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積年の恨み


 声の持ち主は、奥の台座の上のクッションの上で寝転がって寛いでいた。頭をハゲ散らかした、初老の男である。背は凄く小さい。でもデブで、かなり良い物をたらふく食べているんだろうなと思う。

 でもその姿は、まさしく王様の姿ともいえる。愚か系のね。デサリットの王様と比べると、また一段とバカっぽくて面白い。

 でももしかしたらデサリットの王様みたいに、ちゃんと話せば面白くて、国民のためを想っている凄い人かもしれない。だから、あまり悪口を言うのはやめておこう。いや、もう遅いか。


 その王様の隣には、ベールで顔を隠した女性がいる。胸元が大胆に開き、王様と同じくクッションの上に座り込み、スリットから美しい太ももを覗かせているセクシーな女性だ。

 こっちが、王妃様だね。なんていうか、溢れ出る女の色気が凄い人だ。でも私が期待していた美しさとは少し違う。カトレアのような、上品な美しさを期待してたんだけどね。こっちは下品っていう訳じゃないけど、セクシー系の美しさで私が好きなものじゃなさそう。残念。


「……」


 2人のおひざ元へと歩いて辿り着くと、後ろの方でまた何かを引き摺る音がした。振り返ると、おじいさんが扉を閉めている。重厚な扉を閉められると、なんていうか閉じ込められたみたいで緊張感があるね。

 ま、私からしてみたらあんな扉ちょちょいのちょいですよ。


「此度はウルスの活躍により、デサリットから援軍を迎え入れる事が出来たようだな。まことにご苦労であったぞ」

「はっ!もったいなきお言葉、ありがとうございます……」


 ウルスさんは王様に向かって跪き、深々と頭を下げている。

 私とリーリアちゃん、そしておじいさんは突っ立っているだけだ。この反応の差はなんだかなと思う。


「しかしまさか、デサリットから援軍が来るとはな。思いもしなかった事態だ。しかし余は嬉しく思うぞ。こうして、先の戦いで争った我らを救いに来るとは、誠に殊勝な事。神もまた、とても喜んでいる事だろう。なぁ、サラーシャよ」

「ええ、違いありません。しかしコレもまた、我らが崇めるアスラ様が示した運命なのです」

「ほほ。そうであったな。うむ。皆の者、ご苦労であった。もう下がって良いぞ」

「──ちょっと待った」


 勝手に話を切り上げようとした王様に、私は食い下がる。

 私達がわざわざこの国へとやってきた事が、神の示した運命だとか、救いに来たとか勝手な解釈に対しても言いたい事はある。でも今はそういうのに突っ込むつもりはない。何よりも今は、報酬を貰わなければいけない。もういい加減、この臭いにイライラして来た所でね。さっさと済ましたい。


「どうしたのじゃ、アリス殿」

「恐れながら、王よ。この者達は報酬を欲しているようです。ヘッグヴェルが報酬を受け入れる事を条件に、この国への援軍に駆けつける事を了承したのだとか」

「報酬?神の意思に対し、報酬を求めるのか?なんとも不思議だのう。なぁサラーシャよ」

「ええ、そうねあなた。でもこの者達は恐らく、神の素晴らしさを知らないだけなのでしょう。無知なる者に神の意思を説いても仕方がないわ。……そうだ、あなた。この方たちに、神の素晴らしさを教えて差し上げたらどうでしょう」

