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人生何がおこるか分からない


 この部屋の入り口は、狭い。同時に入って来れるのはせいぜい10人程であり、入ったあとも狭い通路が続くので同時に相手をする事になる人数は限られる。というかむしろ、触手を伸ばして口をあけていれば勝手にそこに突っ込んできてくれるような状態だ。

 この部屋に足を踏み入れた者が、次々と私の触手の口の中へとおさまっていく。男、女、子供、年寄り、様々な年代の神に支配された者達が、容赦なく食べられる。入って来たと思ったその瞬間には、もう肉片も血も残らない。本当にそこにいたのかも怪しい。そんな勢いで食べていく。

 それを繰り返す事、ほんの数分だった。やがて人の勢いは失われて来て、最後に突っ込んで来た女性を食べて終了。先ほどまでの足音と地響きが嘘のように、シンと静まり返った。


 あー不味かった。本当に不味かった。全部不味いんだから、ホント嫌になっちゃう。


「……な、なにがおこったんだ?」


 戸惑いがちに、ウルスさんが尋ねて来る。


「全部、食べた」

「……」


 数で言うと、500人くらいかな。いや、もっとか。けっこうな規模の食事となった。それでも空腹で、満腹には程遠い。この身体は一体どうなっているのだろうか。


「はは。ホント、笑っちゃうくらいの食欲ね。太るわよ」

「太らない」


 そう思いたい。


「なっ、なに……一体何なのだコレは……。サラーシャ?サラーシャはどこだ?」


 壇上の王様が、四つ足で彷徨いながら周囲を見渡し、王妃様を探している。現実逃避で、おかしくなってしまったのだろうか。


「あ、アリス様。王は殺さないのか?」

「……この人は、神に支配されていない」

「支配されてもいないのに、この国を滅茶苦茶にしたのか……?この男は、一体何がしたいんだ!」

「ひぃ!なにをするのじゃ、ウルス。貴殿の父に頼んで、貴殿をしかってもらうからな」


 ウルスさんが怒りながら壇上を上り、王様の胸倉を掴んだ。そして乱暴にゆすると、王様は弱々しく抵抗はするものの大した抵抗は出来ない。

 本当に、この人はただの雑魚なのだ。


「父はとうに死んだ!お前が始めた無茶な戦争で前線に駆り出され、その戦争でだ!」

「知らぬ……。余は何も知らぬ。サラーシャはどこだ。サラーシャを呼ぶのだ」

「……」


 さすがに、様子がおかしい。その事に気づき、ウルスさんが彼の胸倉を掴む手の力を抜いた。


「ああ……そうじゃ、まだ薬を飲んでいない。薬の時間じゃ。サラーシャ、薬を持って来てくれ」

「薬……?」


 床を這う王様が、先ほどまで王妃様がいた場所を探って何かを探すような仕草を見せる。すると、クッションの下から何かをみつけてそれを掴み、目を輝かせた。

 すぐにウルスさんが取り上げて確認すると、それは透明な袋に入った何かの粉だった。


「か、返すのじゃ、ウルス。それは余の大切な薬。それを飲まなければ余は死んでしまう」

「なんだ、コレは。少し甘い匂いがする。何か……惹き付けられるようだ」

「返すのじゃ!返さんと、死罪に処すぞ!」

「……」


 王様の必死な様子を見て、ウルスさんはその粉が普通の物ではない事を察した。元の世界で言う所の、麻薬かなんかだろうか。何にしても、ろくなものではない。

 王様はそれを薬と呼び、飲んでいた。もしかしたらそれが原因でおかしくなってしまったのかもしれない。

 とりあえず、ウルスさんに絡んで薬を取り返そうとしている王様を触手で引きはがすと、そこにガオウサムをくらわしておいた。それにより麻痺して、王様はしばらく動く事が出来なくなる。


「ああ、くそっ。全ての元凶はやはりあの女だったのか……!」

「まだ確定した訳じゃない。でも、薬の事は調べる必要がある」

「……そうだな。あんたの言う通り、だ……なんか身体が光ってるぞ……?」

「……?」


 ウルスさんに言われて気が付いた。本当に、私の身体が光っている。この光には覚えがある。進化だ。今また、進化しようとしている。

 出来ればこの身体から変化したくなかったんだけど、進化は止まらない。光り輝いた身体は更に光を増し、私の身体の形を変えていく。

 やがて光が収まると、進化完了である。


「……」


 まず周囲の反応を窺うけど、無反応だ。


「あ、うー……」


 次に声を出してみると、声も出る。手もある。足もある。触手もある。でも若干服がきつくなった……?

