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食べられる側


 おじいさんに斬りかかったリーリアちゃんの刀は、呆気なく弾かれた。弾いたのは透明なバリアのような壁である。

 恐らく、魔法によって作り出された物だ。


「はぁっ!」


 先ほどの一撃は、不意をつくための牽制的な一撃だった。今度は息をため、精神を集中させてから斬りかかる。でも、それも弾かれてしまう。

 そんなリーリアちゃんに、私に向かって伸ばされていたおじいさんの手が向けられた。まずはそちらからというつもりらしい。


 私に対して隙を作った罰としてそのバリアに触手を伸ばすと、私はバリアを食べさせてもらった。


「なに……!?」


 突然のバリア消失に、驚くおじいさん。そして再び私に手を向けて来る。

 そんな優柔不断じゃあ、どっちも攻撃できないよ。

 今度はリーリアちゃんに対して隙を作ったおじいさんに、リーリアちゃんが襲い掛かる。彼を守るバリアは私が食べてしまったので、彼の身を守る物はない。容赦のない斬撃が、よぼよぼのおじいさんに襲い掛かった。

 でもその刀を、おじいさんはのけぞってかわした。腰の骨が折れているのではないか。そう思ってしまう程にのけぞったんだけど、刀が通り過ぎると元に戻った。

 その代わり、魔法を発動させようとしていた腕はさげられて魔法を中断させる事に成功。魔法を発動させないよう、リーリアちゃんが連続で攻撃を繰り出すけど、その攻撃も当たらない。普通なら、目で追うのも難しいくらいの攻撃。その攻撃を、おじいさんはおじいさんと思えない運動神経で全てをかわして見せ、さすがにリーリアちゃんも気づいて来たようだ。相手が、格上だと言う事に。


「偉大なる神に逆らいし愚か者ども。神の鉄槌を──」


 おじいさんがリーリアちゃんの攻撃を避けながら何か喋っていたけど、突然その首がなくなった。私の触手が襲い掛かり、食べてしまったせいだ。残った身体にも触手が群がると、跡形もなく消えておしまい。

 そしてやっぱり、めちゃくちゃ不味い。


「……今の奴、やっぱりヤバイ奴だったのね。殺気も凄かったし、命の危険も感じたわ……」

「うん。あのまま戦っていたら、負けていたのはリーリア」

「分かってるから、ハッキリ言わないで」

「司祭はどこへ行ったのだ……?」


 私の食事は、一瞬だった。何も目で見る事ができなかった王様が、冷や汗を額から垂らしながら誰にでもなくそう尋ねる。


「私が、食べた」

「っ……!」


 私が答えてあげると、王様の表情から余裕がなくなった。司祭は彼にとって、頼れる護衛だったはずだ。あんなにレベルが高かったんだから、それはそれは頼りになったに違いない。

 でもその護衛が、あまりにも呆気なくいなくなってしまったのだ。慌てるのも無理はない。同時に恐怖心を抱き始めている。ようやく、普通の人間らしい反応を見せてくれたね。


「──や、やめましょう、アリス様。私達が争う理由などありませんわ。共に魔族を倒すために手を取り合いましょう」


 王妃様がクッションの上から立ち上がり、その顔を隠すベールを脱ぎ捨てた。

 ベールの下に隠されていたその顔は、噂に違わぬ美人さんだ。鼻が高く、しゅっと整った頬。赤色のアイラインによって目がくっきりとしていて、長い睫毛も特徴的。大人っぽく、とても素敵な人だと思う。

 かといって、容赦するつもりはない。


「私は、目の前の神様関連の人を見逃さない。さっきも言ったはず」

「……──次から次へと、我等神の邪魔をする者ばかり現れおって。貴様も、魔王もっ!何者も、神の支配から逃れる事はできん!いや、そもそも逃れようとする事自体が間違いだと何故分からんのだ!」


 突然、王妃様の口調が変わった。

 同じような変化を見せた人物を、私は知っている。


 名前:サラーシャ・グラスニュート 種族:神の使い

 Lv :1777   状態:精神崩壊

 HP:24343  MP:27719


 勇者パーティの弓の子以来、2度目の神の使いさん登場である。

 まぁ始めから分かっていたんだけどね。ステータスも確認していたし、それにこの部屋の臭さは、おじいさんや他の神様関連の人の比ではない。この密室の中で特に濃い臭いが充満していて、ずっとイライラしていたんだ。

