そして食べてしまった。


「あ……ああ!カークスおじいちゃん……!」


 さすがに、見ている所を襲って食べるのはマズかったかな。少女に余計なトラウマを植え付けてしまった気がする。でもまぁ、これも社会勉強だね、うん。


「み、ミズリ!」


 とそこへ、ウルスさんがやってきた。彼は少女に駆け寄ると、少女を抱いて私から庇うような仕草を見せる。


「た、頼むっ!この子はオレの娘なんだ!見逃してくれ!」

「お、お父さん……」

「……」


 ウルスさんに懇願されたけど、別に私は少女を食べるつもりはない。この子は神に支配されていない。それどころか、優しくて勇気がある、良い子だと思う。


「はぁー……重いし、臭いわねコイツ……」


 更に遅れてやってきたのは、リーリアちゃんだ。リーリアちゃんは肩に王様を背負っていて、乱暴に地面にほっぽり出してかなりぞんざいに扱っている様子が窺える。放っておく訳にはいかないと、ウルスさんとリーリアちゃんが共同で運びながら私に付いて来ているんだけど、今はウルスさんが手を離したのでリーリアちゃんだけが彼を運んでいる状態。

 そんな様子を見ても、ウルスさんは娘優先だ。愛しい娘を、化け物から身を挺して守る父親。カッコイイ。


「安心して。その子は、神に支配されていない。だから食べない」

「だ、だが……貴女に攻撃してしまった……」

「別に、怒っていない。だから安心して」


 と言いつつ、私は触手を伸ばした。逃げようとしていた、男性。その男性を背後から襲って触手で食べ、亡き者とする。


「……クン」


 鼻をならして確認すると、臭いが消え去った。後に残るのは、美味しそうな人間の匂いだけ。どうやらこの町にはもう、神に支配された人がいないようだ。頑張った甲斐があった。


「今ので、最後。この町にはもう、神に支配された者はいない」

「う、ウル君……!」

「テスティ……」


 不安げに、ウルスさんに声をかけた女性。彼女の名前をウルスさんが呼び、なんとなく2人の関係が分かった。

 女性は、とても美味しそうな女性だ。優し気な表情と、柔らかそうな髪の毛は食べ応えがありそう。


「ど、どうしたの……?これは一体、何が起こっているの……?」

「っ……!」


 女性のその問いかけに対し、ウルスさんが女の子を手放して立ち上がった。そして女の子には女性の方へ行くようにと促し、自らは1人になったその状態で静かに周囲を見て、そして大きく息を吸った。


「皆、よく聞け!」


 声を張り上げ、ウルスさんが叫んだ。逃げ惑っていた人や、隠れていた人がその声に応えるように、視線をウルスさんへ向ける。


「この国は王と神の手先によって、神を信仰する国に作り変えられた!でもそれは全て、間違いだったんだ!神は人々の敵であり、人の命をなんとも思わないような連中だ!だが、このアリス様が神の支配から我々を救い出してくれた!この方が今皆の目の前で食べた人間たちは、神に支配されて神の意のままに動く人形と化した者だったんだ!この方は決して、意味もなく人間を食べたりしない!だから安心してくれ!」

「かっ、神を侮辱するな!」

「そうだ!神を侮辱する者は、神の声を聞いた者の手によって罰せられる!お前は死ぬんだ!」


 周囲の反応は、ウルスさんに対するブーイングだった。神に支配されていなくとも、神を信仰する者はいる。この国は長くにわたり神によって支配され、神を信仰するよう人々は強制されてきた。その名残が急になくなる訳がなく、人々は神を敵認定したウルスさんを糾弾する。

 しかし一向に、誰もウルスさんに手を出そうとはしない。それどころか糾弾する声は段々とやんでいき、やがて静まり返った。


「……先ほども言ったはずだ!神に支配された者はもういない!オレ達は、アリス様によって神の支配から解放されたんだ!もう何を恐れる事はない!神の悪口を言って、それだけで拷問されたり殺される事も、もうないんだよ!」


 ウルスさんはそう言いながら、リーリアちゃんが地面に放り投げていた王様を抱え起こした。


「王も、この通りだ!司祭は死んだ!王妃様も、この国を歪めた責任をアリス様にとらされ、死んだ!この国はもう、アスラ神仰国ではない!ギギルス国だ!オレ達は、自由だ!」

「……そ、そんな事を言って、後から殺されたりしないのか?本当に、オレはもう神を崇めなくていいのか?」

「そうだ!神はもうこの国に存在しない!」

「もう、毎日神に祈りを捧げなくていいのか?祈りを忘れて、拷問される事もないのか?」

「ない!」

「だ、だが!神は偉大だ!神を崇めるのはこの世界に存在する命の義務だ!」

「崇めるのは、勿論個人の自由だ。しかし人々を弾圧する神を崇める価値が、果たしてあるのか?だったらオレは、このアリス様に祈りを捧げる事をお勧めする。この方は我々にとって、神と変わらないくらい偉大な存在だ。何故なら、我々を神の支配から救ってくれたのだからな!」

「……」


 ウルスさんが声高にそう言うと、皆の注目が私に集まった。そして黙り込み、何かを考え込むような仕草を見せる。

 やがて、1人が私に向かって跪いた。するとそれが伝染したかのように、その周りの人々も私に向かって跪いて行く。この場に集まった人の数は、それほど多くはない。それでも皆が私に向かって跪くシーンは圧巻だった。

 怖がられるのもアレだけど、こうやって敬われるのもなんか嫌だな。まるで私が神にとってかわって人々を支配しているみたいじゃん。というかウルスさんが敬うように促したので、実際神様的な扱いとなってしまった。

 なんとかこの居心地の悪さを解消する方法はないものか……そう考えて、ひらめいた。


「私を敬う必要は、ない。貴方達が敬うべきは、この人。ウルス・ヘッグヴェル。彼は私の友達で……たった今、この国の新しい王になった男」

「……は?」


 私の発言に、人々が驚いている。一番驚いているのは、ウルスさん本人だね。

 まぁそう言う事だから、ウルスさんには頑張ってもらいたい。私も出来るだけ協力するからさ。出来るだけ、ね。


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