 亜空間から鏡を取り出して顔を見てみる。すると、少し大人っぽくなった自分がそこにいた。更に、背が伸びて、胸も若干大きくなっている。背はまぁまぁ伸びたけど、胸は本当に若干だ。あとは髪が少し伸びたくらい?これまでと比べると、あまりにも変化の少ない進化である。


「それ、進化、よね……?」

「うん」

「少し、大人っぽくなったわね。へぇー……ふぅん……いいじゃない。可愛い」


 私の全体を見て、リーリアちゃんがそう感想を述べる。そして頭を撫でて子供扱いである。背が伸びたといっても、まだリーリアちゃんの方が大きいからね。ていうかこの子、デカすぎなんだよ。それでいてまだ成長途中なんだから、将来は巨人か何かかな。

 でもなんだか嬉しそうで、私も嬉しくなる。


「早速、服を選ばないといけないわね!サイズ、キツイでしょ!?」


 そして鼻息荒くして私にそう迫って来た。

 確かに服はキツイ。でもリーリアちゃんの着せ替え好き癖には不安しかない。妙に可愛い服を着せたがるからね、この子。


「たしかデサリットで、丁度良い服を買っておいたのよね。あんたの身体がいつ大きくなってもいいように揃えておいてあげたんだから、感謝してよね」


 なんか妙なサイズの服を買っていると思ったら、そういう事だったのか。準備良すぎでしょ。


「……ありがとう。じゃあ早速、何か適当に着替えたい」

「任せなさい!」


 リーリアちゃんが私に着せてくれた服は、これまでとは少しだけテイストが違う。

 黒色のワンピース型の服で、お腹から膝上まであるスカートは、個人的にだけど長さが丁度良い感じ。デザインとしては、ワンピースなんだけどスーツっぽい。ワンピースの下にはシャツを着てリボンを首元につけ、上に所々に金色の刺繍が施された胴体が短めのブレザーを着込んだらどこかの軍人さんのようになった。ちなみにこのブレザーにはしっかりとフードがついているので、かぶれば顔を隠せるようになっている。足には長めのブーツを履き、白いタイツも履いているので肌の露出は少な目なんだけど、背中側は大胆に開いている。そこから触手を出しておけて便利なんだけど、若干恥ずかしい。


「いいじゃない!めっちゃ可愛い!」


 そんな私の姿を見て、リーリアちゃんのテンションが上がっている。私としてはもっとこう……普通な服が良かったな。或いは自分じゃなくて別の誰かに着て欲しい。そしてそれを見て楽しみたい。


「も、もういいのか?」

「……いい」


 着替えてる最中、勿論ウルスさんと王様にはご退場してもらっていた。恐る恐る尋ねて来てそれに答えると、顔を覗かせてからウルスさんがその姿を現わす。

 そしてウルスさんが私の姿をまじまじと見つめて来た。


「どう?」

「あ、ああ。とてもよく似合ってると思う。それで、この後はどうするんだ?」

「……まだ、臭いがする。神に支配されている人が、町にいる。それを食べに行く」

「まだ、食べるのか……」


 ウルスさんが頭を抱えた。彼にとって、目の前で一瞬にして何百人もの人が私の触手によって食べられるシーンは、ショックだったのだろう。口に手を当て、ちょっと気分が悪そう。


「仕方がない。神に支配された人は、駆除しなければいけないから」

「……ああ。分かっている。王妃様も、司祭様も……全く普通じゃなかったからな。きっと、あんたが正しいんだろう」


 分かっているといいつつ、ウルスさんはどこか納得がいかない様子だ。もうこれ以上、人が食べられる所を見たくない。そう言っているように見える。でも私は止まらない。

 正直私は、神に支配される人々を見て怖くなってしまったのだ。アリスエデンの神殺しのような、神に支配された世界に、今この世界がなろうとしている。赤の他人がどうなろうと、私の知った事ではない。だけど、あの世界のようになるのは絶対に嫌だ。

 だから私は、止める。神がこの世界の支配者になろうとしているというなら、徹底的に邪魔してやろうじゃない。


「リーリア。私はこの世界を支配しようとする神様の邪魔をする事に決めた」


 私の決意を、リーリアちゃんに伝えておく。すると彼女はニヤリと笑った。


「へぇ、面白そう。あんたなら、神殺しくらい余裕で出来ちゃうかもね。この私があんたを倒すその日まで、私も付き合ってあげる」

「神殺し……」


 神殺し、か。別に神様を殺すまでいうつもりはなかったんだけど、邪魔をするという事はそういう事になるのかもしれない。

 気付けばナマコみたいな魔物としてこの世界にいて、そのナマコが神を殺そうとしている。ナマコから始まる神殺し、か。人生は何がおこるか分からないね。


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