 あえて触れずに放置していたんだけど、いざボロが出ると弓の子と同じような反応──喋り方で、同一人物ですかと問いたくなる。


「黙っていたら支配されるというのに、黙る人がどこにいるの」

「黙れ、黙れ黙れぇ!……ふぅ」


 あれだけ取り乱していた王妃様が、突然息を吐いて落ち着きを取り戻した。


「さ、サラーシャ」

「ご心配なさらないで、あなた。ここは私達の根城。この、神に逆らいし愚か者達にとっては敵地のど真ん中なのですよ。命がないのは私達ではなく、あちらの方……」


 そういえば、弓の子には隙を見せて危うく消滅させられそうになったんだっけ。同じ過ちを繰り返すつもりはない。余裕を見せると言う事は、何か手があると言う事。その手を使わせる前に、全てを終わらせよう。

 そう考えながら王様と王妃様の方へ向かって一歩進んだ時だった。


「……」


 私は異変に気付き、その足を止めた。

 そして集中して気配を探ってみると、やはりそうだ。このお城に、かなりの数の人が押し寄せてきている。


「気付いたようですね。彼らは神の声を聞き、駆け付けたのです。目的は、神に対して不敬なる貴女達を殺す事」

「……アリス、この音」


 たくさんの人が押し寄せて来る足音と、地響きでリーリアちゃんも気が付いた。不安げに私に寄って来て、この音の原因を尋ねて来る。


「このお城に……この場所を目指して、この町中の神に支配された人々がやって来た。目的は、私を殺す事」

「へ、平気なの?凄い音だけど……」

「大丈夫。むしろ向こうからやって来てくれるんだから、助かる。でも危ないから私の傍を離れないようにして」

「了解……」

「構えても無駄ですよ。神の信徒たちの手により、貴方達は殺されるのです。泣いても喚いても、死んでも彼らの怒りは止まりません。神の声を聞き、神に貴方達を殺せと命じられた彼らは、貴方達が肉片となるまでその攻撃を止める事はないでしょう。彼らの……神の怒りをかったこと、死んで償いなさい」

「ほ、ほほ。サラーシャの言う通りじゃ。神を怒らせたことを後悔するが良いぞ。のう、サラーシャ」

「ええ、本当に──」


 外野がうるさいな。まぁ、神の信徒とやらがここへとやってくるまでまだ時間がある。先に、一番厄介そうなのを処分しておこう。

 私は触手を伸ばし、壇上で余裕こいている王妃様を食べようとした。けど、避けられた。避けられたと言っても、食べる事には成功したよ。彼女の胸から下あたりを触手が通り抜けてその個所を食べ、彼女は二つに分離してしまったのだ。


「ひ、ひいいいぃぃ!」


 王妃様の分離した上半身が、王様の膝の上に落ちた。その上半身を王様は手で払いのけ、払いのけられた上半身が壇上から転げ落ちて床に転がった。


「ふ、ふはははは!無駄じゃ!無駄だぞ、魔物!」


 本来であれば身体が分離して話すなんて、人間には不可能な芸当だ。でも王妃様は元気そうに喋り出したんだからビックリだよ。


「キモッ」


 それを見て、リーリアちゃんが辛辣な感想を述べている。いや、私も全く同感だ。気持ちわるっ。

 でも、避けられたのはちょっとショックだったな。さすが、けっこうな高レベルなだけあって反応速度が違う。


「こうなればこの入れ物の命を投げ出し、貴様に──」


 その言葉は途中で遮られた。彼女の頭がなくなったからだ。更に、残った上半身と下半身も、同時に食べて処分しておいた。先程も言ったけど、同じ過ちを犯すつもりはない。何か手を隠していそうだったから、何かされるまえに手をうったのだ。


 そしてこれ、くっそ不味い。あんなに美味しそうだったのに、本当に不味い。久々に、アレいっておこうか。


 ──おえええぇえぇぇえっぇぇぇ。


 心の中で吐いておいた。それ程までに、不味かった。不味さにある程度耐性がついてきたと思うんだけど、耐えられる不味さじゃなかったんだよ。


 さて。そうこうしている内に、神に支配された人々が辿り着いたようだ。この部屋の重厚な扉が、勢いよく叩かれて大きな音をたてだしている。

 そして扉が開かれた。開かれたと言うより、破壊されたと言う方が正しいか。扉がひんまがり、固定が外れて床に転がったから。

 入口を塞いでいた物がなくなると、我先にと大勢の人が突撃してきた。その光景は、まるで生者に襲い掛かるゾンビのようだ。


 ゾンビと違うのは、あちらが食べられる側だと言う事。


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