「おお、それはいいな。報酬は、それでよいか、アリス殿。リーリア殿よ」


 報酬が、神の教え?冗談ではない。でもこの人たちは本気で言っている。

 自分たちが信じる物が素晴らしいと思い込むのは構わない。でもそんな物を報酬として他人に押し付けるのはどうかと思う。

 というかいちいち王妃様に聞かないでよ。その行動も、なんだかバカップルを前にしているようでイラっとする。


「あ、アリス様は……この国の人間の命を欲しています」


 意を決して私が望んだ報酬を口にしたのは、ウルスさんだ。王様に向かって頭を下げたまま、私が望む物を口にしてくれた。

 さて、この人たちは私の願いを聞いて、どんな反応を示すのだろうか。やっぱり一斉に怖がったりするのだろうか。


「──命、命か。どう思う、サラーシャ」

「良いのではないでしょうか。して、いかほど用意すれば?十人?それとも百人?」


 それは、予想外の反応だった。王様も、王妃様も、自分の国の民をなんとも想っていない。だから私の要求を平然と受け入れ、数の提案までしてくる。


 デサリットでも、カトレアが突然私に国民の命を捧げようと発言してきた。でもアレは本気ではなく、たぶん彼女は私が断るのを分かっていてそう発言したのだと思う。


 でもこの人たちは違う。本気で言っている。さも当然のように私の要求を受け入れ、当然のように国民の命を差し出そうとする2人に、驚きよりも先に呆れが先にやってきた。


「お、恐れながら、王よ!民の命を捧げても、本当に良いのですか!?」

「よい、よい。神に対する敬意をかきながらこの国に住まう者は、害悪に他ならん。そんな害悪ならいくらでも捧げよう。例えば……そう。ウルス。貴様のように神に対する信仰を欠いた者であれば、喜んで魔物の餌として与えようではないか」

「なっ、何の事でしょうかっ……?」

「ほほ。神は信仰なき者を全てお見通しだぞ。なぁ、サラーシャよ」

「ええ。だから援軍をくれる可能性の最も低いデサリットに送り出したのだけど……意外にも、殺されるどころか本当に援軍を連れて来てしまった。しかもクァルダウラを倒して町の包囲を解いてしまうなんて、その働きは本当にお見事。だから神にお仕えする喜びを教えてあげようと思っていたのだけど……勝手にそんな約束を取り付けた罰として、貴方を魔物の餌にする事にしましょう」

「っ!」


 ウルスさんは、悔し気に歯を食いしばった。この国の人間を、いとも簡単に私に捧げようとする王様。ましてや頑張って援軍を連れて来たウルスさんを、労うどころか私に殺させようと笑う彼に対し、積年の恨みが今爆発しようとしている。

 ウルスさんが、腰につけた剣に手をかけた。そしてその剣を抜いて王様に襲い掛かろうとする。

 でも私は止めさせた。触手で彼の手と足を絡めとって動けないようにする形で。


「何故、止める……!今が、チャンスなのだ!護衛なき今、この愚か者を殺すチャンスは今しかないっ!」


 彼の気持ちはよく分かる。でも、護衛がないと言うのは大きな間違いで、もし彼が王様に襲い掛かったら次の瞬間死ぬのはウルスさんだ。

 だから私は、止めた。決して王様を庇った訳ではない。


「……私が望んでいるのは、確かにこの国の人間を食べる事。でも食べる人間は、こちらで選ばせてもらう」

「選ばれるのはさすがに困ります。が、一応選出基準を聞いておきましょう」


 王妃様が笑いながら尋ねて来た。釣られるように、王様も笑っている。


「私はとある事情で、神という存在が凄く嫌い。臭いし、人を家畜のように扱う彼らを、嫌悪している。だから、この国の神に支配されている人々を、一人残らず食べて殺す」

「……」


 しかし私の台詞を聞き、それまで笑っていた王様と王妃様の表情が凍り付いた。

 更に同時に、私達の後方。おじいさんから凄まじい殺気が放たれる。

 私の言葉が、彼らの怒りを買ったのだ。


「……神に支配されている、というのは違います。人々が神を信仰し、神に導かれて生活しているのです」

「嘘はいい。私の目には、全てが見える。神の支配下にある人は神に命令されれば、どんな事でもする。例え愛する者の命でも奪ってしまうほどに妄信になる。神はそれを見て笑う。人々を争わせ、どちらが勝つかというゲームをする事もある。私の知る神は、人よりも醜い存在。だからとりあえず、私の前にいる神に支配された人は食べる。元々この町からは神様関連の人を排除するつもりだったけど……今そう決めた」


 そう決意表明をした時だった。私の背後にいるおじいさんが私に手を向け、そこに魔力を集中。魔法を放とうとしてくる。

 そんな彼の行動に、リーリアちゃんが素早く反応した。彼女は刀を抜いて魔法を発動させようとするおじいさんに斬りかかろうとしている。


 まぁ、私の要求が素直に通るとは思っていなかった……のだけど、そっちは通っちゃったんだよね。でも元々争って手に入れるつもりの報酬だったので、想定通りと言えば想定通りである。


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